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Interview / 【星野 美紀さん】

2020年の第18回新潟県障害者芸術文化祭~ふくらむアートふあっとにいがたフェスティバル~に、新しく「アール・ブリュット賞」ができました。
その初めてのアール・ブリュット賞を受賞された作者をご紹介します。
取材:2021年5月

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Interview
星野美紀(ほしのみき)さん 1995年生まれ
セルプこぶし工房職員:鵜川一寛さん(施設長)、田中瞬さん(サービス管理責任者)
<話しを聞く人>
角地智史、渡辺智穂(新潟県アール・ブリュット・サポート・センター)

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星野さん(中央)

第18回新潟県障害者芸術文化祭
アール・ブリュット受賞作品「クロウサギとゆかいな仲間たち」

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 この作品は1冊の絵本になっていて、物語からキャラクター、製本にいたるまで星野さんがお母さんと相談しながら作りました。出品するときは、毎回春から文化祭の出品作品を構想し、制作を始めるそうです。
 「クロウサギとゆかいな仲間たち」のお話は、「こぶし宿」という場所を舞台に色んなキャラクターが登場するお話です。「こぶし宿」は仕事場(セルプこぶし工房)をモチーフにしていて、登場する動物のキャラクターは、NHKで放送されている子ども番組で見たキャラクターや、ディズニーのアート展を見に行って考えました。他にもたくさんのアニメのキャラクターが好きで、本を見ながら描いています。
 動物は猫が大好きとのこと。この作品にも登場し、他の創作物でも猫のキャラクターが描かれた絵が多くあります。
 誰もが知っているようなキャラクターと、星野さん自身の創作が混ざり合い、独自のキャラクターが生まれているようです。そのキャラクターはどれも優しい雰囲気で、まるで星野さん自身が表されているようです。

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「クロウサギとゆかいな仲間たち」(一部)
右下はスケッチブックに描かれた、制作中のイラスト


創作のきっかけと、絵を描く時間

 現在、南魚沼市のセルプこぶし工房へ通う星野さん。就労支援施設であるセルプこぶし工房では日中、プラスチック(ゴミ)の分別作業、清掃などの作業をされています。
 新潟県障害者芸術文化祭には、2016,2017,2018,2020年に出展しました。2020年にアール・ブリュット賞を受賞されたときには、ご家族や施設の皆さまも一緒に喜ばれたとのこと。星野さんもとても嬉しかったとお話ししてくださいました。

 高校卒業後にこの施設に来られた星野さん。元々絵を描くことが好きで、お昼休みの時間に毎日のように絵を描いていたところ、当時の施設長の目に留まりました。前施設長は自身で創作活動をし、地域で個展を開くほどの方だったため、絵を介した交流が進んでいきました。描きたい、もっと上手になりたいと意欲的だった星野さんは、前施設長と交換ノートを行うようになり、事業所内でもお昼休みのたびに絵を見せに行ってはアドバイスをもらっていたとのこと。当時はお昼休みに星野さんの他にも絵を描く人がたくさんいたため、サークル活動のような雰囲気となっていました。完成した絵は事業所内に飾るなどの取り組みもあり、芸術への興味・関心が高まったことで、新潟県障害者芸術文化祭への出品が始まりました。

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現在も事業所に掲示されている、前施設長によるイラスト

 現在、星野さんは毎朝事業所へ行く前の1時間程度と、帰宅後の夜に絵を描いたり塗り絵をするなどしています。夜はその日にあったことを日記に記し、その後絵を描くことにしているそうです。
 また、休日にはご自身でWEB上で検索し、調べながら手芸もしています。星野さんはそれについて「DIYをする」とお話ししてくださいました。ポーチやぬいぐるみを作っています。ぬいぐるみも絵で表現されたキャラクターのように、星野さんの世界観が表れた独自のキャラクターです。

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これは職員さんにプレゼントしたもの。
「鬼滅の刃」のキャラクターがモチーフ。

 現在は、最近本屋で購入した、建物や背景画の描き方(パース、デッサン)の本を毎日持ってきて、お昼休みに和室に来て描いています。ページ見開き毎に一説明となっている本なので、それに倣って描き進めています。
 アール・ブリュット賞を受賞された後、星野さんはさらに創作活動に意欲的になったとのこと。利用者さんや職員の誕生日になると、その人へ絵をプレゼントするようになりました。

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職員の田中さんより

 発達障害をもつ星野さんは施設に入って間もない頃、仕事をする上で気になることが多かったり、コミュニケーションを取ることが上手くいかないこともあったりしたそうです。お昼休みは自由時間ですが、利用者さんによっては余暇時間を上手く過ごすことが難しい方も多くいます。そんな方たちに、職員の田中さんが何気なく声をかけ、和室でトランプや談話をするようになりました。この声かけがきっかけで、何人かの利用者さんが昼休みに和室で過ごすように。星野さんもその中の一人です。いつの間にかその和室で星野さんや他のご利用者さんも、各々の自分の時間を「過ごす」ことができるようになったそうです。

 田中さんはこう話します。
「和室で一緒に各々の時間を過ごすようになり、それまでは対人関係のちょっとしたトラブルが多くありましたが、少しずつ少なくなってきました。周りがトランプをする横で星野さんは絵を描いていて、たまに描けた絵をその場にいる仲間に見せてくれます。それを私や他の利用者さんが「すごいねー」「じょうずだね」と一言かけるだけ。一緒に同じ部屋で過ごすだけなんですが、本人がだんだん変わってきました。絵がコミュニケーションツールになっているようですね。」

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利用者さんが集う和室でお話しを聞きました。左が職員の田中さん。

 日頃、事業所での過ごし方を職員がアドバイスし、それを星野さんは自分のノートに細かくメモしています。常にメモを見返して、過ごし方を確認しています。絵だけでなく生活全般において学ぶ意欲の高い星野さん。探求心があり、やると決めたら最後まで取り組みます。

 好きな言葉は「失敗は成功の基」。田中さんや職員さん、ご家族が星野さんの行うことに興味を持っていることを言葉で本人に伝えています。それが、星野さんの自分のやりたいこと(創作活動)を継続する力になっているのだと感じました。

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