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Vol.6|そばに居てくれるような気がするから――近くに埋葬し、手元に絵を残すという選択

天国の少し手前には「虹の橋」があると言われています。そこは、亡くなったペットたちが自分の飼い主と待ち合わせるための場所。

飼い主が自分のところに来るまで、ペットたちは楽しく遊びながら待っているそうです。

ここ「虹の橋こうさてん」は、そんな虹の橋をイメージし、お別れを経験した人、これからその時を迎える人のための情報交換の場です。

大切な家族とのお別れを経験した方へのインタビューをとおして、お別れまでの過ごし方や、お別れの仕方についてのさまざまな選択を発信していきます。


vol.6は、家族が増えたことで大きな変化を経験したガウくんのお話をお届けします。

犬種:チワワ/男の子
享年:11歳
語り手:N.Sさん


なかなかお散歩デビューできず、周りの人に相談した

最初に出会った時の印象を教えてください

飼い始めたきっかけは、私がペットアパレル店でアルバイトをしていた時、小さくて可愛いチワワの魅力を知ったことでした。飼っているワンちゃんを連れてきて良い店舗で、周りのスタッフは毎日、ペットと出勤していました。取り扱っている洋服をペットに着せ、看板犬として一緒に過ごすような所でした。
アルバイトを始めた当初、私は先輩たちのようなペットとの過ごし方に憧れました。それまで実家では、雑種を飼っていました。ペットショップを検索して写真を見ていたところ、私好みのチワワを見つけました。会いに行くと、写真で見たとおりの子でした。ちょっと情けない顔がチャームポイントなんです。会いに行く前から「この子を飼おう」と決めてたんですけど、初めから人に慣れていて、すんなり抱かせてくれました。

どんな性格でしたか?

赤ちゃんの時は、好奇心いっぱいで走り回っていましたが、実はすごく臆病でした。お散歩デビューの時、首輪をつけて散歩させようとしたんですが、1歩も動かなかったんです。
幸いなことにペットを飼っている先輩が周りにいたので、いろいろと話を聞きました。10年以上前のことで、ペット雑貨があまり多くなかったんですけど、アルバイトしていたお店ではハーネスを取り扱っていました。付けてみたら、ようやく歩いてくれたんです。単純に、首輪が嫌だったんだとわかり、ホッとしました。

お互いにとって適切な付き合い方を考える機会が何度も訪れた

どんなことが好きでしたか?

ドッグランが大好きで、他のワンちゃんの所には、ガウから積極的に行ってました。動物には威嚇しなかったのですが、人間の子供が好きではなかったです。
私が寝るモードになったら、勝手に布団に潜ってきて、胸元に顎を乗せて寝ていました。それが一番うれしかったです。
グッズや服にはお金に糸目をつけず身に付けさせ、ずっと一緒にいて愛情を注ぎました。飼いはじめた頃は、人間よりもペット第一というスタンスで生活していたんです。でも、そうしたことで生活のバランスが崩れてしまい、家族から指摘されたことで、改めてペット中心の生活パターンについて考え直しました。ペットは家族の一員だけど、あくまで家族を支えてくれる存在と考える方が、ペットと飼い主さんの両方にとって楽な気持ちで生活できるのかな、と今は思います。

子供が好きではなかったということですが、初めてお子さんが産まれた時、ガウ君はどういう反応でしたか?

長女が産まれた時、ガウに近寄らせると唸っていたので、あまり一緒に過ごせなかったんです。出産の時は、動物が大好きな父に預けていたんですけど、それまでペット中心のスタイルで過ごしてきたので、ガウは生活のギャップにすごく戸惑ったようでした。
子供が産まれたタイミングで、ガウのことが二の次になってしまったことが本当に辛かったです。残念だけれども、ペットの性格や、産まれてきた子供の体質によって、それまでの生活スタイルを維持できない場合があると思うんです。私もすごく葛藤があったんですが、どうしても環境を変えざるをえませんでした。

ガウ君の態度の変化に、後悔や謝罪の気持ちでいっぱいだった

環境が変わり、ガウ君は寂しがりましたか?

久しぶりに会いに行ったら、私に威嚇してきたこともありました。できるだけ頻繁にガウの様子を見に行ってたんですけど、飼い初めの3~4年間は、ひと時も離れず一緒にいたので、ガウからしたら「何で居ないんだよ!」という感じだったと思います。その様子を見て、本当に「申し訳ない」と思いました。
ある時、ガウをお風呂に入れてあげようとしたのですが、とにかく威嚇されてしまって、「本当にごめんね。こっちの都合でごめんね」って、泣きながら伝えました。

初めての育児も重なり、いろんな意味でお辛かったでしょう

あの時は、本当に。全部のことを一度にできないし、どうしても産まれてきた初めての我が子を育てることに必死でした。余裕が無かった時のことを振り返り、今は反省しています。飼うべきじゃなかった、いろいろなタイミングが違ったのかな、と後悔したこともあります。
子供に何度も会うことで、ガウの態度は柔らかくなりました。元気だったときは家の中で一緒に追いかけっこしたり、絡み合うみたいに遊んでいました。

火葬ではなく、土に返すことを選択した

亡くなる直前はどんな様子でしたか?

ご飯を食べなくなって、体重が軽くなりました。11歳という年齢も考え、そろそろかな、と家族で見守っていたんです。ガウは家の中の好きな場所で、自由に過ごしていました。
当時、私は第5子を妊娠中で、短い入退院を何度か繰り返していました。ガウが亡くなる直前も少しの間、入院していたんです。その間は、父がガウにずっと寄り添ってくれていて、こまめに様子を連絡してもらっていました。私が退院してすぐ、夜中に「今、一口だけ食べたよ」と知らせてもらったので、まだ大丈夫かなと思ったんですけど持ちませんでした。翌朝、実家にかけつけました。

亡くなった直後はどうされましたか?

私が着くまで、父がガウをタオルに包んでくれていました。ペットの火葬を一応は調べたのですが、これまで実家で飼ってきた動物は全部、土に返していたんです。火葬して骨だけになって戻ってくるよりも、土に返す方がガウが近くにいるような気がして、私にはしっくり来ました。
父と二人で埋葬して、毎年花を咲かせる植物を近くに植え、手作りしたプレートを立てました。葬儀場などではなかったですが、私たちにとっては満足のいくものでした。
骨を手元に残さない代わりに毛をカットし、小さいケースに入れて家族で分け、お守り代わりにしています。家の中にはガウの写真、毛を入れたケース、ご飯とキャンドルを置いて、お参りできるように整えました。

後悔の気持ちから何か形に残したいと思い、ガウ君の絵を描いてもらった

亡くなった後、悲しい気持ちとどのように向き合いましたか?

ずっと後悔していました。今さらではあるけど「本当に大事に思ってたんだよ」という気持ちを、写真を飾るなどの形にすることでしか、自分を納得させられなかったです。「どうしたらこの気持ちが緩和できるだろう、ガウの亡骸は土に埋めて、そばにいる。いろんな後悔はあるけれど、もうどうしようもないから、とにかくここまで生きたことに感謝する。それ以上に何ができるんだろう」と。
そう思って、SNSに「ペットロス 乗り越え方」と打ち込んで検索しました。ペットロスを抱えた人の気持ちを知ってみようと思ったんです。その中には、カメを亡くしてロスを抱えている投稿もありました。動物の大きさに関わらず、ペットにかけた愛情の重みは同じなんだな、とも思えました。
その時に、ペットにそっくりなぬいぐるみを作ってくれるサービスを知りました。カットした毛も埋め込んでくれるサービスだったと思います。私には必要ではなかったけれど、そうやって形に残してる人もいるんだなと知りました。
そこで、ガウの絵を描いてもらうことを思い立ちました。知り合いに油絵を描いている人がいたので、お願いして描いてもらい、絵は父にプレゼントしました。最期を看取ってくれた父も辛かったと思ったので。その時、私、少し納得できたんですよね。人間でいうところの「何回忌を終えた」みたいな節目になったんだと思います。

気持ちを落ち着けるきっかけに巡り会えて、良かったですね

私は、死んでしまった動物を土に返すことが自然なことだと思っている節があって、どうしてなのだろうか? と思ったことがあります。ある時、TVから流れてきたセリフで、「生き物は死んだら必ず土に帰るんだよ」というのを耳にして、私はこれを言葉にしたかったんだな、とわかりました。ペットに対してこういう言葉を使うことに違和感を持つ人もいるかもしれませんが、土に返すことで自然のサイクルの一部になりますし。
自分に都合のいい考え方かもしれませんが、ガウが亡くなる時、私が新しい命を宿していたということも、命が巡り巡ってるなと感じていました。私はペットか人間かに関係なく、命をひとくくりと考えています。だから、「自分の子が無事に生まれてきてくれるように見守っててね」って心の中でガウに語りかけていたし、命を次にバトンタッチしてくれたような気がしました。そういう考えもあったので、ガウが亡くなったことは適当にできなかったです。

今、ペットと一緒に過ごしている人にかけたい言葉はありますか?

死んじゃった時は、もう飼いたくないって思うんですよ。でも、まずは楽しく過ごしてもらいたいです。その子は今、飼い主さんと一緒にいて絶対、幸せだと思うので。


〈おわりに〉

飼い主さんのライフステージが移り替わることで、本意ではなく、ペットの生活に大きな変化をもたらしてしまった経験のある方もいるのではないでしょうか。今回の事例は、決して飼育放棄ではなく、ペットと飼い主、お互いができるだけ心地よく過ごせるよう、ご家族みんなで知恵を出し合った結果だったとお聞きしました。ガウ君に対する心からの謝罪と後悔も、ありのままにお話しくださいました。ありがとうございました。

(聞き手・イチノセイモコ/ライター)


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