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もう歩けないと思った
歩き始めてから2週間
足が痛くてたまらない

野宿を重ねて毎日50キロ余りを歩いていた
真夏のお遍路さんの旅
「お遍路」とは、弘法大師空海の 足跡をたどり、八十八ヶ所の霊場を巡拝すること
私は19歳
なにか心にのこることをしようと始めた旅
大好きだった水曜どうでしょうを見て、行くことを決めたのだった
大学2年生の夏休み
高知県土佐市36番青龍寺で足止めになった
病院へ行って診てもらったが、なんともないらしい
「大変だなあ」
と、心配してくれたおばちゃんが2000円をお接待してくれた
四国ではお遍路さんは弘法大師空海と同じと考えるため、お接待は「大師様への功徳」と考えている
「自分の代わりにお参りを託す」という意味もあるため、時には現金をいただくことがあるのだ
診療代もさることながら、心が温まった
そして、決めた
疲労によるものだろうから、一度青森に帰ってきっちり休もう
痛くなくなったら、またここから始めればよい
そう考えると早かった
高知駅か高知空港まで、だれかのせてくれる人を探す
青龍寺に来るお遍路さんに、片っ端から声をかけた
しかし、方向が逆だということで誰ものせてくれない
たしかに、空港や駅は次の札所37番岩本寺とは正反対の方向なのだ
だから、誰ものせてくれなかった
しょうがない
「アイスクリン」と書かれたアイスの売店のおばちゃんが、心配してくれた
そして、アイスクリンとよばれるアイスクリームをお接待してくれた
二人で雑談をした
これまでのこと、ふるさとのことなど
とりとめのないことを話した時間は、目の前の現実を忘れることができた
しかし、ふと、このまま帰れなかったらどうしよう
今日、どこで寝たらいいのだろうか
会話と会話の切れ目から、不安がじわじわとしみだしてきて気持ちが落ち込んだ
夕方になった
いよいよ、寝る場所の確保を本気で考えなければならない
痛い足を引きずってでも、移動しなければならない
そんなとき、お遍路さんではないおにいさんが参拝に来た
ダメもとで声をかけた
カーナビや地図を一連見て確かめている
アイスクリンのおばちゃんも、
「どうかこの人を助けてやってくれ。足を悪うしとるんじゃ」
と哀願してくれた
「同じ方向だからいいよ」
と、お兄ちゃんはさらっと言ってくれた
「ありがとうございますっ!!」
私は心からの感謝が湧き出したような気持ちでお礼を言った
アイスクリンのおばちゃんは、
「わしゃ、涙が出るわい」
と言って、涙をぬぐっていた
このお兄ちゃんが神様に見えた
自動車に乗せてもらった
動き出したとき、自動車の窓から見えたアイスクリンのおばちゃんは、顔をくしゃくしゃにしながら手を振ってくれた
あのおばちゃんの顔を、僕は一生忘れない
自動車に乗って、お兄さんと色々と話をした
お兄さんは岡山の出身らしい
感謝してもしきれないことを伝えた
そして、住所を教えてもらえないか?と聞いた
何かお礼を送れないかと考えたのだ
すると、こんな話をされた
旅が好きで、歩いたり、自転車にのったりして多くの旅を経験してきたという
そのとき、本当に多くのかたのやさしさをもらった
こうして旅人を助けることで、旅でもらったやさしさを返しているのだという
だから、もし僕に対して感謝の気持ちがあれば、次に君が出会った旅人にやさしくしてほしい
私は、やさしさは人から人へ渡り歩いていくものだとその時初めて知った

41になった今も、僕には恩返しの責任があると思っている
そしていただいたやさしさを、だれかにリレーしていかなければならない

結局、飛行機は満席だったので、駅に連れて行ってもらった
水曜どうでしょうで、ドリーム高知号なる深夜バスがあることを思い出したのだ
高知駅に到着した
お兄さんに何度も何度もお礼を言って、次に私が出会う旅人に、恩を返していこうと心に刻んだ
東京へ向かう深夜バス、ドリーム高知号
チケットを買う際、売り場のおじさんにこんなことを言われた
「あー、君、運がいいよ。最後の一枚だったね」
ラッキーだった
これも、弘法大使空海のやさしさだったのだろうか

                     三浦健太朗

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