年末最後、放射線治療医自由にCRT+イミフィンジ(主に肺臓炎)を語る

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34543942/

https://medical-tribune.co.jp/rensai/2021/1213540484/?fbclid=IwAR0QjRPecU1fmDo6U7yPgxQeNeD89a4wngX87WWFqTb14_di5pK9LNukCuY
(メディカルトリビューン読める方はこちらのキュート先生の記事も一読を)


1:論文概要
いわゆるリアルワールドでの
CRT→イミフィンジのデータ。(@ 日本)

この試験自体が、若手主体のRWDの試験で、
それがとても素晴らしいことだが、この試験関係者の全国放送の
症例ディスカッションもアストラゼネカさんに聞かせていただいた。
(放射線治療でも若手主体のRWDとかしたいが、
 残念ながら基本他科とのコンボだからなかなか難しい)

ネタとしては放射性肺臓炎とイミフィンジ。

https://note.com/nijuoti/n/nc65bac777a63

https://note.com/nijuoti/n/n939b145ece26

の過去記事も読んでいただくとさらに
面白いと思います。


まずは論文内容について

どのくらいすぐイミフィンジへ行けるとかというとCRTした人のおよそ75%。
ただし、肺臓炎・病勢進行・PS低下でいけない人だけならだいたい15%ぐらい。
まぁ、押しなべて7~8割しか行けない、というのは
他のデータとも合うので、そんなもんか、という感じ

Vxxのtotal lung volumeは肺-GTVのよう。
(GTVの書き方は気になるところだが、多くの
 放射線治療医は周りのぼんやりしたGGOも含むので
 すこし、自動コンツールの肺よりは減っているのだろう)

IFRT:ENIは6:4程度
IMRT使用は3割

年齢中央値は70歳(範囲40~87歳)
線量中央値は60Gy(同14~70.4Gy)
V20中央値は19.65%(同1.4~37.9%)
MLD中央値は11.2%(同1.4~31.3%)

個人的にはかなりV20は低めな印象。

肺臓炎はG2が約3割
G3以上7%うちG5(死亡)は1%

HOTが必要になるのが5%

現状自分のやっている通常のCRTと変わりない印象。
(G3が実感より多い感はあるが…?)
起こる時期としてはイミフィンジ群で4か月がピーク、
(通常のCRTだとだいたい2か月がピーク)
と、ちょっと遅め。irAE+放射性肺臓炎の
相乗作用の印象。

G2以上の肺臓炎はV20とMLDと関連があり。
カットオフはそれぞれ25Gy、10Gy

ステロイド投与を受けたうち
21/52がイミフィンジ再投与、うち3例が再発(でもG3以下)

という感じの論文。

以下症例ディスカッションから
・V20<25% MLD <10%は有症状肺炎の比較的再現性のある
 cut off値。 放射線治療医に聞いてカルテに書こう
(計画作る側としてはこのcut off値は結構実は厳しいというのも事実なのだが)

・放射性肺臓炎の「有症状」は「以前からの比較」が重要。
 患者さんに分かりやすい「悪化の例え」が必要
(個人的には何にせよ
「今までできていたことが息苦しくてできなくなったら救急来てください」
 と指導している)

・割と内科の先生は照射野内か外か気にしてる。
 VMAT時代になるとなかなか内科医には
 判断しづらい時代になるかも。
 今までの当て方だと、
 よく出るところとか、よくあるパターンは
 フォローされているが、これからは出方が
 変わるので、こちらも情報提供が必要。

・個人的経験としても、ステロイドの閾値は
 内科医によってかなり違う。
 症状が軽くてもすぐ使う人いる。

 正直、CTでヤバくない陰影(上記記事参照)
 ならすこし「待つ」のもあり、と考えている。
 
 軽度の咳とかだけでステロイド
 使い始めると切るまでに時間がかかるし、
 乳腺の放射線肺臓炎でたまに経験するが
 使ったばっかりに減らすと悪くなる、
 の悪循環に陥ることもある。
  
 患者さんの不安と内科医の我慢とのせめぎ合い

・あくまでも個人的主観だが、昔の
 前後→斜入より、最初から四門、
 それよりもIMRTのほうが肺臓炎の頻度
 低い気がする。
 昔はG2とか必発だった気がするし、そういうもんだと
 習った気がする。

 まあ前後→斜入とか線質によっては
 肺野の部分によっては
 一回2.3Gyぐらい当たっていたわけで
 その頃よりもあて方が変わって
 均質性がかなりかわってくるし、
 計算アルゴリズムも変わってきているので
 頻度は変わるわな。

・しょーじき末梢に原発があると、上記の
 線量制約はかなり厳しい。
 というか、G2以上は今でもほぼ必発。
 末梢に原発があるときは、肺内リンパ節の
 流れは無視して、
 末梢だけ定位してることもある
 (ただ、ケモとのコンカレントの問題や
  線量分割は要検討)

 イミフィンジにこだわらず、
 (外科の先生的には認めがたいのかもしれないが)
 「原発のみを手術」との組み合わせや
 先に内科的治療、という選択肢をとるのが正解の時もあると思う

・エビデンスの乏しい、というか
 ひょっとしてむしろ害かもしれない
 TPSの低い症例や、ドライバー変異のある
 症例はイミフィンジにこだわって
 肺線量減らすことにこだわりすぎては
 あかんと放射線治療医の1人としては思っている

2:以下メディカルトリビューンの
 キュート先生ところの記事に「放射線治療医からのツッコミ」
 (ディスっているわけではなく、キュート先生からもお返事いただいています)

(以下引用)
肺がん診療に関わる先生方には、V20とMLDを放射線治療医に確認し
カルテに記載するような工夫を提案したい。
呼吸機能を呼吸器外科の先生方が確認するごとく
当たり前のことにならないか、とすら思っている。

そもそもこの対象に対する化学放射線療法の有効性自体も不明であることを想起されたい。
Ⅳ期肺がんの治療が大きく進歩している現状、
V20が35%を超える化学放射線療法を行った際の転帰が
Ⅳ期肺がんとしての治療をした場合の転帰を上回る保証はなく、
危険性も高いことを認識して議論されるべきだろうと考える。
(引用終わり)

個人的には内科医がV20やMLDなどの興味を持つことが
大事だとは思う。
ただ、「全肺野」は必ずしも統一された見解がないので
A病院のV20とB病院のV20は全く違うものを
あらわした値かもしれない、というのは注意。

元来、V20は一回2Gyで前後対向で打った時の
20Gy以上入る肺体積の値、ということなのだが、
なぜか定位照射になっても、あて方がIMRTになって
一回線量が減ってもV20が様々な指標になるという
とっても不思議な値である。

一般論としては
(内科医としては意見が分かれるところではあると思うが)
CRTをしない=100%死亡の時代ではなくなったが、
局所制御や生存率に響いてくるCRTをそんなに忖度したくは
ない、というのが(多くの)放射線治療医の意見と思う
ケモや免疫療法を先行して、腫瘍を小さくしてCRTをするなどの
対応や、照射技術の工夫とターゲットの忖度で
V20はある程度下げるのは可能なわけで、
そこのところも相談して本来は適応を決めないといけない
これは、放射線治療医側も課題。

(以下引用)
以前は、切除不能Ⅲ期肺がんの治療といえば根治的化学放射線療法のみだったわけであるが、
「根治的」とは名ばかりで、5年生存率が10~15%程度
(J Clin Oncol 2010; 28: 2181-2190)とされており、
大変厳しい治療成績だったことが思い出される。
また根治的化学放射線療法後に
地固め療法としての化学療法を行っても予後は改善しない
(J Thorac Oncol 2013; 8: 1181-1189)との報告もあり、
Ⅲ期といっても手術不可能であればほぼⅣ期と同等と考えられていた
肺がん治療の歴史がある。
(引用終わり)

これはとんでもない意見で、患者に「治る、治らない」
の話をした際に15%でも、治る可能性があるのと
「治らないIV期との差」というのを説明できないというのは
とても放射線治療医としては悲しい。
確かにPFSは数カ月しか変わらないが
(としても当時としては数カ月も大事だが、
 ステージの若さ故のことと思われるので、ここは誇れない)
長期生存者=根治が10%でもいる、というのが
放射線治療医の誇りだったのです。

放射線治療医はCRTは治る治療である、ということに
今でも
(たぶん)こだわりを持っているし、
今後もイミフィンジが
登場したとしても(特にPD-L1が低い症例やdriver変異がある症例では)
「CRTが根治の根幹である」というこだわりを持っていると考えている。

個人的にはイミフィンジのインパクトは
とても大きいが、イミフィンジにこだわりすぎて
(とっても低いといわれるのは承知だが)
III期の治療でV20が高くなるから、IV期の治療にする
という時代の流れは食い止めねばならぬと思っている。

あと、昔は「全肺(X線で見た肺野)の1/3とか」
が限界とかでX線シュミレーターで肺の治療計画を作っていた
という時代でも数%は治っていた人がいるので
(その頃は化学療法併用じゃないだろうけれど)
放射線治療は治せる、というのが
かなしい一縷の自負の放射線治療医たちから続く
気持ちなので、少し忖度してあげると嬉しいです。

3:イミフィンジで明らかになったこと
・放射線治療医と呼吸器内科医で「CRTの適応」は
 かなり意識差がこれまであり、CRTで救えるかもしれない人が
 結構な確率でIV期治療されていたこと
・CRTができる病院へのアクセスの壁が日本にたくさんあること

4:イミフィンジがⅢ期治療にもたらしたもの
・外科・内科・放射線治療/診断の多職種での症例の
 カンファレンスが重要、というのが周知されたこと
・Ⅲ期の非手術治療の成績が20年ぶりに大きく改善されたこと
・これに伴い無理に手術に行くより、
 根治的にCRT→イミフィンジに行くことがいい
 という症例もあるのだという結論が出るようになったこと
 (少なくとも全国レベルでいうと全摘症例はかなり減ったと思うのだが
  実際どうだろう)
・免疫療法を1年間やるだけで結構な差がつく、という試験の結果の解釈の議論
・放射線治療医の立場がすこし注目されるようになったこと
・特にブラックボックスだった治療計画や、治療の細々したことに
 内科医が興味を持ってきてくれたこと
・PACIFIC試験のコントロールアームの成績が30%台
 →免疫療法が影響している可能性が高い
 →全員が使っているわけではないだろうが、早期に免疫療法を
  導入することの重要性がある程度間接的に示された
・アブスコパル効果、という怪しげな言葉が有名になった。 
 (放射線と免疫療法の相乗作用はあると思いますが、
  本当にあるのか少し個人的には懐疑的ですが)
 
というわけで、長文おつきあいありがとうございました。
今年最後の投稿となります。来年もよろしくお願いします

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