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自分とは違うニードを持つ相手と共に暮らしてゆくために


うちの犬には何でも口に入れてしまう癖がある
だから玉ねぎやビニール製品など害になるものを口にしないようにテーブル周りや台所は柵で仕切りをしてある
人にとって柵は不便だ
高さが低ければ視界に入らず足を引っ掛けることもあるし、高ければまたごうとして失敗することもある
人だけの暮らしなら、柵は全く必要がない

だけど私たちの家には現状、犬がいて、人がいる
人間は犬の言葉を理解しないし、犬も難しい言葉はわからない
家は私たち人間が暮らしやすいように作ったものだ
その生活空間で犬も共に安全に暮らせるように工夫するのは人間の仕事だと思う
多少の不便を引き受けても

共に暮らすのが猫や、ウサギや、リクガメや、インコ、熱帯魚、さまざまな特性を持つものであっても人間は、彼らを理解しようと努め、安全で、できうる限り快適に暮らせるように工夫をする
人間の側の責任でやる
なぜならここは人間が便利なようにできている生活空間だから
合わせてもらっているのだから

また私たちは歳をとる、病気もする
すると健康な時に暮らしやすかった空間が不便になる
手すりをつけたり、段差を埋めたり、電動ベッドを導入する必要があるかもしれない
健康な人間が便利なようにできている生活空間を、病気の人の声を聞きながら改変する
それも健康な人間の仕事だと思う
それはいつかの私たちの姿だろうから


時に大きな災害が起きる、戦時になるかもしれない
私たちは自分の身を守ることで精一杯になる
人間が便利なようにできている生活空間は失われる
人も、人間社会に順応した動物たちも、障がいを持つものも、快適さを失い安全ではなくなる
もちろん人間が便利なようにできている生活空間の外側に追いやられてきた生き物たちも同様に


崩壊の後、真っ先に快適さが作られるのは多数派である健康な人間のためにだろう
健康な多数派は避難所では皆同じように不便さを我慢しながら過ごしていると思っている
でもその不便さは動物たちや、障がいを持つ少数派にとってはもっと過酷なものになっているだろう
健康な人のうちでも女性や子供など、実は特別なニードを持つものが炙り出されることにもなる(多数派であっても弱さを持つマイノリティ)
多数派で特別なニードを持たないマジョリティの側にいると、そのことに気が付かない

少数派にとっての快適さは黙っていても自然には作られない
声を上げなきゃ作られない
声を上げられないものや、上げても小さなものたちは健康な人間の快適さのためにより不便さを強いられることにもなるが、それにも気づかれない

声はいつも届くわけではない
伝えてもみんな大変なのに我慢しなさいと言われる
あんただけのために(たとえば犬なんかのために)そこまで工夫はできないと言われる
病気の人であってもそういう危険に晒されるのだ
いつかの私たちの姿をしていないものは尚更、思いやってもらえない


むしろ我々の安全を脅かす危険で邪魔な存在だと避難所から追い出されてしまうかもしれない
人間が便利なようにできている生活空間の外側に追いやられてきた生き物たちのように

ともかくも、より力があり数多いマジョリティの快適さの方が、特別で切実なニードを持つ人の必要よりも優先される
それがどれほど切実に必要であるか理解しようともせず

マイノリティはこれまで自分仕様ではない、マジョリティのために作られた空間に合わせて生きてきた
それなのに努力していないと言われる
必要を訴えるとわがままと言われる
マジョリティは黙っていても、考えなくたって自分の必要のために快適な空間が自動的に作られているだけなのに
より努力の必要がなく、必要が満たされていないことを声に出す必要もないのはマジョリティの方なのに
そのことに気づいていないからそう言うのだ
どんなに切実に必要としていようと、みんな(マジョリティ)の協力が得られないという理由で却られる


それでいて相手が弱り、罪悪感を覚えるほどの状態になるとこう言い訳をする
そんなに切実ならそう言ってくれたらよかったのに
もっと強く訴えてくれたら考えたのに
それほどまでに必要だとは知らなかったんだ
私たちは悪くない
私たちだって大変だった
罪悪感を手放そうとして相手のせいにする


相手に対して悪意のない状態ですらこうだ

私たちは努力なしに自分たちのために作られた快適な世界を生きていることに無自覚
自分の望みがみんなの望みと概ね一致するなら、最初から世界はそうだったし、これからもそうなると信じているから
そのことに気づかずに、目に映る自分とは違うニードを持つ相手には、ちょっとの不便を我慢してあげてると思っている
犬と暮らすために導入した私の家の柵のように、共に暮らすためにわずかに快適さを譲って工夫して
本当は自分たち仕様の生活に合わさせているのに、合わせてあげていると思ってる

力の差があるから対等になれないのではなくて、理解し尊重する気がないから対等になれないんだ
マジョリティが自分たちの延長線上にないものを理解しようとしない、ただ考えないでいるというだけで差はこれくらい傾く

偏見や差別心が横たわっていたならその傾きはもっと酷いものになるだろう


私がこのことについてかんがえはじめたきっかけは「LGBT理解増進法」をめぐる記事だった
法律案から修正された「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする」「家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ」の部分

これは自分たちの延長上にない特別なニードのある人のために加えられたものだろうか?
マジョリティの理解を得なければ君たちのニードを満たすことに協力はできないよ、そしてそうする気はないんだ、と私には聞こえる

そこには差別心が横たわっている
それから恐れと被害感
これらがより反応を苛烈にしている
つまりこの修正された文言には悪意がある

この文言の入った法案が成立したことはLGBTに、それからそれ以外のあらゆるレベルのマイノリティにどんな影響を及ぼすのか
反対に今の現実がどれくらい傾いていることを炙り出しているのかを考える
それはだいぶ地獄だよ

だからどうにか頑張って適切に言葉にし、声に出さないといけないと、注目されることがなにより苦手な私でも思った
それでどうにか書いてみている

意味がわかるように書けているかな
誰かに届くかな

これは私たちの社会の問題で、今いる現実だよ

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