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精神科救急(スーパー救急)の不都合な真実

★  精神科救急急性期医療入院料

2002年の診療報酬改定により新たに精神科救急(スーパー救急)病棟が設置された。それは精神障害者の急性期症状への迅速な対応と、入院期間を3ヶ月以内に設定することで長期に及ぶ社会的入院の抑制を図る狙いがあった。よって、その取得基準はハードルが高く、もちろん、そのため入院費は精神科医療の中では最も高額なものとなった。しかもそれは患者の人権に配慮した良質の精神科医療を提供するものとして、権利擁護を唱える団体等に対しても好意的に受け入れられた。そして意識が高いとする精神科病院は挙ってその取得に努めた。
そして、2014年12月17日付朝日新聞「精神科病院を考える 下」では、内閣府障害者政策委員会の上野秀樹委員(精神科医)は

急性期対応のために全国で5万~10万床の緊急用の病床は必要ですが、それ以外は国が強制的に減らすぐらいのことをしないと減らないでしょう。社会からの隔離、精神障害者の自己決定権の軽視など病院の文化はそのまま残ると思います

精神科病院を考える 下(2014年12月17日付朝日新聞)

と語っている。

ところが、2023年10月16日、概ね精神科救急入院料病棟を有する精神科病院で構成されている日本精神科救急学会が声明文を出した。その声明文によると、「~人権擁護を基調としており、一定割合の非自発入院を要件とするケアシステムは許容されない。」、「~ケア対象に一定の重症(略)を求める(略)入院形態を代用する考えは時代遅れ~」だ、と・・・。

◎2023年5月22日 令和6年診療報酬改定に関する声明(1)
日本精神科救急学会HP
(https://www.jaep.jp/2023seimei_1.html)

◎2023年10月16日 令和6年診療報酬改定に関する声明(2)
日本精神科救急学会HP
(https://www.jaep.jp/2023seimei_2.html)

★向精神病薬療法

また日本精神科救急学会の声明文では、精神科救急(スーパー救急)病棟への使用要件として課せられている治療抵抗性統合失調症に対するクロザピン治療について「~~(略)第3選択薬に位置付けられる(治療アルゴリズム)。クロザピン治療の対象者、さらに諸条件を満たして治療開始となる患者は限られており、その効果は慢性期治療での期待が主であることから、病棟種別名である「救急・急性期」の医療とは何ら関連せず、~~」とし、「~~本要件は少なくとも近い将来に見直されるべきである」と述べている。なるほど、クロザピンは第3選択薬なんだ。そうだよね、激しい幻覚・妄想状態にある急性期の統合失調症者への第1選択薬は、やはり即効性、鎮静効果が期待できる向精神病薬を処方すべきだ。そして症状改善に伴い次の選択(第2選択薬)は、再発防止効果が極めて高い持効性注射薬(デポ注射薬)の使用が常道だろう(資料1)。

【資料1】

★重度アルコール依存症入院医療管理加算

2010年の診療報酬改定では、アルコール依存症入院治療に対する管理加算である「重度アルコール依存症入院管理加算」が設けられた。

2015年5月11日付日本經濟新聞では

「薬物依存症者 治療進まず」
高い再犯率 拠点の整備急務 治療には、(略)「認知行動療法」などの治療が効果的とされている。(略)厚生労働省も薬物依存症者の専門治療ができる精神科病院を増やすため、支援体制プログラムの開発を急ぐ~

日本經濟新聞(2015年5月11日付)

と報じている。
そして、日本病院協会は2017年9月20日に厚生労働省に提出した次期(2018年度)診療報酬改定の精神医療に関する要望書の中で、薬物依存症、ギャンブル依存症を含めた「重度依存症入院医療管理加算」の新設を求めている。
しかし、2018年度の診療報酬改定では、「重度依存症入院医療管理加算」が新設されることはなかった。きっと、「重度アルコール依存症入院医療管理加算」は、厚生労働省の立場からすると、費用対効果が悪かったに違いない。何となれば取得要件は「研修を修了した医師ほかの配置」「治療プログラムに基づく治療」といった研修修了証明書、プログラムスケジュール表といった書類提出のみでいいことから、この加算請求は容易である。

よって、精神科救急(スーパー救急)病棟を運営されている多くの精神科病院では、この「重度アルコール依存症入院医療管理加算」を取得されておられるはずだ。
しかし、依存症者が抱える「否認」に対する取り組みにはパターンリズムでは如何ともしがたいと、意識が高い日本精神科救急学会会員の方々ならよくご存じである。「否認」への取り組みは手間暇かけた任意契約の構築が肝要だ。つまり、「重度依存症入院医療管理加算」の取得要件に「対象患者の入院形態は任意入院」とすればいい。そうすれば、この加算取得のハードルが上がり、きっと取得できる精神科病院は減るだろう。だが、実効ある治療、回復支援が期待できるはずだ。

【 [対象患者の入院形態は任意入院」については、『西脇 健三郎「重度アルコール依存症入院医療管理加算」から見えてくるもの これからの精神科病院のもう1つの姿」  日本精神科病院協会誌 2011年 vol.30 no.4 特集 アルコール依存症の展開』において既に提言している】

日本精神科病院協会誌 2011年 vol.30 no.4

余談

依存症プログラム、児童思春期、認知症等の多様な精神科疾患への取り組みを行うのであれば、現行の精神科救急(精神科スーパー救急)入院料病棟は、確かに「時代遅れ」である。

加えて、非自発的入院(措置入院も含めて・・・)に係る診断書作成に余念のない精神科医(精神保健指定医)ばかりの精神科医療業界は、自殺対策基本法(2006年)、過労死等防止対策推進法(2014年)、加えてこの先2024年度から孤独・孤立対策推進法、そして、ヤングケアラー支援法制化等と、いわゆる「精神保健(メンタルヘルス)上の課題を抱えた方」に対応ができる人材育成はどうなっているのか。「仏作って魂入れず」が如し!

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