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【第1回】アール・ブリュットってなあに?

NASCのアートディレクターの角地智史と、今年度参加型展示会でアドバイザーとしてご参加いただいた飯塚純さんは、偶然にも「ファウンド・フォト」という美術のジャンルを研究するアーティストです。そんな2人が2020年9月10日から12月5日までアール・ブリュットに関して対話を重ねました。その対話を飯塚さんに全4回で報告いただきます。

はじめまして!

美術家の飯塚純(いいづか じゅん)です。

私は「ファウンド ・フォト」という手法で作品を制作し、美術館やギャラリー、書店やアート・フェアなど、新潟を拠点として国内外で活動をしているアーティストです。

2020年に、新潟県アール・ブリュット・サポート・センター(NASC)からアール・ブリュット展の参加者に向けて展示のワークショップ作品を発表することへのアドバイスをして欲しい・・・という内容の依頼を受け、こうして関わりをもっています。

さて・・・私はワークショップとアドバイスの依頼を受けたものの、アール・ブリュットに詳しいわけではありません。そこで、NASCでアート・ディレクターをされている角地智史さんへ、アール・ブリュットに関する理解を深めるために対話の場を設けていただくよう、お願いをさせていただきました。

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こうして、約4ヶ月間にわたりビデオ通話で対話を重ねていくことになりました。

さて、まずは一般的なアール・ブリュットという定義を見ていきましょう。

「アール・ブリュット」とは、「専門的な美術教育を受けていない人が、湧き上がる衝動に従って自分のために制作したアート」のことだそうです。

うーん・・・やはり、まだ良く分かりません。

「角地さん・・・アール・ブリュットって何(なあに)?」

そんな質問から始まった対話を通じて、私が「ファウンド ・フォト」作品を制作する際におこなう「ファウンド =見出す」という行為が、このアール・ブリュットについて考えた約50時間以上の対話の中で重要なキーワードとなりました。

そこで、その「ファウンド =見出す」という行為についてスポットを当てながら、私が感じたことを本ブログで報告していこうと思います。

この連載では、「ファウンド ・フォト」作品を制作している私の視点から、角地さんとの対話を通じて感じた「気づき」をお伝えすることで、アール・ブリュットに関わる方々にとって、何かに役立つヒントになればと思っています。

さて、先ほどから出てきている「ファウンド ・フォト」という言葉を、初めて聞く方が多いかとおもいます。

「ファウンド ・フォト」の作品は、簡単に説明をすると「自分で撮影していない写真を使って制作した写真作品」のことです。

なんのことか、分かりませんよね、、。

では、実際に私の作品のひとつをお見せしますね。

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出版元のDOOKSで紹介されているページ: 

https://dooks.info/076-dooks2.html   

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"STARDUST"
Jun Iizuka 飯塚 純(*Image by DOOKS) 

"亡くなった祖父の遺品から発見した"STARDUST"と表紙に書かれた写真アルバム。祖母が撮影した祖父との旅行写真を複写し、時系列を編集することで物語性を付与しました。捨てられてしまいそうになった記憶を、そっとすくいあげた追憶の旅。"(出版元のDOOKS公式サイトより)

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写真は全て祖母が撮影したもので、私は写真の並び順やイメージの選択をしています。

当初は祖父の遺品整理が目的だったため、残された祖母のために制作したプライベートな写真アルバムでした。

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2014年の冬、私は写真アルバムが完成したので祖母に見せることにしました。

しかし、祖母は首を傾げます。

「・・・いつ海外旅行に行ったの?」

なんと、自分自身で撮影した写真だと気づかず、撮影した本人がこの写真の存在を「忘れていた」のです。

それが亡くなった祖父との旅行写真だと伝えると・・・祖母は、まるで初めて見た光景のように写真をまじまじと眺めていたのです。

そして、次第に記憶が蘇り、思い出してきた様子でした。

・・・その様子は、私に新鮮な感覚を与えてくれました。

"私が写真アルバムを作って祖母に見せなければ、その写真(記憶)は・・・世界のどこにも存在しなかったのでは?"

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私は、この編集されたアルバムそのものが、「祖母の忘れてしまった記憶から、すくいあげることができた追憶の旅」のように感じ、作品として発表することにしました。

偶然に、この遺品で一緒出てきた写真アルバムが、「STAR DUST」と表紙に書かれたものでした。STAR DUSTは、星屑(ほしくず)という意味です。流れて消えてしまうものなので、まさに・・・消えゆく星をつかまえた感覚になりました。

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これが私にとって最初の「ファウンド =見出す」行為によって制作された作品となります。

この作品を制作した経験によって、私は「ファウンド・フォト」作品における制作プロセスを3段階に(自分なりに)分けてみることにしました。

1. 隠された何かを発見する
2.  発見したものに視点を与える
3.  その視点を形にする

この3つが成立して、この「STAR DUST」のようなファウンドした作品となると考えました。

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さて、「ファウンド =見出す」行為の意味が少しはイメージできたでしょうか?

続いて、それを踏まえた上で一本の短い動画をご覧ください!

先ほどの3段階のプロセスで1段階目になる「隠された何かを発見する」練習として、私が日頃から撮影している動画の一部です。

この動画は、私が新潟県の水族館で実際に撮影したものです。水槽から虹色の「光」が、まるでカーテンのように現れていました。

しかし、人々は魚がいる水槽しか見ていません。目には映っていたかもしれませんが、誰もその「光」をちゃんと見ていないんです。

私だけが、この「光」の存在をとらえていたような気がしています。実際、とても美しいものだと思い、撮影してみました。

例えば、この「光」が「誰かの作品」だったとします。

これをつくった人が自ら「この光が作品」だと伝える術がなかったら・・・

あるいは、本人がこの光を「作品」だと認識できずにいたのなら・・・

光の作品は、誰の目に触れることがないですよね。

では、どうすれば・・・作品として誰かに見てもらえるのでしょうか?

・・・そこで、角地さんとの対話の中でチャットに書き込んだ言葉がヒントになりそうです。

____" 代わりに伝えること "

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私は、今まで作品を通じて解説してきた「ファウンド =見出す」という行為の構造が、少しだけアール・ブリュットと似ていると思っています。

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なぜならば、私が角地さんから教えていただいたアール・ブリュットの作品の多くが、作品をつくった本人ではなく、そのご家族や関わっている施設の方々が「発見」して、「代わり」に作品として場に「出品」しているものだったからです。

この「代わりに伝える」・・・という「代わり」という言葉の部分が、アール・ブリュットへ理解を深めていくために必要な大きな手がかりのように感じています。

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こうして、角地さんとの対話がスタートし、アール・ブリュットの歴史などを学ぶ中で、私はこのアール・ブリュットというものを「ファウンド =見出す」というキーワードを中心に考えていくことで、自分自身の領域に手繰り寄せて考えることができることに気がつきます。

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そこで、まずは「見つける」という行為について見つめ直すため、角地さんと一緒に「何かを見つけるためのゲーム」をオンライン上で行うことにしました。

次回は、その「何かを見つけるためのゲーム」の様子とその実践から気づいたことをお話できればと思っています。

それでは、またお会いしましょう!

(次回へ続く...)

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(文と写真:飯塚純)

飯塚純(いいづか じゅん) 
1987年新潟県上越市生まれ、上越市在住。国内外で美術家として活動中。これまでにDOOKSより、多くの作品・書籍が出版され、2018年に 香港 のアート・スペース「Tai Kwun」にて作品の一部がア ー テ ィ ス ト ・ラ イ ブ ラ リ ー に 収蔵。近年では、講演やワークショップなどの教育活動もおこなっている。
飯塚純さんのホームページ:https://www.juniizuka.net/
飯塚純さんの研究実績はこちら:https://researchmap.jp/juniizuka

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令和2年度 新潟県障害者芸術文化活動普及支援事業

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