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Vol.8|末期がんを患った愛犬――飼うのは大変だったけど「一人じゃないよ」と見送った

天国の少し手前には「虹の橋」があると言われています。そこは、亡くなったペットたちが自分の飼い主と待ち合わせるための場所。

飼い主が自分のところに来るまで、ペットたちは楽しく遊びながら待っているそうです。

ここ「虹の橋こうさてん」は、そんな虹の橋をイメージし、お別れを経験した人、これからその時を迎える人のための情報交換の場です。

大切な家族とのお別れを経験した方へのインタビューをとおして、お別れまでの過ごし方や、お別れの仕方についてのさまざまな選択を発信していきます。

vol.8は、気難しいことで知られる犬種・柴犬マロンちゃんのお話をお届けします。

犬種:柴犬/女の子
享年:15歳
語り手:Y.Kさん


他の子犬よりも可愛く、目立っていたマロンちゃん


マロンちゃんと出会った時の印象を教えてください

初めは私の実家で飼っていました。子育てが一段落した両親が、老後に心の穴を埋めてくれる存在として犬を迎え入れたい、という流れでした。ペットショップでも探したのですが、いろいろと調べていくうちに、ブリーダーさんから直接買うことになりました。複数のブリーダーさんにお会いする中で、柴犬を繁殖させている方がいることを知り、私も両親と一緒に見に行ったんです。
こちらの事情を話したら、30匹くらい居た柴犬の中から3、4匹見せてくれました。その中で、愛想はなかったのですが、とても可愛い顔立ちのメスの子犬に目が行きました。とにかく顔が可愛くて、どこに出しても恥ずかしくないと言えるレベルでした。生後1ヶ月くらいだったんですけど、周りの子犬に比べると大きくて、たくましかったんです。堂々として、すごく引き立った印象だったので、家族で「この子だ」と一致しました。

途中でご実家から引き取り、飼っていたそうですね

そうなんです。マロンと一緒に生活するなかで、両親がこのまま飼い続けるのは体力的に難しい、という事情が出てきました。私はその時、結婚しており、マロンのことは妻もとても可愛がってくれていたので、うちで引き取って面倒を見ることになりました。それまでも実家に泊まりに行った時や、たまに両親が出かける時に世話をしていたんです。マロンが9歳か、10歳くらいの頃だったと思います。それから5〜6年間、一緒にいました。

しつけの方向性を合わせることの難しさ

どのような性格だったのでしょうか

寂しがり屋のくせに愛想がなかったです。私が帰ってきても「かまって!」みたいなのも無いのに、よその人には愛想を振りまいていました。本当は、こっちにもっと愛想を振りまいてほしかったんですけどね。
初めに両親と生活していた時に食べ物を何でも与えてしまい、ドッグフードを食べなくなってしまいました。私が朝、食パンを持って食べていたら奪い取ろうとしてきて、「もう、ふざけんなよ!」みたいなのを毎朝、繰り返していました。

食事の時の行動が毎朝のルーティンになっていたのですね

他にも、ヨーグルトを食べようとしていたら奪われて、カップをペロペロ舐めまわして全部ピッカピカにされたり……いつも大変でした。
成犬になるまでの1年までが、教育をちゃんとしないといけない期間と言われていて、私も意識していたんです。その1年は特に厳しく、飼い主との序列をきちんと示さないといけない期間と考えて接していたのですが、両親が甘やかしてしまったんですよね。
マロンは私を下に見ていたのに、勝手に寂しがって、すり寄ってくる時もありました。だけど、かまおうとしたら「触るな!」みたいな反応でした。独立心が強いんですよね、柴犬って。自分が求める時だけ求めて、そうじゃない時はほっといて、みたいな感じなんです。

気性は荒かったが、可愛いところも見せてくれた

一般的に、柴犬のお世話は大変だと言われますね

柴犬って「一番、飼いにくい犬」とよく言われるんですよ。まず、抜け毛が多い。そして気性が荒い。ものすごく気難しいんですよね。
動画サイトを見ていても、「飼いにくい犬種」「柴犬を飼う前に心得ないといけないこと」という注意喚起の動画がたくさんありますよ。そういうの見ると、改めて「すごい犬種飼ってたんだな」って思いますね。

マロンは生理の期間、特に気性が荒く、困ったことがありました。ある時、私が居眠りをしてしまったのですが、気づいたらマロンが柱を何度も噛み、壁紙を破っていたことがありました。あの時は、修理代が高くて大変でした。

トイレは室内ではなく、土手や草むらに連れて行っていました。「ここじゃないとやらない」という感じだったので、毎朝5時に起きて、1時間散歩していました。夕方は妻にお願いして、また1時間。散歩で便が出ない時は、こっちの心が折れてしまって一旦帰宅し、ご飯が終わったくらいでトイレアピールというパターンでした。ほぼ毎日、そんな感じだったので、精神的に辛かったです。

ここがすごく可愛かった! というところを教えてください

ソファーの上が大好きでした。エアコンがよく当たる涼しいポイントがあって、私と妻とでよく奪い合いになる場所なんですけど、マロンはいつもそこに座っていました。暑い時期にクーラーを効かせている時は、その一番いい所に居座って、ころりんと横になっている姿が可愛かったです。

傷だらけになりながら口腔ケアを頑張っていたものの……

口腔がんが原因で亡くなったとお聞きしました

後になってよく考えてみると、やっぱり歯磨きが大事だったのかなと。口腔ケアは時々していたんですけど、噛まれたり引っかかれたりして、私の体が傷だらけになりながらやっていました。
歯がどんどん汚くなっているとわかってはいたのですが、口の中の異変にまで気づけませんでした。ある日、口の中がすごく腫れてることに気づいて、病院に連れて行きました。採血や精密検査をして悪性腫瘍ということがわかり、その時点で「手の付けようが無い」と医師から告げられました。その時には、かなりの手遅れになっていたんです。

亡くなる直前は、どのように過ごしていましたか

マロンは自分でトイレにも行けなくなって、ぐったりとしていました。あんなに排泄の場所にはこだわっていたのに、その場で排泄してしまう姿を見て、辛かったです。寝返りも定期的にさせていました。これまでマロンへの不満も言いましたが、さすがにその時になると、胸が痛かったです。
末期だったんです。気づいてあげられたのが、亡くなる1年前くらいでした。もし、もう少し早く気づいていたら、あと1、2年は長く生きれたのかもしれないと思うこともあります。

ショックでマロンちゃんをしばらく動かすことができなかった

亡くなった後は、どのような行動を取りましたか

「もう持たない」と医師に告げられた時、妻がショックを受けてしまい、しばらくは色々と理由をつけて仕事を休み、マロンをそばで見てくれていました。私が仕事をしている途中で妻から連絡が来て、「もうダメだ、ダメだ」というような感じでしたね。私は最期に立ち会えませんでした。
次の日は体調不良を理由にして、仕事を休みました。あまりのショックで、マロンの体はすぐに動かせませんでした。一日くらい、その場で寝かせていました。本当は対応しないといけなかったんですけど、できなかった。でも、「このままにしとくわけにはいかないから葬ってあげよう」と妻と話をしました。
葬儀場は、もう長くないだろうなって思った時から、近い所を探していました。葬儀場に連れて行って、自分では葬儀のことがよくわからなかったので「諸々お願いします」と言って、対応してもらいました。

葬儀場ではどのような形でお別れしたのでしょうか

棺の中には思い出のおもちゃや、自分たちと一緒に撮った写真を入れました。「1人じゃないよ」っていう気持ちで。あとは、何をしたか覚えてないです。元気だった頃の記憶が走馬灯のように蘇ってきて、ダメなんですよね。家族でしたからね。ただただ辛かった。
両親にはマロンが亡くなったことを伝えました。でも、葬儀場までは来れませんでした。最後は火葬しました。

思い出は、今も家族の中で生き続けている

3年前のお別れから、寂しい気持ちとどのように向き合ってきましたか

今も立ち直れてるのかな? と思う時はあります。今でも運転中や、1人でいる時にふっと思い出が蘇ってきて気持ちが落ち込んだり、マロンが使っていたおもちゃを見ると、「ああ、居たんだな」って思ったり。おもちゃは今も収納ケースに入れて大切に取っています。写真はあるんですけど、見えるところに置かないようにしています。思い出すと辛くなってしまうので。
心に穴が開いたような感じです。でも心の一部だけじゃなくて、自分の体の一部も取られたような感じもあります。

ご家族とマロンちゃんの話をすることが今でもありますか

はい。いつもそういう風になります。楽しかった頃を思い出して、「本当に可愛かったよね」とか「あの時は大変だったね」と言い合っています。思い出は、今も私たち家族の中で生き続けてますよ。

今、ペットと一緒に過ごしている人にかけたい言葉はありますか

世の中には、虐待や事件になるような、本当にひどい環境でペットを飼ってる人もいますよね。飼っている最中に「困ったな」「しんどいな」と感じる瞬間は、誰にでもあると思います。
でも、ペットは家族の一員です。本当につらいのは、その子が居なくなった時に可愛い姿を思い出して、寂しさを感じることだと伝えたいです。

〈おわりに〉

柴犬という気難しい犬種を飼うことが「大変だった」と口にされたY.Kさん。それでも、愛犬を失って3年経った現在、ふとした時に楽しかった思い出がよみがえり、寂しさを感じる瞬間があるとのことでした。お話くださる途中で、時に涙をこらえる様子もありました。今は次のワンちゃんを迎え入れるかどうか、悩んでいるところだそうです。奥様やご両親にも愛されて、マロンちゃんは幸せだったことでしょう。お話を聞かせていただき、ありがとうございました。

(聞き手・イチノセイモコ/ライター)


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