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Interview /【石塚 香菜さん】

※この記事は、平成28年(2016)年度の新潟県アール・ブリュット・サポート・センター報告書に掲載されたものを改編しています。取材:2017年2月


Interview
石塚香菜さん(杏珠さん母)
表現する人
[石塚杏珠(いしづかあんじゅ)さん 2006年生まれ]


<話しを聞く人>
 角地智史(新潟県アール・ブリュット・サポート・センター アートディレクター)

長岡市で平成28年11月に開催された『アール・ブリュット展in長岡』に作品を出展した石塚杏珠(いしづかあんじゅ)さん。杏珠さんは自閉症で、日々コピー用紙で自作した服を人形に着せたものや、粘土で作った食べ物などを自分の思いのまま自宅に並べて暮らしています。
杏珠さんにとってお気に入りの物が、今回初めて作品として貸し出されました。言葉でのコミュニケーションが取りにくい方の作品をお借りし展示することは、ご本人のその後の生活に関わってくることは少なくありません。今回、杏珠さんにとってそれはどう影響したのでしょうか。杏珠さんの制作と創作について、お母さんである香菜さんに率直に感じていることを聴いてみました。

石:石塚香菜
角:角地智史

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【日常のやりとり】

角 杏珠さんはいろんなものを作っていますが、それを家の中に並べておきたいという気持ちが強いですよね。その時にどこまで許すかは、なかなか難しいのかなと思うのですがその辺はどのようにバランスをとっていますか。
石 気がつくと進出しているので一個出したら、別のものをこっそり片付けるとか。拡大していかないように工夫しています。最近は、新しいものを作るというよりもあるものを並び替えている感じですね。その中で、いらなくなったものはポイ、みたいな。自分でいらないと思ったものは捨てたり、カラの缶の中に入れています。
角 缶の中には面白そうなものが詰まってそうですね(笑)。
石 そうですね。あと、タッパはよく使っています。タッパというよりもフタをお皿代わりに使っている感じかな。私が使う頻度の少ないものはそのまま使わせています(笑)。
角 日常的によく使うものを使われてしまうと困りますよね。杏珠さんはフタを別の物に交換しても問題ないですか?
石 ないですね。無いと分かれば粘土でお皿をつくったり。作る材料がなければ何かで代用する感じですね。
角 杏珠さんの作品って、そういった要素がありますよね。これがだめならあれにしようとか。例えば、お寿司は自分で作るけど、作らずにチラシの切り抜きで代用するものもある。チラシを使うのも、このチラシを使いたいというこだわりはあるんですか?

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石 うーん、よくわからないですけど、ケーキ屋さんのチラシは好んで見ている気はします。あと、定期的によくチェックしているのはホームセンターの食品館のチラシと、家電量販店のチラシ。それは切り抜くことはしないけど並べておきたいようです。
角 家電量販店のチラシも好きなんですね。
石 小さいときは家電量販店のチラシを持つと落ち着くので、それをもって保育園に行っていました。カラフルなロゴが好きなんじゃないかと。同じお店のチラシでも白黒のものは選ばないですね。

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角 杏珠さんにとって、理想的なモノの置き方ってどんな状態なんですかね?
石 本当は全部机に並べたいんでしょうね。
角 作品に囲まれてご飯を食べたいということなんですかね?
石 そう思います。外食に行ってもメニューを置いたまま食べたがるんです。
角 2段3段というよりも平台で並べたいみたいですね。
石 そうですね。ただ、並べられる限度は本人も理解しているようです。最初は、ここまでだよと伝えてアレっ?って反応を示したのですが、限られたスペースで並べてみて本人も気に入ったんじゃないでしょうかね。
角 やってみて、ずらしてみて本人の様子を見て大丈夫そうであればやってみると。話を聞いていると案外受け入れてくれるみたいですね。2~3日は気になっているけど、そのあとはしょうがないなと。
石 他のお友達に触られるは嫌みたいですけどね。

【アール・ブリュット展 出展前後のエピソード】

角 長岡展で杏珠さんが大事にしていた作品をゴソっと貸してもらったんですけど、その時はどうでした?
石 あれ?って顔をして「りかちゃん、りかちゃん」って言ってましたね。どこかに隠したんでしょって顔をしていました(笑)。
角 僕らが作品を預かっていて自宅に作品はないのですが、どうやって納得してもらいましたか?
石 「りかちゃんは出張中」と伝えました。
角 それで納得されましたか?
石 最初は家の中を物色していました。でも無いのがわかると納得して、ウワーッと怒ったり泣いたりすることはなかったです。次の日起きて、もしからしたらあるのかもというところはあったみたい。
角 いろんなものの中で特に、『りかちゃん』だったんですね。
石 『りかちゃん』のワードは出ていましたね。一番のお気に入りなのかな。妹が人形をさわるとすぐに取り返していましたし。
角 預かったのは1週間ぐらいでしたね。その間の様子はどうでした?
石 最初の1~2日間そわそわしただけで戻りましたね。
角 借りる身として安心しました。

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角 その後、展示を見に来てくれたわけですが、その時の様子はどうでした?
石 ここにあったのねと(笑)。凄くにこにこして、さあ持って帰りましょうと。すぐに手にとったのは『りかちゃん』でした。
角 捨てられたのはないという安心感ですかね。
石 持って帰って、また家に並べなくっちゃと考えていたみたいでしたけど。
角 当日、凄い勢いで作品を持って帰ろうとしていました。帰り際に『りかちゃん』を返してもらったんですけど、どうやって納得してもらったんですか?
石 本人は、自分で持って帰ろうという気持ちはなくて、私に任せたぞという感覚だったみたいです。私がきちんと持って帰ってきてくれるだろうと。

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「展覧会 - アール・ブリュットin長岡- 日々是好日」の展示風景
(2016年11月19 - 20日開催)

角 展覧会後の変化はありましたか?
石 「アール・ブリュットin長岡、終わっちゃった」って言ってましたね。
角 それはなんでろう。
石 「長岡行く?」「アール・ブリュット、終わっちゃった」とボソボソ言って。割と「終わっちゃった」って本人が嫌な気分の時に出る言葉で、やりたくないとか行きたくないとかそういう時に出るワードなんだけど、でも「長岡行く?」って言ったりしているし。
角 どういう気持ちなんだろう。いいのかな、悪いのかな。
石 そこはちょっとわからないですね。でもにこにこしながら言っているので、そんなに悪い記憶ではないのかな。
角 展示会場ではるんるん歩いているようにも見えたんですよね。いい思い出としてあるのかな。展示することは事前にお伝えしていたんですか?
石 言っても分からないかなとは思ったんですけど、長岡展のパンフレットに自分の作品が載っているのを見ていましたね。ここに飾るんだよ、ここに出るんだよとは言いました。

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【作品が外に出るということ】

角 家族も含めて展覧会後の反応はどうでしたか?
石 家族の中では、表舞台に出ることはないだろうと思っていた作品だったので、凄く嬉しかったです。学校の先生も休日だったけど観に来て、とても喜んでくれました。「学校でつくるものと、家でつくるものが違うことが分かって、凄く新鮮だったよ」と。クラスの子のお母さんも観に来てくれました。
角 学校でつくるものと家でつくるものが違うのは、先生にとっても知る機会だったのかなと。
石 学校は授業の中での創作なので、先生の手が入ったりしているようです。

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角 今後展覧会に出展する機会も出てくるかと思うのですが、杏珠さんの場合は立体作品が多く全部保管しておくのは難しいと思うんですがその辺りどうですか。
石 作ったものはできればとっておいてあげたいけど、粘土系はカビも生えてくるし(笑)。なのでどうしたものかと。小麦粘土って作った直後は柔らかさがあっていいなと思うんですけど、乾いてきちゃうとどんどんボロボロになってしまうんです。なので、写真だけは撮るようにしています。

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【関わって関わって新たな可能性を】

角 これからやりたいことや考えている方向性はありますか?
石 そうですね。今は粘土にこだわってやっているので、こういうやり方もあるのよと本人が理解できるようなイベントや教えていただける機会があると嬉しいです。
角 本人にとって好きなことが発見できるような機会ですかね。今、つくる機会はご自宅と学校、そして通われている施設※『にこ』ですか。学校では何をされていますか?
石 学校では絵が多いですね。粘土も少し。あとはお菓子の空箱を使ってお店屋さんごっこみたいな感じで。それもまた並べ方があるみたい。
角 やっぱり並べ方がキーワードですかね。
石 他の友達に、並べ替えられたりペースを乱されるとそれは許せないみたい(笑)。

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杏珠さんが通う、放課後デイサービス[にこ]でも作ったものを並べている。

石 この前角 『にこ』の他の利用者の方が、杏珠さんの影響を受けて食べ物系の作品を作り出したと聞いています。そんな触発される場があるといいですね。
石 『にこ』で、その子が自分でつくった果物を置くんだけど、それは違うとうちの子がどかすらしいんです(笑)。
角 その子はそこに並べたいんですよね(笑)。
石 そうなんです。その子は空いているスペースを埋めたいって置くんだけど、それは違うってどけるようです。でもその中でも何点か許せるものがあるみたい。
角 それは不思議なコミュニケーションですね
、その子のお母さんと会った時に「なんか、コラボレーションしてんだって」という話になって(笑)。
角 いいですね。親御さん同士でも興味や何かをつくっているという共通の話題があると様々なことがつながりますね。

※にこ 社会福祉法人みんなでいきるが運営している放課後等デイサービス事業所

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