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怪異実話(23) -天狐の霊徳のこと- ●
#00307 2014.8.5
長州萩城下のあたりに松屋甚太郎という者がおり、生まれ付き横笛を好んで小児の頃より明けても暮れてもこれを玩(もてあそ)び、自然とその堪能を極めましたが、家業を疎かにしたため次第に貧しくなり、朝夕の煙も絶え絶えとなりました。妻が嘆いて諌(いさ)めても聞き入れられず、親族が寄り集まって村長に頼み、その技を止めさせようと堅く戒めたため、甚太郎は我が家で弄することができなくなりました。
しかし、元より好きな道であるため止めることはできず、深夜に及んで秘かに家を出て近くの山に入り、「これなら何の恐れもない」として、吹きまくって楽しむことが度重なり、自らも「その所を得た」と悦(よろこ)び、日が暮れるのを今か今かと待ちわびて夜毎に通っていました。
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