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駆け上がる日本株 需給面で2つの支え

先週(9日―13日)の株式相場はグローバルに強い基調が続きました。日経平均株価は12日まで8日続伸、週末の13日こそ反落したものの週間では4.4%の上昇。またダウ工業株30種平均は週間で4.0%上昇しました。11月に入って一段と騰勢を強めている一つの背景は、米大統領選を通過しイベント前に手控えていた買い手が一気に動き出していることだと思われます。加えて先週は、米ファイザーなどが開発している新型コロナワクチンが「9割以上の被験者に有効である」と発表されたことで、上昇の勢いが加速した印象です。ワクチン開発への期待感は、グロース(成長)株からバリュー(割安)株、景気敏感株へのシフトも伴って、市場に大きな影響を及ぼしています。こうした背景から、米ナスダック総合指数は週間では0.6%とわずかながら低下しました。10日に東証一部の売買代金が4兆円を超えおよそ5カ月半ぶりの大商いとなるなど商いが増えており、実際に投資家が動いている様子も感じられます。

さて、わずかとはいえ、NYダウよりも日経平均株価の上昇率の方が上回っており、日本株の強さが目立ちます。一体何が起きているのでしょうか――。日経CNBC、朝エクスプレスの「マーケット・レーダー」では、9日(月)に東海東京調査センターの仙石誠さんをゲストにお迎えし、「買い手豊富な日本株 年末高を期待」というテーマでお話を聞きました。月曜日ですからワクチン開発期待を織り込む前ですが、日本市場の需給という点では現時点でも大いに参考になる内容です。

仙石さんが指摘する「買い手豊富な日本株」とは、需給面で2つの大きな支えがあることを意味しています。一つはNTTによるNTTドコモのTOB(株式公開買い付け)、もう一つは11月下旬から12月初めにかけて例年みられる配当金の再投資の買いです。順にみていきましょう。

まずはNTTドコモのTOBに関して。NTTがNTTドコモ株の公開株付けを16日(月)までの予定で進めています。巨額だけに、このTOBに応じた投資家に生まれる買い余力がかなり大きいということです。下記がNTTドコモの3月末の株主構成にTOB価格を考慮して仙石さんが試算した推定保有金額です。

20.11.15 ドコモの株主構成IMG_0191

個人投資家には7600億円近くの現金が入ることになります。TOBが実際に成立してからの話ではあって実際に巨額の現金が動くのは11月下旬以降だとみられますが、すでにNTTドコモの株価はTOB価格に張り付いている状態です。個人投資家の間ではTOBに応じて再投資する動きが「すでに始まっている可能性がある」(仙石さん)ということです。もちろんすべて再投資に回るわけではありませんが、もともとドコモ株の投資家だった個人投資家のことですから、投資意欲は一定程度高いとみてよいでしょう。

仙石さんはそれに加えてTOPIX連動型のパッシブファンドの存在を重視します。下記の試算に見られるように、TOPIX連動型のパッシブファンドに、GPIFのTOPIX連動型運用を合わせると、約6000億円もの規模になります。

20.11.15 パッシブファンドのドコモ買いIMG_0192

ざっくり言えば機関投資家は、ドコモのTOBに応じて入ってきた資金をドコモ以外のTOPIX銘柄に薄く広く投資することになるわけです。外国人投資家が保有するパッシブファンドについても同様な買い需要が発生する可能性があり、この金額は1兆6000億円にも上ります。これらの機関投資家の資金が動くのは概ね11月末から12月の初めくらいとなる模様。あまりに大きなTOBだけに、日本市場には特殊な需給要因が発生するわけです。

もう一つの支えとなる需給要因は、例年のことですが配当金の支払いに伴う再投資買い。下記のグラフは2019年のものですが、11月下旬から12月上旬にかけては多くの3月期決算企業の中間配当が支払われます。

20.11.15 配当金支払額IMG_0194

コロナ禍で配当の金額自体は昨年よりは減るでしょうが、しかしこれはこれで再投資に向かわないわけにはいかないタイプの資金。「日本株相場が例年、この時期に上昇しやすい一つの背景」(仙石さん)と指摘されています。実際下記のグラフにみられるように、この時期の日本株が過去比較的上昇しやすかったことが観測されています。

20.11.15 配当金が支払われる期間IMG_0195

景気や業績動向などファンダメンタルズを重視するタイプの人の間では、今の時期の目を引くほどの上昇ピッチに警戒感や違和感を感じる向きが少なくないと思います。新型コロナは新規感染拡大の勢いを強めており、北半球の冬を前に、社会的には大いに警戒感が高まっています。正直言って自分自身も大統領選通過、コロナワクチン期待を背景にここまで上昇基調を強めていることにはびっくりしています。しかし株式相場は短期的にはファンダメンタルズというより需給要因で動くのもまた事実。「現在の株価はおかしい」と言い張っていても相場には付いていけなくなってしまいます。株式市場の面白いところ、難しいところです。

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