第一話「圏外vs最下位」
瞼の裏に、顔も名前もわからない"君"が浮かんできた。にもかかわらず、俺は"君"に好意を抱いているみたいだ。存在しているかも、人間かもわからない"君"に対して。
「ねぇ、君はなんで瞳が二つあるの?」
"君"は俺に話しかけてきた。
「"君"もそうだろ?」
「数じゃなくて、種類のこと」
「だとしても、何を言っているのかわからないよ」
"君"は俺の目を潰すように、二本の指を突き立ててきた。
「持ち主に自覚症状はない、と。…もうすぐ目覚めだな。また会おう」
アラームとともに、俺、七々億 申の瞳は開かれた。
夢にしてはリアルすぎたな。
俺は指を突きつけられた二つの瞳の所在を確認した。
「あなたがうちの対戦相手ですネ」
夢のことに気を取られていたが、周囲を確認すると、越してきたはずの自分の部屋ではなかった。白一色に囲まれた、体積およそ教室ほどの空間が広がっていた。
声の主は、凛々しい顔つきで、俺を見つめている。
「準備はいいですネ?」
「準備?」
状況を理解できていない俺を置き去りに、何かを始めようとしている。
「寝起きのようですし、顔を洗ったり、ご飯を食べたり…」
彼女は何かを思いついたかのように、話を遮った。
「って、イロコイザタが終わるまでは出られないんでしたー!」
ハツネは自身にツッコミを入れた。
「イロコイザタ?」
「…?寝ぼけているようですが、うちのリミットが限界を迎える前に終わらせなければばばば…」
なぜか彼女は戦闘態勢に入った。それと同時に、ギュルルルルゥ…と、唸りが聞こえてきた。
「は、はは、は、始めますヨ」
彼女は慌てた様子で、何かを始めるみたいだ。
「来いと言われたら…」
またよくわからないことを言い始めたのかと思えば、蝋人形のように固まって動かなくなってしまった。どうしていいのかわからない俺はもちろん何も動けない。
二人の間だけ、時間が止まっているようだ。
痺れを切らしたかのように、先ほどのよりも大きな唸りが鳴ると、彼女は口を開いた。
「…会いに行く!も、もう、ノリが悪い方ですネ」
セリフがきっかけとなり、彼女は突然、こっちに向かって走ってくる。
「は?いきなり何!」
危険を察知して、俺は金色に輝く長髪を揺らして走ってくる彼女から逃げ出した。
「そうやって、逃げて、逃げて、だからいつまで経っても圏外なんですヨ」
寝起きの体は、足枷をつけられたように重たい。足がうまく回らない俺のすぐ後ろに彼女が迫り、追いつかれ、追い抜かれ、正面に回られた。
彼女は長いまつ毛を備えた瞳で睨みつけ、口角を上げていた。
「うちもやっと、初勝利…ネ!」
左足を軸に体を回転させて、うちはつま先を彼のこめかみに直撃させた。蹴りをお見舞いするたび、ひらひらと舞うスカートから水玉のパンツが顔を出してしまうことを、うちはまた忘れていた。
うちはそれに気づいてから、慌てて、高々と上げた足を地面に叩きつけるように、振り下ろそうとした。だけど、うちの足は彼の肩に止められてしまった。
パンツを見られたことへの恥じらいを忘れて、うちは驚いた。
「ど、どうして?」
こめかみに直撃させたはずなのに、まるで喰らっていないし、二メートルの高さから振り下ろした踵落としも、効いていないどころか、あっさり止められてしまうなんて。
「あなた、何者?」
俺は表情ひとつ変えられず、ただただ彼女のパンツを凝視していた。
あっぶねー。なんか助かってるけど、あの蹴りはなんだ。あの速さはなんだ。人間を装ったバケモンなのか?
あまりの速さに俺は何ひとつ対応できなかった。
脳はこれをケンカだと判断した。
女の子相手だが、ちょっとやってみるか。このまま、逃げてばかりなのも嫌だしな。あの頃は拳を交えてたし、なんとかなるだろ。
俺は肩に乗せられた足を下ろすと、彼女は距離を取るように下がっていった。
「よくわかんないけど、やられっぱなしなのは気にくわねぇ。やっと目が覚めてきたし、飯食いてぇし、やってやるよ、ケンカ」
「ケンカ?」
「え、違うの?」
「違いますよ。これは…」
俺は彼女の言葉を遮るように口を開く。
「まぁ、なんでもいいや。とりあえず、倒して勝ちゃいいんだろ?」
俺は走り出し、距離を詰めながら、守りを固める彼女の甘い部分を探し始めた。
「見っけ」
両手で顔をガチガチに守っていたが、俺はそんな彼女の甘い部分を見逃さない。いや、嗅ぎ逃さなかった。
逃げればいいものの…
甘い香りのするその箇所をロックオンして、手を伸ばす。そして、俺は布を掴んで、大袈裟にめくり上げた。
てっきり殴りや蹴りで顔を狙われると思っていたのか、彼女は叫び声とともに俺の頬に膝蹴りをかましてきやがった。その勢いのままぶっ飛ばされることに。
彼女は恥ずかしさと嬉しさが入り混じった表情で佇んでいた。
意識が朦朧とする中、勝負がついたからなのか、白い空間は俺の部屋へと変わった。
「では、私は先に行ってますネ」
彼女が部屋を出ようとして、俺の脳はフル回転で状況整理を始めた。
「ちょっと待った!」
その結果、こうしちゃいられないと判断し、体は一瞬で元気を取り戻した。
彼女は振り返って、頭上にクエスチョンマークを浮かべたような顔をしている。
「あんたは、どこの誰なんだ?そんで、なんで俺の部屋に?」
彼女は思い出すように視線を斜め上へ飛ばしてから口を開く。
「うちは求被道高校二年1組の分乃 ハツネです。対戦時間になっても、所定の場所にいなかったので、家まで来たのですが、ベルをいくら鳴らしても出てこなかったので、勝手に入っちゃいました。鍵もかかっていませんでしたしネ。テヘッ」
「テヘッ、じゃないわ!勝手に入ったらダメだろ。…ん、聞き間違いかもしれないから聞くが、対戦時間とか、所定の場所とか言ってたか?」
「はい。それがどうかしました?」
「そんなの、聞いてないんだけど…」
二人は時が止まったように固まった。
「えと、あなたのことを聞いてもいいですか?」
「俺は今日から求被道高校に転入することになった、七々億 申だ」
「学年は?」
「二年」
「な〜〜〜〜〜んだ!」
ハツネは肩から緊張という重荷を下ろして安堵の表情を浮かべた。
「先輩かと思ってたヨ。だって、身長は高いし、清潔感ないし、パンツ見てくるし、感情読めないし、あとちょっと口臭が…」
ハツネは見せるように鼻をつまむ。
「いや、寝起きだから仕方ないだろ。いいから早く俺があんたと何をする予定だったのか、さっきのケンカは何だったのか教えてくれ…」
部屋を出ようとしていたハツネは、俯いた顔で俺の元へゆっくりと歩み寄ってくる。
「ハ・ツ・ネ!」
俺の顔を見上げつつ、申の胸あたりを軽く触れられ、そう呼んで欲しそうに、ハツネは極上の笑顔で呟いた。
柔らかく震えるその唇に飲み込まれてしまいそうだ。
「さ、時間ないから早く行くヨ」
ハツネの切り替えはチーターのように早く、そう言い残して颯爽と部屋から出て行った。
時計を見ると、朝礼まで十分を切っていた。
えーと、ここから歩いて、いや、走って一分。準備は五分で十分。よし、間に合う!間に合うぞ!
***
「えー、朝礼を始めるぞー。実は今日から転入生が来る予定なの、だ、が…まだ来てないみたいだ。その時になったら紹介するから、そのつもりでなー」
転入生の来訪と遅刻の知らせで教室内はざわつき始めた。
案の定、遅刻か。
転入生が誰だか知っているうちは、空を泳ぐ雲を観察していた。
ネズミ、ウシ、ウサギ、いや、トラ?
ふと気配を感じて、後方の扉を見ると、静かに、ゆっくりと、身を低くして入ってこようとしている申がいた。
うちは申に微笑んでから、先生に声をかけることにした。
ハツネが気づいてくれてよかった…なんとか誤魔化してくれる…
「先生!転入生くんが来ました!」
めっちゃ正直っ!!
ハツネは教室内の全員の視線を俺に向けるように、指を差してきた。
初めてワックスをつけたし、焦ってカッターシャツのボタンは一つずつずれてるし、ネクタイはそれっぽくしたものの、ちゃんとは結べていないし。
恥ずかしさのあまり、勢いよく扉を閉めた。俺はトイレに駆け込み、髪を流して、ボタンを直して、ネクタイを外してから、前方の扉からゆっくり入った。
あくまで堂々と、何事もなかったかのように。
教室内の全員の視線を背に感じながら、チョークで黒板に名前をでかでかと書く。
「七々億 申です。転入してきました。元々、学ランだったので、ネクタイの結び方わかりません。教えてくれると嬉しいです。よろしくお願いします」
「と、いうことだ」
先生のその一言でまとめ上げられ、教室内の静寂はざわつきへと姿を変えた。
「よろしくー!」
「ネクタイあとで教えてやるよー」
「ついでにワックスもなー」
指示された席へ向かう途中、色んな声をかけられたが、歓迎されているようで嬉しかった。
「うちは好きだったな。あの髪型」
隣の席のハツネは小馬鹿にするように話しかけてきた。
「んだよ。今朝のこと教えてくれなかったし、さっきも注目集めてくれやがって」
「時間なかったし、それに、インパクト強いほうが良くない?恋愛も第一印象が大事じゃん?」
それはそれで一理あるが…やり方ってもんがあるだろ。
俺はカバンから必要なものを取り出すと、社会を拒むように、すぐに机に顔を伏せた。
ハツネは俺に対してちょっかいをかけてこようとしていたが、近づくクラスメイトの存在に気づき、そっと手を引いた。
「七々億くん、だよね。どこから来たの?」
男子生徒二人、女子生徒一人がやってきて、女子が最初に声をかけてきた。俺は三人の顔を見上げた。
「あ、えーと、田舎の学校だから、知らないと思うな」
「そうなのね」
突然話しかけられ、咄嗟に出てきた言葉は、意味もなく、はぐらかしてしまう形になった。
「私、実葉 ショウ。それで、隣の子が剛田 醍醐くん。そのまた隣が…」
醍醐が会釈して、実葉さんが三人目の男子生徒を紹介しようとしていたのだが…
「求被道の門をくぐらば、身を清めよ。容姿を整えるのは、基本中の基本だ」
三人目の男子生徒は俺のネクタイを結び、ポケットから取り出したワックスで髪を整えてくれた。
「俺の名は飛立 卯。クラス委員長をやらせてもらっている」
卯は自分のネクタイを上げて言った。
「飛立くんは生徒会役員でもあるんだよ」
だからきっちりしているのか。
「あ、ありがとな」
卯は満足気に席へ戻って行った。
「申くん!ぜひ、僕と友達に…!」
醍醐は俺の手を握り、つぶらな瞳で見つめてきた。
「う、うん、いいよ。仲良くしような」
醍醐は小さくガッツポーズをしていた。
***
学期始まりということで、生徒は体育館に集められた。俺の頭では校長の長い話、各委員会とか、生徒会とか、生徒指導からの連絡という退屈な時間が流れるものだと思っていた。
そんな俺とは裏腹に、周囲の生徒は高揚しているようだった。
集会ってそんな楽しいもんか?
「校長先生、お話の方お願いします」
「えー、秋が顔を出しますね。えー、恋愛の秋ですね。えー、以上。うー、風邪には気をつけて」
「ありがとうございました」
みじかっ!
「各委員会からの連絡はないとのことなので、生徒会からの連絡になります」
もしかして、これが本来の集会?前の学校が長すぎたとか?
それと、気づいていなかっただけかもしれないが、なにやらヒソヒソ話も聞こえてくる。
生徒会長、生徒会副会長が壇上へ上がる。堂々と歩く様は勇ましく、輝かしく、体育館中の視線を会長が独占していた。
後ろに続く副会長だけが、彼に視線を送っていなかった。
会長がマイクの前で一礼をした。
「静粛に」
その一言で、館内は無言に包まれた。
「気持ちが高まるのは仕方ないが、それでは心身ともに持たなくなってしまうぞ。早速だが、私、会長である神武 辰ではなく、副会長の蜷局 カガミより、開催の宣言をしてもらう」
何が始まるってんだ?
申は話の核を掴めないまま、会長と副会長が入れ替わった。館内の視線が副会長に移る。
「副会長の蜷局 カガミだ。明後日、九月三日より"好一対"の開催をここに宣言する」
なんだ?このざわつきは…?
静まり返ったはずの館内は副会長の開催宣言で、歓声に変わっていた。
何が起きたのかも、何が起きるのかもわかっていない俺は歓声に取り残されていた。
そこで集会は終わり、生徒は解散となった。
俺は今朝のことを詳しく、事細かに、説明してもらうために帰り際、ハツネをつかまえた。
「まず"イロコイザタ"は知ってるよネ?」
ハツネが説明を始めた。
問いに対し、首を横に振った。
「え、知らない人初めて見たヨ…」
大袈裟に驚いてきたハツネを、俺は静かに見つめた。
知らないもんは知らん!
「今朝、うちと申がやったのがイロコイザタ。国のお偉いさんが少子化やばい!って導入したものらしいヨ。簡単に言えばケンカなんだけどネ。恋愛感情が高ければ高いほど強くなる仕組みで、強くなるには恋愛感情を強く抱く必要があるの。そうしたら誰かを好きになるでしょ?誰かを好きになれば、最終的に少子化の阻止につながるという、理にかなった政策なの」
そんなこと、今まで知らなかった。少しも耳に入ってこなかった。それもそのはず、田舎で育ってきた俺は、都会の人を心のどこかで嫌っていた。情報すら遮断するほどに。
俺が住んでいた地域でも、少子化は問題視されていたし、良い策だと思う。
「あ、だから、申は圏外だったのネ」
ハツネは立ち止まって言った。
「どういうこと?」
「イロコイザタってネ、順位がつけられるの。定期テストみたいにネ。四月から八月の一クールを個人戦、九月から十二月の二クールをタッグ戦、一月から三月までの三クールを生徒会選挙として区分されて、各クールでの順位が出るの。今朝のイロコイザタが個人の最終戦で、最下位のうちは圏外の申と戦うことになったの。順位の近い者同士で組まれるからネ。おかげで、初勝利、初の最下位脱出ができたってわけ!」
ハツネはピースサインを見せつけてきた。
「つまり、今年の一クール最下位って…」
「申だヨ!」
まさか、まさかあのケンカに意味があったなんて。イロコイザタについて知っていれば、都会の情報を遮断していなければ、こんなことにはならなかった。
母ちゃんの言ってた通り、情報は大事だったよ。ほんの少しでも知っていれば、少なくとも、ハツネの下に位を置くことはなかったろうに。
「あ、そうだ」
再び歩き始めて、俺は集会のことを思い出して口を開いた。
「副会長が言ってた、好一対ってのは?」
本当に何も知らないんだね、と言いたげな顔をしてくるな。
「好一対はタッグ戦の別称だネ。二人一組、男女のタッグになって戦うの。イロコイザタが始まって、恋愛が発展してから校内はタッグだらけ。だから、好一対の宣言であんなに盛り上がってたの。うちらのタッグの方がラブラブ〜とか、強い〜とか、証明できるしネ。ほら、今朝、申のとこに来た醍醐とショウもタッグだヨ」
「ハツネは…いないのか?」
少し間が空いてから、ハツネは髪を耳にかけながら答える。
「…うん、まぁ」
突如として、会話のテンポが失われた。
「聞かない方がいいか?」
ハツネがスカートを軽く握るのを見て、話題を変えようと、話題を探した。
「そ、そう言えば、今朝、ハツネに蹴り飛ばされたけど、痛みがないのはどんな仕組みなんだ?」
ハツネは耳にかけた髪を流してから答えてくれた。
「あ、えーと、それはあの白い空間が関係していてネ。対戦相手と居合わせると、身体は純白教場と呼ばれる、仮想空間に飛ばされるの。仮想空間ではどれだけダメージを負っても、現実に戻ればなんともなくなる。それと、教室の大きさで作られてるのは、恋愛感情を引き出しすためらしいヨ…」
説明してくれていたが、タッグの話をしてからハツネは元気を失っていた。
全部が全部を説明してもらってはないが、ちょうど俺の家に着いたということで、話は一旦幕を閉じた。
翌日、俺は落ち着いて朝の支度を済ませた。ワックスをつけ、ネクタイを結び、ボタンのつけ間違いに気をつけ、遅刻することもなかった。
席に着くと、すでにハツネは登校していた。
「おはよう」
「ん、おはよう」
ハツネは本を読んだまま挨拶を返してきた。
「そうだ!」
集中していたと思いきや、急に本を閉じて、ハツネは立ち上がった。
「昨日言い忘れてたんだけど、実は今日、感情測定があるんだった」
「感情測定?」
またもや知らない言葉だ。俺がどれだけ狭い世界で生きてきたのか、この二日で思い知らされていた。
「イロコイザタにおいて、強さと直結する恋愛感情をどれくらい持っているのか、数字として表すの。ちなみに、恋愛感情のことをみんなはイロコイって呼んでるヨ」
「測定ってどうやるんだ?」
「質問に答えるだけだヨ」
「そんなんで正確に測定できるのか?」
「ちゃんとしたやつを使ってるみたいだけど、まぁ、あくまで数値化することで、対戦カードを組む時に参考にするものだしネ。正確なイロコイは対戦が一クール終わってから決まるんだヨ」
「へー、じゃあ、参考にハツネの一クール目のを教えてよ」
「そう言われると思って、用意しておいたんだ」
ハツネは俺に対して正面を向き、シャツのボタンを一つ、二つ開ける。下着が見えそうで見えないものの、二つの風船に挟まれたメモを見せつけてきた。
「知りたいなら、見たいなら、取ってみて」
クスリと鼻で笑い、ゆっくりとメモ目がけて俺は右手を伸ばした。
「あっ」
わざとらしく、左手で右手をはたいた。その結果、右手は風船に何度か跳ねる形となった。
俺の恥じらう姿を見るつもりだったのか、思いもよらぬ行動に対して、ハツネは露わにしていた風船を勢いよくしまい込んだ。それと同時に、挟まれていたメモがひらひらと舞い、床に落ちる。俺はそれを拾い上げた。
「分乃 ハツネ イロコイ:1」
ハツネは手元が焦って、うまくボタンを閉められないでいる。俺に見られると思っていなかったのだろう。
「これって、いくつ中の1なんだ?」
「あ、えーとネ、100…だったかな、よく覚えてないや、あはは」
100のうちの1か。そりゃ最下位だな。でも、イロコイと強さが比例するのに、1であの強さなら、上位はどんなやつらなんだ?
「今日は感情測定だからなー。順番に向かうように」
いきなり扉が開き、先生が顔を出してそう言うと、すぐに引っ込めて出て行った。
クラスの人が次々と立ち上がり、教室を出て行く。
ハツネも席を立った。
「うちたちも行こっか」
ハツネに連れられ、保健室に向かった。
身体測定はしてきたが、感情測定はどのように行われるのか、俺は好奇心に駆られていた。
だが、実際は並べられたベッドに横たわり、担当からの質問に答えるだけのようだ。
「それでは、目を閉じてください」
担当に言われ、目を閉じる。
「これから26の質問をするので、それに対して強く思えば5、全くそう思わなければ1を、指で示してください」
「わかりました」
質問多いな…
「では、始めます。質問内の〇〇さんは、あなたの瞼の裏に映った人を当てはめてください。では、一問目…」
瞼の裏…には夢に出てきた、"君"が映っていた。
俺は担当からの質問に淡々と答えていき、終わる頃には"君"はいなくなっていた。
目を開けると、これでもかと言うほどに眩しく感じた。
結果の紙を受け取り、保健室を後にする。
廊下には結果の紙を見つめるハツネがいた。
「どうだった?」
「どうだったって聞かれても…」
俺に気づいたハツネは、結果の紙を取り上げ、見始めた。俺もまだ見ていないのに。すると、突然ハツネは大声で笑い始めた。
「全部ゼロって。うちよりも低いじゃん!本物の最下位じゃん!」
廊下を歩く生徒からの視線を浴び、辱めを受けることになった。
七々億 申のイロコイザタはゼロからのスタートとなった。
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