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高騰する金価格――金利“消失”で過去最高値が視野に

22日(水)の日経平均株価は3日ぶりに反落。132円61銭(0.6%)安の2万2751円61銭で取引を終えました。東証1部の売買代金は1兆8880億円と節目の2兆円を下回り、4連休前という要因があるにしても、ちょっと方向感といいますか、エネルギーに乏しいような印象でした。

そうした株式市場とは裏腹に一段と盛り上がりを見せているのが貴金属市場です。国内では東京商品取引所で金先物の中心限月である21年6月物が一時1グラム=6402円まで買われ、取引所開設以来の国内先物最高値を記録しました。取引所開設前の時代までさかのぼると、金の歴史的な最高値は1980年1月、6450円の小売価格と言われています。先物スプレッドを加味すると「あと100円くらい」(市場関係者)の感覚です。一方、ニューヨーク商品取引所(COMEX)でも日本22日の時間取引では1トロイオンス1860ドル台と9年ぶりの高値。歴史的な過去最高値である2011年の1923ドル近辺が視野に入ります。

20.7.20 NY金価格IMG_0292

日経CNBC、朝エクスプレスの「マーケット・レーダー」では、20日(月)のゲストとして日本貴金属マーケット協会の池水雄一さんをお迎えしました。商社時代から一貫して貴金属市場を見続けてきた池水さんは「今年後半には高値を抜いておかしくないし、来年には2000ドルの大台も十分あり得る」と、まだ上昇基調の途上にあるとみています。僕は正直言って「本当ですか?」という気持ち。池水さんに貴金属市場で今何が起きているのか解説してもらいました。

まず見逃せないのが、投資家の資金の大量流入。「誰の買いが金価格を押し上げているのか?」という観点です。下記のグラフは金の保有量を主体別にみたもの。僕自身も普段見慣れているデータではないので、どこに注目したらよいのか分からないところがあるのですが、池水さんは「ドイツを抜いてETFの保有、つまり投資家の保有が世界で米国に次ぐ2番目になったのがポイント」といいます。国別の保有の主体は例えば中央銀行ですが、今の金価格を押し上げているのは投資家の資金だというわけです。

20.7.20 金保有量グラフIMG_0293

金の世界では長らく、中国やインドなどアジアの富裕層を中心とする実需の買いの動向が価格を左右してきました。しかし今年に入ってから、特に新型コロナで世界市場が動揺する中で、世界中の投資家の資金が猛烈な勢いで入っています。中国やインドなどの実需の買いは「今年に入ってからぱったり止まっている。むしろ新型コロナで国内保有の金がだぶつき気味で、輸入の必要がない状態」(池水さん)なのだそうです。実需の買いが入るには現在の水準はちょっと高過ぎるということでもあるのでしょう。

金は株式などほかの資産とは全く違う動きをするオルタナティブとして注目されてきました。現在のように「株式も金も同時にこれだけの長い間にわたって上昇するような相場は見たことがない」(池水さん)といいます。僕などはオルタナティブとして資産の一部に金を入れることの意味は理解できるのですが、そもそも金利のない金がこれだけ上昇し続けていることが素朴に疑問でした。しかし、池水さんや市場関係者にいろいろとお話を聞いていてちょっと腑に落ちたところがあります。そもそも超低金利だったところにこの新型コロナ禍で、世界の主要先進国の金利は押しなべて“消失”状態です。不透明感、不確実性が高まる中で金の相対的魅力が高まっている大きな背景は“金利ゼロ”と“ジャブジャブの金融緩和”と言えそうです。

もし、現在の上昇トレンドが変わってしまうとしたらどんなことが考えられるか?番組の中で池水さんはこう答えました。

「ワクチン開発などで新型コロナの脅威が大きく後退し、言わば元の世界に戻ってしまうこと」

もちろん元の世界に戻ってほしいと多くの人が願っていますが、どこかでは“withコロナ”が新しい日常のような気がしなくもありません。現在の市場心理を、最も端的に示す一つの指標が金なのだと思います。

さて、貴金属先物取引は連休明けの27日から大阪取引所に移ります。歴史的な節目の今日、国内先物最高値を更新していることが何だか感慨深いですし、取引所が株式先物などと同じになることで、新しい展開を見せるのでしょうか?金価格の動向から目が離せません。

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