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『異境備忘録』の研究(53) -神法道術の限界- ●

#00368 2015.8.8

「先年、阿波国勝浦郡金磯新田村、多田氏の招迎によりて当家に滞泊の砌(みぎり)、同村某の子息十八、九歳なるが狂気を発して、種々様々の術を施せども全快せずとて、余(よ)に、この狂気の鎮まりて平癒すべき祈祷を致し呉れよと云ふに、辞退すれども聞き入るゝ様もなくて、遂に招きに応じて或る日の夕方にかの所に至りけるに、その夜は小松島と云へる所の神宮分教会所の世話方する者等数人寄りて酒宴致し、大に賑ひて深更(しんこう)になりければ、明日は祈祷執行の有様を拝見に来らんとて、皆一礼をなして我が家々に帰る折しも、六月の事なれば蚊帳(かや)を張りて閨(ねや)に入り、一睡して目覚めたるに身体寒くなりて衾(ふすま)を巻きて居(おり)たるが、東北の蚊帳の隅にて青火ボロボロと燃え、漸々(ようよう)に大きくなるに従ひ人の形となりたり。

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