お勉強142:肺がん心臓ネタ②

<心臓線量を抑えること~他がんからの教訓>

15Gy未満のMHDはQUANTECでは言われているが、
乳がんがん生存者のMACEのリスクは
(心筋梗塞、冠動脈血行再建術、またはIHDによる死亡と定義)
低線量であっても心臓放射線量と
線形関係で増加することをが報告されている。
このコホートの患者では、MHDが1グレイ増加するごとに
MACEの発生率が7.4%増加していた。
(NEJMのhttps://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa1209825)

心臓への放射線量は、ホジキンリンパ腫(HL)生存者の
心不全および心臓弁膜症とも関連していた。
これらの患者群では、
RIHDは治療から数十年後まで発生する可能性がある。
乳がんやHLの患者は、初期の併存疾患が少ない傾向にあり、
最近までRIHDは長期生存者のみに影響する「晩期障害」と考えられていた。

しかし、これらの研究により、胸部放射線治療後の心臓イベントのリスクは、
IHDの既往がある患者や、喫煙、高血圧、糖尿病、肥満などの他の心臓危険因子を持つ
患者ではさらに高いことが明らかになった

これらの結果を肺癌患者に適用するには、
限界をがある。

第一に、これらの研究では、
最新の放射線治療技術と比較して、
心臓の広い範囲に高線量を照射する
旧式の放射線治療技術が使用されていた

第二に、全身性薬剤
(例:アントラサイクリン系薬剤)
による心血管リスクは必ずしも考慮されていない

第三に、これらの線量反応関係は、
心臓全体が受ける平均放射線量の大まかな推定値に基づいている。
最近の研究では、乳がん患者の場合、
左心室または冠動脈の線量がより重要であることが示唆されている

最後に、肺癌における心臓への線量の影響は、
乳癌やリンパ腫の患者よりも早期に発生する可能性がある。

<心臓線量の制限:肺癌への応用>
RTOG 0617は肺癌の放射線治療における
心臓の線量の問題を取り上げた最初の研究である。
その2年後に発表されたRTOG 0617の二次解析では、
40Gy以上を受けた心臓の体積が生存率と
最も強く関連する線量パラメータであることが報告された

RTOG 0617の初期結果の後、
肺がん患者における心筋梗塞線量、
心筋イベント、死亡率の関係を調査した研究が
数多く発表されている。
2018年1月以前に発表された
CCRTを受けたNSCLC患者の18件の研究と
SBRTを受けた早期病変の患者の4件の研究を対象と
しシステマティックレビューがおこなわれた。
しかし、研究のほとんどは、
単一施設で行われたレトロスペクティブなもので、
試験対象者が異なり、エンドポイントの定義も異なっていた。

合計96種類の心臓線量パラメータが検討され、
20種類の線量パラメータが多変量解析で
全生存率または心イベントと有意に関連することがわかった。

最もよく調べられたパラメータは、MHD、心臓のV5、V30であった
ほとんどの心臓の線量パラメータは1つの研究でしか
有意ではなかった。
これらの結果は、タイプ1エラーの可能性が高いと思われる。
結局この研究では心臓に対する信頼性の高い線量制約を導き出す
ことができなかった。

根治的放射線治療を受けたNSCLC患者780人の
セットアップエラーに関する
大規模なレトロスペクティブ研究がある
この研究では、縦隔方向(つまり心臓方向)に小さな補正をされて
いないセットアップエラーがある患者は、
生存率が有意に低いことが報告されている(ハザード比=1.1)
肺病変に対してSBRTを受けた136人の患者を対象とした
同様のレトロスペクティブ研究では、
心臓方向への1mmのシフトにつき死亡のハザード比が1.262であった。

このシステマティックレビューが発表された後、
RTOG0617のデータセットを基にしたモデリング研究を発表し、
死亡率の差の主な要因は複数の心肺構造に対する
線量-体積負荷であることを明らかにした。
このことは、血液を運ぶ構造物への照射が
免疫系に悪影響を及ぼす可能性を示唆しているが、
これについては今後の研究で明らかにする必要がある

<心臓構造への線量制限>
心臓全体に対する明確な線量制限がないことと、
心臓への小さな残留セットアップエラーが生存率に影響することから、
心臓の各々の構造への線量が心臓全体の線量よりも重要であることが考えられる。
さらに、HL生存者を対象とした研究では、
心臓病の種類によって、例えばIHDでは線形、
心臓弁膜症では非線形といったように、
様々な形や傾きを持つ線量反応関係が見られることが分かっている。


心臓は固有の生理学的機能を持つ部分構造で構成されている。
肺がんの根治的放射線治療を受けた患者の心臓イベントや死亡率と
有意に関連することがわかっているさまざまな
心臓の部分構造をFigure2に示します。(必見!)


ですぐ見れます。

心臓底部は解剖学的には胸骨の後方、
第三肋軟骨の高さと定義されている。
後方には左心房と上肺静脈の連結部があり、
前方には右心室流出路、大動脈起始部、冠動脈起始部があります。
心臓の底部には、上大静脈と右心房の接合部があり、
心収縮を促す電気的インパルスの発生源である洞房結節が存在する

肺放射線治療後に心イベントが増加する仮説の一つは、
伝導系が放射線によって直接、
あるいは炎症、線維化、虚血などによって
間接的に損傷を受けることである。
難治性の不整脈を治療するためのSBRTがせいこうしていることは
心臓の伝導系が直列構造と考えられることを明らかにした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?