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嗚呼!日本の英語   白木聖代

~街で見かけた看板、案内、説明、標識などの間違った英語、あるいは修正した方がよい英語をあげ、それらを種類別に分類し、なぜそのような間違いが起こったのか、また間違いではないが英語圏で使われている定型表現などについて述べた~

ブログを書くのをずっと怠っており、久しぶりの投稿になる。過去の事を
振り返ることから始めよう。
 
2020年に私たち「日本の英語を考える会」の中で
自治体のホームページの英訳が機械翻訳によるものが多く、英語として間違いや意味不明の部分が多いという話があった。
そこで、私も浦安市のホームページを見ると、やはり英訳が文になっていない、意味が通じないものが多く、これではいけない、と内田悦嗣浦安市長に連絡をとった結果浦安市ではホームページも含めて間違った英語表記を直していこうと「多言語表記検証委員会が発足した。明海大学の上杉恵美教授が委員長、私が副委員長になり、浦安市の関係部署の責任者と共に現状を確認し、
問題個所について修正する事が決議された。そして、市民(私)の指摘で自治体が動き、ホームページばかりでなく、公の看板、標識、説明なども修正していこうという動きは全国でもあまり例がない、ということでマスコミに取り上げられた。実際、浦安市では私、英語ネイテイブスピーカーなどが中心になり、問題個所を修正し、現在、担当部署が修正作業にあたっている。すでに修正完了のところもある。
 
今回、浦安市国際交流協会文化交流部会から依頼を受け「嗚呼日本のおかしな英語」というタイトルでプレゼンテーションを行ったが、今日はそこでの
話を元に浦安市内の標識、案内、説明、インターネットなどで見つけた間違った英語、大学非常勤講師として見つけた学生の間違った英語、など日本で見られる間違った英語と、なぜそのような間違いが起こるかについて述べた。間違いの種類をタイプ別にまとめ、間違いはどうして起こるのかを考えてみた。(インターネットは「Engrish.in Japan」などからとった。)間違いの理由としては主語がないなど、日本語の特性によるもの、文脈の中でどう使われているか考えていないもの、辞書に頼りすぎのもの、英語圏で使われている定型表現をしっかり調べず、使ったものなどがあった。それでは、見ていこう。

① 「日本語は主語を省略するから、主語の設定むずかしいね」タイプ

Engrish in Japan

階段はゆっくり昇り降り➡The stairs slowly rise and fall. 
という英語が書かれているが、
これは、「階段自身がゆっくり上がったり
下がったりする」という意味になり、
まるで、お化け屋敷のよう。
これは階段を上り下りするのは
人間だが、「階段は」で始まっているので、
「階段」を主語にしてしまった。
正しい英語は
‘Take the stairs slowly.  ‘Don’t run’
‘Go up and down the stairs slowly. 
’など

あぶないから、はいってはいけません。➡Because you are dangerous,
                   you must not enter.
これは➡あなたは危険な(人)ですから、入ってはいけません??? という意味になる。あぶないから、は「あなた自身が危険な」 という意味ではない。この場合は無生物主語のIt を使う。このIt を思いつかず「You」に 
なってしまった
正しい英語は‘It’s dangerous; Do not enter.’ ‘Hazardous area; Do not enter’ など

Engrish in Japan

ペットをお連れの皆様へ テラス席をご利用いただけます。
➡The Terrace Can be with Dog
テラスは犬と一緒にいられます。といった英語になっている。これも主語の設定を間違えた例だろう。アメリカ人の友人がアメリカではこんな表現だと
教えていれたのが次の写真

正しい英語は Dogs Welcome on our Patio. など

学生たちの英作文から
私は大学の非常勤講師として、writingを教えている。
あるテーマについて英語で考えを書いてもらう。そこでも学生たちは
主語の設定がおかしな英語を書いてくる。例えば田舎生活か都会生活がよいかという
テーマの時に「私は都会生活がよいと思います。なぜなら、都会は買い物を
楽しむことができるからだ」という文を 'City can enjoy shopping.' と書いてしまう。「都会は」で日本語の文が始まっているので,すぐに‘City’から始めてしまう。買い物を楽しむのは「だれか」を考えれば,すぐわかるはずだが。この正しい英語は言うまでもなく’We can enjoy shopping in the city.’

また、クレジットカードがよいか現金がよいかというテーマの時に、
「私はクレジットカードの方がよいと思います。なぜなら現金は(おろすのに)銀行に行かなくてはならないからだ。」という文を、「現金は銀行に行かなくてはならない」と書いてしまう。’Cash has to go to a bank.’
正しい英語は ’You have to go to a bank to get cash.’だ。
 
先ほどの写真の例も学生の例も、日本語は主語を省略しても意味が通じるし、主語を使わず話すことの方が多いので、主語を明記する英語にするときに、主語を正しく設定できないことが間違いの原因だと思う。
 
学生たちには「都会では」「現金に関しては」と言い換えられる時には、これらは主語にはならない、と教える。そして、英語にするときに、内容を考えて主語を決めることと教えている。

② 「ひとことひとこと辞書を引きましたが、それが、なにか?」タイプ

                                                                                                      Engrish. in Japan

9カ月の赤ちゃんから食べれます。➡Babies can be eaten for 9 months.
(日本語にすると「9か月間赤ちゃんを食べることが できます」という意味になる) 
ギャー!!赤ちゃんを食べてしまうのか!
これを訳した人はきっと、➡あかちゃん➡babies 食べれます➡可能、受動態➡~れる can /be +pp ➡9か月➡9months 前置詞はいつもむずかしい。for でいいか!と考えながら、また、辞書を引き引き、書いたのであろう。単語を細切れにして、訳しているような気がする。
正しい英語は
Suitable for babies ages 9 months and older.

新浦安駅前(これを私が指摘した 後、撤去されて今はない)

自転車進入禁止➡No Entrance Bicycle
自転車➡bicycles 進入➡entrance 禁止➡noと細切れにして単語を調べて並べた?No Entrance Bicycles は入口自転車なし。という意味になる。
正しい英語は Closed to Bicycles. あるいは No Bicycles Allowed.

横断危険➡Crossing Danger はい、横断➡Crossing 危険➡Dangerですが、だめですか?と訳した人には言われそうだが、まるで「蟻地獄」
のような訳だ。また、その下に タクシープールの横断はやめましょう、という記載がある。これを➡’Don’t walk across a taxi pool.’
としてある、これは一見よさそうに見えるがネイテイブにいわせると、ここのタクシープールという意味なので、’Don’t walk across the taxi pool.’
が正しいということだ。さらに実際の場所を見てもらい、ネイテイブに直してもらった。
この標識の正しい英語は Danger. Do not Cross.
Don’t walk across the taxi stand or taxi pool holding area.

③「だって辞書にはこう載っていましたよ。(+どのように使われているか
確かめなかったでしょ。本当に英語圏ではそのように記載されている?)」タイプ

浦安市交通公園内(修正されて今はなない)

授乳室➡Suckle room 辞書を引くと確かにsuckle roomとでてくるが、
ちょっと直接すぎる。英語圏では次のように表現されている。
Nursing Mother’s Room あるいは Nursing Room

Engrish in Japan

引く(ドアを)➡Draw 引く➡辞書で引くと➡draw, pull, attract, subtractなどがある . 引くは引くでも、線を引く、引っ張る、 注意を引く,引き算するなど色々意味があり、それぞれ違った英語になる。この場合の
正しい英語は手前に引くという意味で Pull

Engrish in Japan

りュックを掛けてください。➡Please multiplied by the bag.
フックなどに「かける」、というところを「掛け算する」の「掛ける」
にしている。multiply 掛け算する
正しい英語は  Please hang your bag on the hook

最初の‘Suckle Room’に関しては、果たしてそれが英語圏では一般的に現場で使われているかどうか検証することなく、辞書にのっているのでいいだろう、と使ったものと思われる。
また、次の「引く」「掛ける」は選んだ英単語がどんな文脈で使われているか調べることなく使ってしまったのだろう。
 
これとよく似た間違いに冗談のような話がある。
アメリカ人の友人から聞いた話だが、彼女の家に英語を習いにきていた
日本人女性がお手洗いに行きたいときに彼女に‘May I borrow your toilet?’と聞いてきて、‘What??’と思わず聞き直した事があったそうだ。
英語で'borrow'はそれを借りてその場から持っていってしまうことだ。
また、'toilet'はアメリカでは「便器」という意味になる。
つまり、’May I borrow your toilet?’というと「便器を持ち帰っても
よいですか?」と同じ意味になる。彼女は 「お手洗いをお借りしてもよろしいですか?」と聞きたかったのだろう。
 
それを聞いていて感じたのだが、これは受験勉強のひずみではないかと
いうことだ。つまり、英単語を勉強する時、英語、日本語を並べて書き、
借りる borrow, 持つ have, 掛ける multiple 準備する prepare
など、単語対単語で覚えていくことが多いのではないだろうか?最近では
文脈の中で覚えようと、例文が充実している単語帳もあるが、
昔は単語対単語で覚える単語帳が圧倒的に多かったように思う。
そうすると、借りる と聞くと自動的にborrowがでてきてしまうのだ。
中年以上の人たちはそういう覚え方をしている人が多いので
おのずとそのような間違いがおこる。

④「英語圏には定型表現があるんだよね。」タイプ

都内で見受けられた標識

自転車から降りて通行してください。➡ Please Dismount from Your Bicycle
これは英語圏では定型表現がある。
正しい英語は Please Walk Your Bicycle

新浦安駅前

一般車一時乗降場➡Private Cars Only これだと「自家用車のみ」と
言っているだけなので、ここは乗り降りする場所という意味が含まれない。
正しい英語は  Pick Up and Drop Off Area

先ほどと同じ例だが、自転車進入禁止➡No Entrance Bicycles
正しい英語は Closed to Bicyclesという

このように、標識などは英語圏で使われている定型文があるのに、調べる手間を省くので正しい表現ができていない。このような標識は長く使われるものなので、英語圏で使われている定型表現にすべきと思う。
 
以上、間違いのタイプとなぜそのような間違いが起こるのかを考えてみた。
その原因となることを十分注意すれば、英語表記はかなり改善されるのでは
ないかと思う。また、日本語の特性が英語のそれと大きく違っているので、
日本語の文をそのまま訳すと間違いが起きる。日本語の特性を意識しながら、
日本語を字面で訳すのではなく意味を考えて訳すことを心掛けたい。
そして、公の標識、看板、案内、説明などは長く残っていく大切な
ものなので、英語ネイテイブスピーカーの最終チェックが不可欠
だということを強く申し上げたい。公のものはその自治体などの
「顔」でもあるので、恥ずかしくない、正確な表記をお願いしたいものだ。
 
 


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