お勉強330:オリゴメタとSABR 最終回

オリゴメタに対するSABR

https://www.e-crt.org/journal/view.php?doi=10.4143/crt.2022.1460

オリゴ転移とSABRに関するレビュー

1:オリゴ転移の決まった転移数のカットオフはない
2:小規模だがほとんどのRCTが局所治療の利益を示している
3:SABRはエビデンスが最も高い局所治療である
4:SABRで「治る」かもしれない、
5:SABRは通常副作用は許容できる範囲である
6:SABRは費用対効果が高い
7:すべての病変を治療するのが望ましい
8:全身療法とのタイミングや必要性は分かっていない
9:アブスコパル効果に期待するな
10:革新的な臨床試験の立案が望まれる


今回は8-10(最終回)

8:全身療法のタイミングや役割は分かっていない



Norton-Simonの仮説では、
治療に対する反応は、
治療時のtumor burdenに反比例すると述べている 。
つまり、量が同じの全身療法はtumor burdenが
大きくなると効果が低下する。

SABRのような局所治療によりtumor burdenを軽減すれば、
全身療法がより効果的になる可能性がある。

オリゴメタ対象のRCTの大多数は、
ICIや標的療法などの現在標準治療の一部となっている
いくつかの新規全身療法がでてくる前に実施されたものである。

故に、SABRとそれらの最適な併用法はほとんど不明である。

すべての疾患部位を含む51件の研究のメタアナリシスでは、
SABRとICIの併用は、ICI単独と
同様の毒性プロファイルと報告されている。
SABRと免疫療法の併用は、患者のQOLを損なうことなく
腫瘍学的転帰を改善する潜在的なポテンシャルがある。

現在のところ、全身療法とSABRの最適な順序はまだ不明である。
GomezやIyengarの試験などのいくつかのRCTでは、
患者はSABRの前に化学療法を受けていた。
逆にいくつかの試験ではSABRに続いて
標的療法/免疫療法が行われた。

1~5個の転移を有するEGFR変異NSCLC患者をSABRに続いて
TKIを投与する群にSABRの有無を無作為化して評価した
第III相SINDAS試験では、PFSおよびOSの利益が得られた。

Baumlらによる第II相試験では、
オリゴ転移のNSCLCに対する局所療法
(手術またはSABR)に続くペンブロリズマブ投与は、
QOLの低下を伴わずにPFSの改善と
関連することが明らかにされている。

RAPPORT第I/II相試験では、
SABRに続いてペムブロリズマブを投与した場合、
tumor burdenが低い腎臓がんにおいて忍容性が高く、
優れた局所制御が得られることがしめされた。

さらに、SABR-5試験の解析により、
病勢進行前のSABRの時期に
全身治療を開始または変更することは、
PFSの改善と関連することが明らかになった(HR、0.50)
今後の臨床試験でSABRとICIの併用を検討する必要があり、
特に、SABRと標的療法/ICIを統合した場合の
全身治療のタイミングだけでなく、線量分割、総線量も
明らかにする必要がある。

9:アブスコパル効果に期待するな

(期待「するな」である)
アブスコパル効果に関しては少なくとも1953年に
研究者たちがマウスの片方の足の腫瘍に照射すると
もう一方の治療をしていない足の腫瘍が
縮むという事実を知っており、
古くから知られている。

放射線治療のような局所療法で治療をしていない
他部位の縮小がおこる、とアブスコパル効果は
規定されている。
前臨床の試験はいくつかこのような
現象を報告していたが、臨床においては
きわめてまれな現象であり、1954-2019の間には
メタアナライシスで50件の報告が見られるのみであった。

アブスコパル効果はSABRと免疫療法の併用で
相乗され起こるという仮説が提唱された。
SABRは免疫療法の効果を上げ、
その結果他部位の治療していない部位の
縮小が起こる、という論理だ。

しかしながら、ランダム化比較試験において
アブスコパル効果の検証はほとんど
ネガティブな結果に終わっている。

PEMBRO-RTやMDACC試験のプール解析では
NSCLCに対してペンブロリズマブを
投与し、放射線をする群・してない群を比較すると
照射した群の方が他部位の縮小効果が大きかった。

しかし、他の様々な癌腫を含む
(腎がん・頭頚部がん・NSCLC・子宮頸部/体部がん・大腸癌)
2相試験においては免疫療法とSABRの
併用においてアブスコパル効果は示されなかった

この中には現在進行中の2相試験
CHEERS試験も含まれている
(多施設での転移・進行がんにおいてSABRが
 免疫療法に上乗せがあるかどうか見る試験)

2021年のESTROで初期結果の報告が
行われたが、PFSに影響はなく、
PFSの中央値はSABR4.4ヶ月、SABRなし群2.8ヶ月
であった。
他の例としては同じく2相試験の
頭頚部がんにニボルマブ治療に
SABRの上乗せがあるか見た試験で、
同様にOS/PFS/治療効果持続時間に
優位な差を認めなかった

故に、現在においてはRCTでアブスコパル効果を
はっきりと示したデータは限られている。
将来的に現在進行中の試験が
こういった問題をさらに明らかにしていくだろう

10:革新的な臨床試験の立案が望まれる

(特に患者集積において)



RCTは質の高いエビデンスを構築するための
一番のスタンダードな手段である。
しかしながら、いくつかの試験では
患者集積が難しく、失敗に終わることがある

2005-2011年に行われた2/3相試験においての
レビュー論文ではおよそ2割のがんの試験が
失敗に終わっておりその最も多い原因が
(39%)患者集積不良であった。

Nguyenrahaらは
134の放射線治療を含めたRCTで29.9%が
患者集積不良で失敗しており、これは
RCTが失敗した原因の57.5%であった。
他の理由としては、COI、薬剤が使えない
データ委員会の勧告などがあった。

RCTの失敗に影響する因子は多々ある。
放射線治療を含む試験においては
手術を対照群としたものは3/4で失敗する。
これは手術を主群とした場合より高い

他の因子としては、政府のスポンサー
安全性がエンドポイントのもの、
2006年以降の試験などがある。
最後の理由の原因としては年月とともに負担が
上がっていることもある。

SABR-COMETに参加した研究者において
患者集積に影響した因子についての調査では
SABRをoff-trialでできるかどうかが
患者集積に影響していた。
これは担当医師が患者とSABRについて
最初に説明したことがが関係してると
想定され、患者の治療の有益性の認識および
その後のランダム化試験への登録の意思に影響している可能性がある。
(要するに患者さんが有効だよ、と思ったら
 ランダム化試験に参加せず、自分で選択して治療を受けてしまう、
 ということ)

このようなRCTの登録の難しさを考慮すると
試験デザインはより実際的な
アプローチのものでなければならない
必要がある可能性がある。
理想的にはオリゴメタへのRCTは
単一組織型を対象に行えると良いが
このような試験は集積が乏しくなり
失敗に終わってしまう可能性が高い

実際にSTOP試験では1~5個のオリゴ転移の
NSCLCを対象にしたII相試験ですが、
当初計画された人数が集まらず
研究者は中止か、他がんを含めるか
決断を迫られ、結局後者を選んで、
集積が終了した。

試験のデザインにおいては
望ましい完璧な試験をデザインで
(たとえばNSCLCに組織型を限った試験)
よりレベルの高いエビデンスをえるよりも
より現実的なアプローチをとって
登録を完了することで結果を得て
不完全な答えを得ることが良いこともある

登録の難しさを考えると
研究者側としてはより革新的な
新しい研究デザインを
採用する必要があるかもしれない。
その例として現在進行中のEXTEND試験がある
この試験は様々な組織型を含んだ
前向き無作為化バスケット試験である。

一次解析では各組織のバスケットを
個別に評価し、二次解析ではバスケットを
統合した解析が予定されている。

試験開始に先立ち、いわゆる「リードイン」
フェーズが行われそれぞれのバスケットに
どのくらい患者が集まるか推測された。
その結果、前立腺、乳腺、腎臓の
登録が多いとわかり、実現可能性のある
試験を作成する手掛かりになった。

OligoRARE試験は2相試験で
まれな組織型に対応するアプローチをとっている
(肺癌、乳がん、大腸癌、前立腺がんを
 除いたがんを登録する枠を作っている)
腫瘍評価項目はOSである

最後に(結論として)



現在オリゴメタの決まった数の定義はなく
適したカットオフ値を決めることは、不可能である。
現在進行中の試験で個数を色々定めてやっているが、最も多い
「オリゴ」は1-3、もしくは1-5個である。

SABRのような局所の根治治療が
OSやPFSを伸ばすということが
2相試験で示されている。
SABRは非侵襲的で、費用対効果も高く、
通常、ほとんど体に影響を与えず、
患者のQOL変化も乏しいという利点がある。

SABRがいくらかの患者にとっては
「根治の可能性」のある治療であり
最初の局所治療の後のサルベージ治療として
使用されることもあるだろう。

標的療法・免疫療法といった
全身療法との併用における
局所治療の適切なタイミングは不明であり、
これらに対する試験が今後必要である

オリゴメタに対する積極的な局所治療の有益性を
探索する3相試験が進み始めている。
多数の組織型に対して
1-3か所、4-10か所のSABRを検討する3相試験
SABR-COMET-3やSABR-COMET-10が
行われている。
組織特化したエビデンスを検討する3相試験も
走っている。
しかし、患者集積はこういったRCTの
課題であり、それらを乗り越えるような
新しい試験デザインが必要である。

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