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『本朝神仙記伝』の研究(64) -京都仙翁- ●

#00446 2016.11.22

 京都の仙翁はこれまた何人(なんびと)たるを知らず、同地大仏の辺(ほとり)に住める老人にてありきと云ふ。
 始め柳川三省(やながわさんせい)、この老人と折々往来して心安く交はりしかど、異なる人とも思はざりしに、ある時老人、三省に向ひて、「某(それがし)も殊の外(ほか)老年に及びたれば、この世に久しく存在(ながらう)べしとも覚えず、然(しか)るに某が年来心得居る一術有り、某限りにて世に絶へなむも名残(なご)り多く思へども、未だこれを授くべき者見当たらず。先生には御門人も多きことなれば、その中には然るべき者もこれ在るべし。もし実貞なる性質の人を見当てられなば、差し越されたし。その術を伝へおくべし」と云はれしにぞ、三省その後、門人の中にて谷左仲を呼び出し、「この頃、余(よ)、かゝることを聞けり。何事かは知らねど、足下(そっか)行きて学びてみずや」と云はれければ、左仲もこれを頷(うなづ)き、三省の添書を得てかの老人の宅に行き、その由(よし)を申し入れければ、老人これを見て、「三省の選び越されし人なれば、定めし粗略なることは有るまじ、誠にその術を伝ふべければ、何日の日を期して来らるべし」と約しぬ。

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