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新連載「行政HPの英語」シリーズ ~ はじめに

当ブログでは昨年、「英語看板のお手本」シリーズと題して「立ち入り禁止」「緊急避難場所」など、街中でよく見かける看板表現の「伝わる英訳例」を、全8回にわたり解説してきましたが、今般、第二弾として「行政・自治体ホームページの英語表現」シリーズをお届けすることになりました。

近年、行政や自治体のホームページはAI翻訳エンジンとの連携による多言語化が進んでいますが、誤訳がそのままになっていたり、外国人に必要な情報の検索性がよくなかったり、外国人居住者にとって使い勝手のよいものとは必ずしも言えないことが多いようです。

そこで新シリーズでは、「防災」「ゴミ出し」「出転入手続き」など、外国人居住者にとってなじみが薄く、でも日々の生活で重要なトピックスについて、役立つ情報や誤訳されやすいワードの正しい英訳例などを、順次ご紹介していく予定です。

予告編である今回は、トピックス別の解説に入る前に、そもそも外国人にとってわかりやすく使いやすい行政ホームページとはどのようなものなのか。それを可能にするにはどのような工夫が必要なのか。当会の基本的な考え方をお伝えします。

1)AI翻訳との上手な付き合い方

AI翻訳は必ずしも正しいとは限らない。必ず校閲すべし。

近年のAI翻訳の進歩は素晴らしいものがあり、いまや大量の英文の素早い訳出にはAI翻訳が不可欠と言っても過言ではありません。しかし、黎明期に比べれば格段に精度が良くなっているとはいえ、やはりまだ誤訳が起きることもしばしば。明らかな誤訳とまでは言えなくても、英語として不自然で意味が通じない訳出も多く、AI翻訳を校閲をせずそのまま採用するのはリスクが高いと言えます。
この問題は当ブログでも何度も取りあげておりますが、改めて、人間(理想的にはネイティブスピーカー)による校閲の重要性を訴えたいと思います。

「やさしい日本語」や「ふりがな」の導入も検討すべし。

近年、AI翻訳エンジンに「やさしい日本語」や「ふりがな」変換の機能が搭載されるようになり、行政ホームページでもそれを採用する例が増えているようです。(「やさしい日本語」とは、外国人にもわかるように、簡単な言葉や文章構造に置き換えたり、漢字にふりがなをふった日本語のこと。日本政府は2019年、外国人居住者の在留支援策の一つとしてすべての省庁に推奨。)
筆者が確認した範囲では、2024年5月現在、東京都内でホームページを持つ57の自治体のうち23%が「やさしい日本語」に対応し、16%が「ふりがなON」の機能を搭載しています。
多言語翻訳を補う手段として非常に有効と思われ、自治体での採用が今後さらに進むことを期待します。

画像情報は翻訳されないことに注意。文字情報へ変換すべし。

防災情報や救急診療など緊急性の高い情報へのリンクをアイコン化して、目立つ色で目立つ位置に配置しているHPが多くあるのですが、これが曲者です。アイコンが画像データとして保存されている場合、翻訳エンジンが言語として認識することができず、英訳ページにおいてもアイコン画像だけが日本語のまま表示されることになります。例えばこのような↓ケースです。

↓↓↓
(出典:墨田区公式ホームページ。画像は2024年5月現在)

翻訳エンジンを使用するときには、訳出されるべき情報はすべて文字情報として保存することを推奨します。

2)外国人にとって必要な情報のみを、わかりやすく整理すべし。

日本の行政ホームページの記載内容は、例え訳出が正確だったとしても、日本の文化慣習、気候風土、法体系、行政手続き等の知識のない外国人には、そのままでは理解が難しいことが多いと予想されます。たとえば「戸籍」や「住民票」という概念は欧米諸国にはありませんし、台風や集中豪雨、地震などの自然災害も、なじみのない外国人は多いことでしょう。

これらの内容をすべて訳出するのではなく、外国人居住者にとって必要最低限な情報のみに整理し「まとめページ」や「手引書」を作ることを、当会は推奨します。筆者が調べたところ、2024年5月現在、東京都内でホームページを持つ57の自治体のうち、外国人向けの「まとめページ」や「手引き書」があるのは全体の7%にとどまっています。

外国人むけ手引書やまとめページは日々更新の必要はなく、一度しっかりと作りこめば数年は使うことができるはずですから、執筆陣にネイティブスピーカーを加える、丁寧な校閲を行うなどして、外国人にとって真に必要な情報を、伝わる表現で提示することが可能ではないでしょうか。

少々長文となりましたが、当会の「自治体ホームページの多言語化」に関する基本的な考え方をご紹介しました。次回からはいよいよトピックスごとの解説がはじまります。まずは「防災」編をお届けする予定です。お楽しみに。

(文責 楠田倫子)


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