オーフ・ザ・レコード物語;20XX年のゴッチャ 作品概要

 思い切り大風呂敷を拡げて舞台を設定したが、このやけに長い小説を貫くテーマは「オーフ・ザ・レコード」に集う記者達による大人の鬼ごっこである。
 
 主人公はテレビ局の女性報道記者・宮澤菜々子で国際報道部長を務めている。
 
 クラプトンのコンサートに北朝鮮の要人がまた姿を現すのではないかという情報を韓国の国家情報院が必死に追い掛け始めているという話を訊き込んだのをきっかけに、主人公達は北朝鮮王朝の動きを再び追い始め、やがて、新型コロナの全く新しいタイプの危険な変異株の出現情報と金正恩総書記の健康不安説に辿り着く。
 
 変異株情報は、中国政府とWHOの全面介入による北朝鮮でのADE変異株封じ込め作戦の発動に繋がり、世界は大騒ぎになる。しかし、その一方で、健康不安説の真相はなかなか掴めない。
 
 鍵を握っていたのは、スイスで偶然聞き及んだ北のお姫様の存在だった。
 
 主人公達はパリの病院に泊まり込む北のお姫様の姿と患者の姿を捉え、総書記が生体肝臓移植を受けた可能性が高いことを知る。
 
 しかし、報道に踏み切るほどの確証は得られない。何故ならば、総書記は平壌に健在で封じ込め作戦の指揮を執っている筈だったからだ。
 
 そうこうするうちに変異株は中国に飛び火、どさくさに紛れ、北朝鮮は強行措置に踏み切る。その上で、アメリカに直接交渉を呼び掛けた。

 だが、外部からの圧力・けん制もあり、依然、主人公達は独自情報の放送に踏み切ることは出来なかった。しかも、取材中に当局の圧力を受けたパリ支局長・大友は突然倒れ、会社のラスボスに疎まれた主人公は体よく左遷、取材の成果が日の目を見る機会は失われたかに見えた。

 しかし、最後の最後に突破口がやってくる…。

 近未来空想小説と言うべき御伽噺だが、国際政治や東アジア情勢、国際ジャーナリズムの理想と現実、更にはインテリジェンスの世界や企業内の人間模様などに御関心のある方々には示唆に富むであろう様々なエピソードを織り込みながらストーリーを紡いでいる。
 
 繰り返しになるが、そうして描いたのは、様々な壁やしがらみ、圧力を乗り越え、諦めずに粘り強く戦い抜いた主人公達による“大人の鬼ごっこ”の物語なのである。

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©新野司郎


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