「春香」「唐人お吉」〜高木東六のオペラ その②

「唐人お吉」の物語は、明治開国の時代、黒船がやってきた下田に実在した「斎藤きち」をモデルに描かれたお話で、小説や映画、そしてオペラではこの高木東六の作品と、かの山田耕筰の作品「黒船」の2作品がある。

斎藤きちとは何者ぞ。

アメリカ領事・ハリスの看護人に選ばれた女性の一人で、たった三夜で暇を出されるが、ラシャンメ(洋妾)と蔑まれ酒に溺れ、最期は病を患い自死した、という記録が残されている。

今回のオペラの台本は、テレビ作家で名を馳せた江上照彦。高木東六からのお題は、「アツアツの恋愛とお祭りと悲劇的結末」。
お吉とその婚約者の鶴松、そしてアメリカ領事のハリス。奉行所からハリスの妾になるよう命ぜられるが頑なに断るお吉、婚約者の鶴松を出世を口実に懐柔し、お吉を説き伏せさせる。鶴松に裏切られハリスのもとに赴いたお吉だが、いつの間にかハリスに惹かれていく。そんな自分の心に気づいたところで、ハリスに帰国命令が下る。帰国を有頂天に喜ぶハリスの姿に、心打ち砕かれるお吉。ある冬の日、病み果てたお吉は幸せだった頃を思い浮かべて幻想の世界に身を委ねる。そこには優しい鶴松がいる。幻想の花吹雪は現実の冷たい吹雪と替わり、哀れなお吉に降りつもる。

作曲の高木東六は、オペラを初めて見る人にも楽しいものであるように、とポピュラーな音楽を目指したことを初演時のプログラム・ノートで述べている。
しかし丁髷時代の日本を描くのに西洋のメロディーがマッチしないので、その部分は苦手な日本の音階で書き、アメリカ人の歌はすらすらと楽しく書いたとも語っている。

初演は1982年。今回他の作品を歌うバリトンの飯村孝夫氏が、この初演に出演している。その時のプログラムとヴォーカルスコアがこちら。

自分が生まれている年というのは「ひと昔前」という感覚だが、もう40年も前とは・・・


ところで同じ題材で書かれた山田耕筰の「黒船」は、コンサート第1回で取り上げました。この演奏会のダイジェスト版がYouTubeでご覧いただけます。

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