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地銀再編に必要な視点

菅政権誕生以来、携帯電話料金引き下げと並んで明確に方向性が示されている企業政策の一つが「地銀再編」だと思います。地域金融機関の数の問題に繰り返し言及。金融庁が地銀の合併や統合費用を補助する資金交付制度に動けば、ほぼタイミングを一にして、日銀は合併や経費削減など一定条件を満たした場合に日銀の当座預金に0.1%の特別付利が与えられる新制度を打ち出しました。11月27日には独占禁止法特例法も施行され、さながら地銀再編に向けての“包囲網”の様相です。今何が起きているのでしょうか?そもそも地銀は再編すれば経営上の問題は解決するのでしょうか?

12月9日(木)の日経CNBC、朝エクスプレス「マーケット・レーダー」では日本資産運用基盤グループの大原啓一社長にご出演いただき、「地銀再編に必要な視点」というテーマでお話しいただきました。エッセンスと僕なりに考えたことをご紹介します。

かねて、僕自身、疑問に感じている点は、「地銀が再編したとしてそれで経営がうまくいく、劇的に向上するのだろうか――」ということです。大原さんも「経営統合や合併に効率化という意味で大きな意義はあるが、それだけでは生産性、収益性といった観点での課題解決にはつながらないのではないか。ある意味では、地銀と地銀が統合しても大きな地銀が生まれるだけとも言える」と指摘します。

20.12.9 主要証券の地銀連携IMG_0204

そうした中このところ、野村証券グループやSBIホールディングスなど、証券界から地銀に様々なアプローチを試みる動きが表面化しています。どうも地方銀行の本音は、関心はあるものの「飲み込まれたくはない」「(地方銀行のプライドもあり)証券の軍門には下りたくない」といったキモチもありそうです。

20.12.9 再編Aと再編BIMG_0205

大原さんは、地方銀行の再編を考えていく上では、文字通りの経営統合、合併などの「再編A」と、機能ごとに特異な分野で他業態などとの連携を進める「再編B」があるといいます。この「再編B」にあたるのが、野村証券グループやSBIホールディングスなどが進めている動きに近いのかもしれません。証券や投資信託の販売は地方銀行にとって、決してもともと本業の得意分野ではありません。システム負担も相当なものです。であればそれは証券会社に任せ、銀行自体は代理店業となる――。一方、証券側からしても、地方銀行が持つ法人・個人の顧客との接点は魅力的です。丸ごと統合するのではなくても、“win win”の関係は成り立ちそうです。

さて、大原さんの予見は証券販売分野にとどまりません。様々な機能分野で、他業態との連携が進む。例えば、証券、運用、信託機能などなど――。「極端な考え方かもしれないが、銀行機能そのものについてもメガバンクの代理店となって、地方銀行は地方の金融ハブの役割を果たしていくこともあり得るのではないか」(大原さん)。

「銀行機能ですら代理店化した地方銀行」――。突飛な思考実験のような気はしましたが、確かにあり得るのかもしれません。それでも地方銀行には他業態には決してない顧客との接点、地域における圧倒的な信頼感、ブランド力があるはずです。そうしたものがあるうちに、実質的な意味のある“再編”を進めなければならないのかもしれません。では「地方」の意味は何か。東京でも大阪でもないある特定の「地方」の意味は何か――。そのように考えてみると、銀行でも、地方でも、新しい時代を見据えた様々なトライが始まっているように感じます。

(直居のおまけ)
正直言って、こういう話は他人ごとではない。メディアとは何か?新聞とは?テレビとは?--。それから個人に立ち返ると、記者とは?コメンテーターとは?自分とは???――みたいなところがある。ざっくり言って「そもそも僕たち何だっけ?」ということだ。あまり考えこむと頭が痛くなる話ではあるが、たまに立ち止まって考えることは必要だ。不安でもあり、また楽しみでもあると思う。

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