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『異境備忘録』の研究(50) -岩蔵の幽顕往来- ●

#00365 2015.7.21

「我が同村に岩蔵とて漁業を以て家業とする男あり。嘉永五年、大江戸にありて叡山の二本杉を信仰するよりして、三十六歳にて大山僧正に伴はれ万国を巡り、度々伴はれ見馴れぬ所を見し嬉しさに同僚の者に委細を語りて、俄(にわ)かに狂乱を発して江戸より追ひ下され、同村に帰りて後には狂気も治まりて、常人の如くなりたるに、その後も度々異境に入りし由(よし)聞こえければ、我が父常磐が安政五年七月にかの岩蔵を呼びて異境の事を聞きて書記せる中に、大山僧正坊に伴はれて諸山を見巡る条に、相州浦賀港の上を通り伊勢両宮へ参拝し、それより伯耆の大山(だいせん)へ行く。この大山は八丁ばかりの山にて、初めの二丁位の所に清海が滝あり。この時僧正滝へ声を掛け、この度大山本山を相勤むる者召し連れ参拝仕へると申されければ、上の滝にて宜敷(よろしき)と答へあり。

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