お勉強378:N2肺がんに手術は必要な選択肢

https://www.clinical-lung-cancer.com/article/S1525-7304(23)00144-4/fulltext

日本からPACIFIC時代になってcN2肺がんに手術は必要か?
という問いに
後ろ向きコホートと、PACIFICのデータを比較する研究

背景
PACIFIC試験の結果は、
臨床病期III期非小細胞肺癌(NSCLC)の治療戦略を
劇的に変えた。しかし、手術がもはや治療に必要でなくなったかどうかは
依然として不明である。我々は、手術の有効性を評価し、
PACIFICレジメン治療患者よりも手術治療患者の方が
予後が良好である因子を探索することを目的として、
単施設後ろ向きコホート解析を行った

患者と方法
2010年から2020年にかけて、
当院で臨床的N2-stage III NSCLC患者107人が
根治的肺切除術(葉切・気管支形成含む)を受けた。
これらの患者の術後全生存(OS)の1年ごとのベンチマークを
分析し、PACIFIC試験で治療された患者のそれと比較した。

結果
患者の1年、2年、3年、4年、5年全生存率はそれぞれ
87.7%、73.9%、64.9%、58.2%、55.4%であり、
いずれもPACIFICレジメン治療患者より優れていた。

しかしながら、cT3/T4腫瘍、
skip、bulky、distant、multi-stationN2転移(定義は後述)を
有する患者、および気管支形成術を受けた患者は、
PACIFICレジメン治療患者よりもいくつかの年次ベンチマークで
劣る結果を示した。

上記の因子間で多変量解析を行うと、
cT3/T4腫瘍はPACIFICレジメン治療患者よりも
手術治療患者の予後不良因子であった
(ハザード比[HR]1.89、p = 0.036)

遠隔N2転移も予後不良因子であったが、
その影響は統計学的に有意ではなかった
(HR 1.81, p = 0.082)。

結論
手術は依然としてN2陽性のc-stage III NSCLC治療の主軸であり、
PACIFICレジメンは切除不能な患者にのみ適しているかもしれない。
しかしながら、cT3/4病変を有する患者に対しては、
手術を慎重に考慮すべきである。

以下細々
・筆者らはPACIFIC試験の成績が良かったので、
 「切除不能」以外にもPACIFICが行われているのでは?
 という危惧からこの試験を企図したというようなことを述べている
(特に日本でその傾向が強いのでは?と書いているが…うーん)
・cN2はCT/PETで診断。必ずしも病理所見が得られているわけではない
・N2の分類は以下
◎single station:N1の有無に限らず、N2一か所のみ
◎skipN2:N1転移なく、N2転移がある
◎bulkeyN2:造影CT上で
      短径20㎜以上・いくつかが癒合・周囲組織に浸潤

bulkeyのみ、キャンサーボードだけでなく、2人の独立レビュー
によって判断されている。
◎nearとdistant
nearN2:いわゆるN2αらしい
右上葉腫瘍の2Rおよび4Rへの転移、
左上葉腫瘍の4L、5Lおよび6への転移、
両側の下葉腫瘍の7、8および9ステーションへの転移

distantN2:いわゆるN2βらしい
両側の下葉腫瘍からのステーション2R、4R、4L、5、6への転移、
右上葉腫瘍または左上葉腫瘍からのステーション7、8、9への転移

右中葉腫瘍または左舌小体節腫瘍からのN2転移はすべて、
distantN2

・年齢中央値は68歳
・観察期間中央値は35か月、センサーの患者は中央値60か月
・90%以上がsolid tumor
・25%がinduction治療を受けている(CRTを受けている人も…)
 が、半分以下しかdown-stagingしなかった
Ef2/3 18.5/14.8%
・肺全摘なし、conbined resectionが25%、(肺動脈が多い)
 気管支形成11%
・術後合併症は約10%(G3以上)に起こり、1%手術関連死
 (30日以内死亡) この群の半分以上の患者が再発している      
・pTは 0/1/2/3/4で3.7/23.4/48.6/20.6/3.7(%)
・pNは 0/1/2で32.4/13.9/53.7(%)
・43%で術後ケモあり
・再発は57人で12人が局所、45人が遠隔
・N2に関しては skipはそこまででもないが
multi station/bulky/distantはPACIFICと
全体的な曲線ははわずかな差
DiscussionでdistantN2症例は「全身病変」と
考えるべき、という記載もあり
・IPF症例も入っているらしい

・今後周術期にICIやTKIが入ってくるので、
手術は盛り返すだろう、という記載もあり。

※以下私見
・少なくとも「解剖学的に切除可能」N2で
手術を否定するものではないと個人的には思うし、
今後、ICIの術前治療が入ってきて予後は大きく
改善するだろうなので、「解剖学的切除可能」は
手術でいいと個人的には思う
・一方でリアルワールドデータでPACIFICより
 いいデータが出てきているのも事実で、
 「切除可能」なN2だとPACIFICより
 成績はいいだろうから、
 https://note.com/nijuoti/n/neafb1dccf9f7
 https://note.com/nijuoti/n/ne4c3928ca1d7
 一概にこのベンチマークを頼るのもどうかとは思う。
・今後N2肺がんは手術を主軸に動くのは
 放射線治療医としては残念な面もあるが、致し方ない
・一方でcT3/4が手術症例が悪い傾向、というのは
 ちょっと意外な結果。術前CRTを行った症例は
 おそらくこういう症例なのでcN2よりcT3/4のほうが
 PACIFIC向け、というかそういう症例は
 「OSで見ると」と大きな差が出ないのかもしれない
 (たぶん長期的なPFSは差があると個人的には思う)
 ICI+ケモの術前治療でどうなるかは?
 個人的には4者併用の対象はここなのでは?と思う

・結局、ICI+ケモをリアルワールドでやっていくことで
 いろいろ使い分けポイントが見えてくるのだろう。
 

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