女子


多分俺は、女子に嫌われる方だ。



小学一年生の頃、入学式ではじめて会ったユキちゃんに一目惚れをした。初恋の子。


肌が白くてショートカットで男っぽい性格の女の子で、いわゆる「タイプ」だった。

今でもその「タイプ」は変わらず、街でそういう子を見かけるたびに「もう2度と会えないのか」と勝手に落ち込んでしまうから下北沢とかを歩くたびにボロボロになる。


当時は「付き合いたい」なんて気持ちもよく分かってないけど「好き」という気持ちを伝えたら、なんかよくわからないけど相手も「ありがとう」って言ってくれるもんだと思ってユキちゃんにラブレターを書いた。たしか「かわいいから好きです」という馬鹿みたいな内容だったと思う。


書いたはいいけど、これをユキちゃんに渡す勇気がない。


ラブレターを書くところまであんなにグツグツしていたシチューのような気持ちは冷め切って上に膜が張っていた。

どうもこうもいかないので、女の子の友達に「これラブレターなんだけど、ユキちゃんに渡してくれない?」とお願いをした。

意外とその子は「いいじゃん!渡しとくね〜!」と俺の手からサッとラブレターを奪って走って行った。「女子は大人だ」って驚いた気がする。



次の日、その子から俺が書いたラブレターが、シールで封をしたそのまんまの状態で戻ってきた。

聞くと「ユキちゃんに渡しに行ったら、『二度とこういうことするなって言っといて』って言われて受け取ってくれなかった」とのこと。愛が書類選考で落ちた。



それからしばらく経って中学一年生の頃、少しヤンキー気味のひとみちゃんという女の子が札幌から転校してきた。染めているのか、赤みがかかった髪の毛で、制服のスカートを短くしていたのが印象的。

田舎の学校で育った同級生からすると、札幌から来た赤髪の不良少女というのは、異星人のようだった。


それまで一応「ヤンキー女子」とされていた地元の子をよく見てみると髪も黒いしスカートも膝下で落ち着いている。置き勉もしていない。何がヤンキー女子だ。しっかり地球人じゃないか。

そんな女子たちを尻目に異星人であるひとみちゃんは、いとも簡単に校則を破っていき俺たちの脳みそに光線銃を放っていく。


当然のようにひとみちゃんは転校初日にしてカースト最上階まで登りつめた。彼女を見て制服の着方を真似する女子も多かった。

そんなひとみちゃんは授業中にも異星人っぷりを発揮していた。ノートを1枚ビリっと破いて教室の床に投げ捨てたのだ。「こんなことでガタガタ言うな」とばかりに丸められたノートに目も向けない。


中学1年生ではじめて“制服”というものを与えられた俺は、そのブレザーの様式の美しさから大人の仲間入りをした気がして正義感で溢れていた。

ここはいっちょと思い、その紙くずを拾って「自分で捨てろよ」とひとみちゃんに一言かけてゴミ箱に投げ捨てた。それがいけなかった。


その日の夜、知らないアドレスから「てめぇ、キモいんだよ        K・H」というメールが届いた。K・Hというのはひとみちゃんのイニシャルだとすぐに分かった。

「ウザい」とか「めんどくせえ」とかならわかるが、「キモい」のか??彼女から見たら、自分に反抗するすべてのものが「キモ」く見えるんだと思った。

家でそのメールを読んでウギャーと泣いている俺を見て、お姉ちゃんが「キモくないよ」と慰めてくれた。お姉ちゃんも弟に「キモくないよ」と声をかける日が来るなんて思ってなかっただろう。

その一打撃で、M-1予選で舞台衣装の上から貼られたエントリーシールのように俺の正義感はペリっと簡単に剥がれていった。


それからは一変したようにシュンと過ごすようになった俺だが、中学2年生の頃に「モテ期」が来た。

「てめぇ、キモいんだよ事変」をほとんどの同級生に知られてしまったこともあって、そのモテ期の全てが新しく入ってきた1年生の女子からのものだった。

他の男子とくらべて口数も少なく無表情だったのが、うまい具合に「クール」と捉えられていたらしい。

俺は陸上部に所属していたんだけど、ある日の練習終わり、後輩の男子から「俺のクラスに仁木先輩のこと好きって女いるんすよ!」という報告をされて「マジで……?」とその気になった。

しばらくしないうちに同じ後輩の男子から、その女の子が書いたであろうラブレターを受け取った。

「友達からでいいので付き合ってもらいませんか?」という文章だった。「付き合ってもらませんか?ってなんだ?」と疑問に思ったのは覚えている。

直接会ってみるとハーフみたいに整った顔で声も小さくおしとやかな離れていてもシャンプーの匂いのする女の子だった。俺は勝ったのだ。今までラブレターを着信拒否されたり、キモさを匿名で伝えられたりしたのがチャラになった気がした。この時点で俺は勝ったのだ。

それからデートに行ったり一緒に登下校したりしていた。ギア付きの自転車に乗っていたけど、常にMAXの6段で漕いでいた。生活はそれほどエネルギーに満ち溢れていた。


付き合って2ヶ月くらい経ってから、俺たちのキューピッドである後輩の男子に呼び出された。

「別れたいらしいです」と言われた。


「は?」という気持ちが強すぎたのか、「ば?」と言ってしまった。理由を聞くと「思ってたほど面白くなかったから」らしい。映画レビューのように俺は振られた。


それから高校に入って、いよいよお笑い芸人になることを真剣に考え始めた頃、俺は間違った尖り方をしてしまう。

女子がなにげなく楽しく盛り上がっている場を見て「それは面白いのか??」と、水を差すどころかバケツいっぱいの水を頭上からかけていた。


当然、孤立。当たり前。

「みんながもりあがっているのに、おもしろいのかどうかきいたら、いけないんだよ」と、架空の子供に何度も教えられた。

女子たちは俺のいるところで俺の悪口を言い、席替えで隣になった女子は「死にたい」と叫び、毎日学校に行くと「学校休め」と言われたりしたが、「なんでよ。来させろ。」と弱い弱い反撃をしていた。

一番覚えているのは、休み時間が始まると女子たちが黒板の前に集まり、黒板にチョークでなにやら書いている。

「仁木恭平の嫌なところ」という文面が飛び込んできた。次々とチョークがバトンのように女子から女子へと渡り、気持ち悪い、うるさい、つまらない、頭が悪い、声が嫌、みたいに俺への苦情が箇条書きされていくのを、じっと見てることしかできなかった。

けど1人の女子が「腕が細い」と書いたときに「おい!!!!!」と大声を出してしまった。

腕が細いのは「嫌さ」に直結しないと思っていたからだ。ルールに反している。


28歳。今でもたまにデリカシーのないことを言ってしまうけど、女性ともしっかりと話ができるようになってきた。

将来結婚したいとは思っているから、その時までは腕が太い男になっていたい。


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