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【2023Word】ウェルビーイング

2023年12月15日
鶴田知佳子

「日本の英語を考える会」のメンバーは、カタカナ英語を絶対悪とみなしているわけではない。「英語学習の妨げになる場合もあるかもしれないが、どうしたって適切かつ分かりやすい日本語訳が見当たらなければ、カタカナ英語の使用はやぶさかではない」と皆思っている。そんな思いをあらためて強くさせた言葉が最近日本で市民権を得つつある。その語こそ、今回のタイトル「ウェルビーイング」である。
 
ウェルビーイングと「ハピネス」の違いは何だろう、とあれこれ検索してみると、最大公約数的な説明としては、「happiness」は比較的短期的な幸福、一方の「well-being」は持続的・継続的な幸福あるいはその状態、ということだという。
 
ウェルビーイングという語自体は英語の歴史の中でもそれほど新しい言葉ではないのだが、コロナ禍を経て通常の生活を大きく制限された人々、特に学生を中心とする若者たちの健全な精神状態をどう取り戻すか、という議論の中で頻繁に「ウェルビーイングの大切さ」が指摘されるようになり、いつしか日本でもはやり言葉のようになっていったようである。
このウェルビーイング、企業も盛んに使っている。

例えば、大手証券会社フィデリティ・インターナショナルには、フィナンシャル・ウェルビーイングコラムというのがある。そこで述べられているのが、お金の面から幸福度を測るモノサシとしての「フィナンシャル・ウェルビーイング」という考え方である。これは、客観的な「数字」と主観的な「感情」という二つの要素からお金の問題にアプローチする、フィデリティ独自のフレームワークだそうだ。

ウェルビーイングは日経新聞社が11月8日に開いた第5回日経Well-being シンポジウムでも、「GDPとウェルビーイングで国の成長を見ることが政府方針として決まった。その中で、ウェルビーイングと街作りは欠かせないキーワードになってくる」などと述べられている。(11月8日付け日経新聞第30面全面広告より)。

オックスフォード大学サイード・ビジネス・スクール教授であるヤン・エマニュエル・デ・ネーヴ氏が今年の3月にロンドン・スクールオブエコノミクス名誉教授であるリチャード・レイヤード氏と共著で出版したWellbeing: Science and Policyと言う本の中で、What produces a happy society and a happy life?に対する考えが豊富な例と共に述べられている。お金と幸せの関係でいえば、ロイヤルティーの高い社員は生産性が高く30パーセント以上の差がつく、また離職率は、幸福度の高い社員はそうでない社員と比して60パーセント近く減少するそうだ。働く人が満足している状態にある、ウェルビーイングな状態というのが、よい会社の状態として多く登場する、これは今年の気づきの一つだった。
 
このウェルビーイングの語、日本では今後どのように使われていくのだろうか。他のカタカナ語と同じように、定着していくのは確実と思われるが、単に名詞として使われるか、「ウェルビーイングな○○」などと形容詞のようにも使われるようになるのか、はたまた各人の脳内に抱く「ウェルビーイング」のイメージが日本ではどのような概念でまとまっていくのか。興味の尽きない語である。

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