お勉強300:膵癌つれづれ

切除境界膵臓がんに約4か月の術前治療として
・ArmA:mFOLFILINOX 8コース

・ArmB:mFOLFILINOX 7コース+寡分割照射 25Gy/5Frか定位照射 33-40Gy/5fr

→手術をして、術後FOLFOX6 4コース

を比較するという試験

ヒストリカルコントロールで18ヶ月生存を50%とみこんで、
試験が行われたよう。

62%が女性、年齢中央値は64歳
中間解析30名でArm1で57%、ArmBで33%でR0
→ArmAに引き続き患者を集積。

結果として18ヶ月OSはArmAで66.7% ArmBで47.3%
MSTはArmAで29.8ヶ月、ArmBで17.1%

このランダム化試験は8コースのmFOLFILINOXだけで
寡分割照射を行わないほうがOSがよく、
この状態の患者のリファレンスアームとしては
mFOLFILINOXを推奨、との結論

最終解析した結果としては
126名の患者群で
そのうち70名(55.6%)がArmA
56名(44.4%)がArmB(中間解析で閉鎖前はすべて無作為)に登録

照射はマーカー留置が必須だったよう。
照射体積は論文参照だが、主に原発巣と近接血管にあてて
予防リンパ節領域などは省いているよう。

R0はon inkとの定義。

mFOLFILINOXの遅延や、治療強度はややArmBで低いが
そこまででの差ではない。

ArmA58%、ArmB51%が手術に進んだ
最終治療から手術までの期間は変わりなし。
術後治療まで行けたのは手術まで行ったの69%
(両Armとも)

42.9ヶ月フォローで
ArmAの患者は18ヶ月時点で66.1%生きており、
ヒストリカルコントロールより、良い、との結果。
一方早期中止となったArmBはMST17.1ヶ月と
ヒストリカルコントロールを超えられなかったとの結論

手術できた群の18ヶ月生存率はArmA/Bで
87.5%と78.9%
であった。

結論としては
・8コースのmFOLFILINOXの1k月生存率は66.7%で
 R0切除率は43%であった。
・寡分割照射の上乗せは見られなかった

(日本ではPREPのデータもあるが)
BRにかんしては術前治療で
ESPAC5FやPREOPANC-1で
優位性が示されており、
術前治療が必要である、ということは総意のようだ。

SWOG S1505では術前治療3ヶ月、術後治療3カ月の
mFOLFILINOXをしているがMSTは23.2ヶ月であった。
今回との差として術前の長期の化学療法の効果が
出ているのかもしれない。
ただ、最適な治療期間は不明。

筆者らは少なくとも
・ArmBは事前設定されたR0率を満たせなかった
・照射法・照射野に問題があった可能性はあり、
 術前の照射自体はまだ研究が必要
・手術も含め(!)局所治療で利益を出す群の抽出が必要。

一応放射線治療医としてツッコミどころとしては
・患者は優位差はないがArmBで高め
・優位差ないがCA19-9はArmBで高め
・pCRはArmBのみで11%出ている。

とにかく、この大きな差がmFOLFILINOX1コースを
RTに置き換えるだけで起こっている、というのは
現実とは言え理解しがたい
なぜSBRT群が悪かったか

SBRTでR0率が低いのは手術手技が慣れていないのか??
→直腸がんのTNTなどと同様、RTから時間がたたないと
 効果が出てくるのに時間がかかるため、R0に効かなかった
 どころか、かえって切除マージンが難しくなった可能性

R0完遂した症例の予後はほぼ同じでpCR率は高いので
何かしらSBRTがR0手術の邪魔をしている
ととらえるのが妥当と個人的には思う

極論を言ってしまうと
このスタディーでもPFSの底というか、長期生存者は
非常にわずかで、ここが持ち上がっている印象は乏しい
BR-A/UR膵癌に「局所治療は本当に必要か?」
という(外科医にはしばかれそうだが)
問題に直面する。

「できるだけ、治療対象を絞る」
ことが、コンバージョンやBR-AのMSTや長期生存者を
増やすことの重要ポイントなのだろう。

そう考えていくと、リキッドバイオプシーが
難しい膵癌においてはやはりあてになるのは
CA19-9やDUPAN-2といった腫瘍マーカー
というのが、今のところの結論のようだ。

昨日のネット講義では大阪国際がんセンター
の先生が、「正常値だとちょっとやりすぎで200ぐらい」
がcut-offのようで、そこを下回らない場合、
ほぼ確実に早期転移で失敗するらしい。

なので、我慢我慢でその人の可能な範囲での
ケモをして、タイミングを見計らって
手術、ということになるだろうが
そうすると「いつRT入れる?」
問題が勃発する。
もちろん「入れない」という人もいるだろうが
ここは、放射線治療医の意見として
「入れる」前提で話をする。

ここで迷うのは直腸癌でもしばしば問題に
なるが、
・ケモをしないでSRT
・CRT
のどちらが良いのか?
SRTのメリットは
「ケモを中断しないで済むこと」
であり、
CRTのメリットは
「エビデンスがある、増感効果」
である。

無論、SRTにもケモ併用
(エビデンス皆無、というかかなり慎重な臨床試験と、長期フォローが要)
とか、CRTでもガッツリケモと併用
(大阪国際がんセンターではGEM+nabPTX併用してるらしい)
とかまだまだ開発余地はたっぷりとある。

一応膵癌も線量依存性はあるらしく、
2Gy換算で行くと、70Gy超ぐらいが
望ましいらしい。

照射野は正味な話手術前提なら
前方や十二指腸はそこまで意識せず、
後方と神経叢、動脈、リンパ領域だけあてたら
いいと個人的には悟り始めている

いつ入れるか、問題は解答が出ないが、
放射線治療を信じてくれるなら
神経叢は全周温存とかするのを前提に
ケモの反応性が良いと思った時点で
早めに入れるのが良い?
タイミングは難しい…

最近得た膵癌豆知識

・膵癌のリキッドバイオプシーは極めて困難

・CA19-9は試薬で全然値変わるらしい…
 高いなら「生物学的切除不能」という
 考えの先生もいるとか。

・CA19-9が使えない時(ルイス血液型の関係)はDUPAN2がいけてるとのこと

・術前治療は長くやるに越したことはない雰囲気
 だが、一方で術後補助療法がちゃんと入るかがより大事

・GSが標準だが、GEM+nabPTXがやっぱ人気。
 某大のさらに上乗せGEM+nabPTX+S-1
 は認容性も(発表では)良く、成績もスゴイ。

・術前粘って早期再発を減らし、
 かつ低侵襲な手術に持っていき、
 アジュバントをしっかり入れる、
 と言うのは簡単たが、
 コンプライアンスの問題は?

予後だけ考えるなら術前頑張る、
 が最適解のようだが、
 「手術できるのに、なぜこんなしんどい
  治療を受けさせられんねん」
 という患者の気持ちにも寄り添わなくては
 いけない。そして、ダラダラやってる間に
 転移が出てきた人はしっくりくるのか?

・腹腔細胞診 陽性例は転移扱いが妥当。
 でも、わずかだがコンバージョンも可能

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