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怪異実話(31) -神の出雲参集の伴をした人のこと- ●

#00315 2014.9.20

 大和国山辺郡三味田村という所に助五郎という者がおり、父が早く罷(みまか)ったため、母と二人で住んでいました。この者は性質は正直、律儀で孝心も深く、歳は二十八、九ですが利発だったため、領主より村長役を仰せられ、家も富み、奴僕も数多(あまた)仕え、農業を営んで暮らしていました。

 この助五郎が天保三年九月二十四日の朝、その村より三町隔たった権限村に、いつもの衣装のまま煙草入れも持たずに出て行ったのですが、日暮れになっても帰って来ないため、母が大いに案じて権限村に人を遣わして尋ねたところ、「今朝、用事が終わってすぐに帰られました」といい、卜占に頼んでも「狐狸の仕業ではない」とのことで、母は只管(ひたすら)神明に祈りました。
 近村に嫁いだ助五郎の妹もそのことを聞き付け、兄の家に来て竈(かまど)神の神棚に八峰という柿を三つ供え奉り、「どうか兄・助五郎の行方を知らしめ給え」と只管祈り、また村中の人々も騒ぎ立ってあらゆる所を訪ね探しましたが、翌日二十五日の日暮れになっても行方が分かりませんでした。

 その夜、門口より声を震わせて戦慄(わなな)きながら入って来る者がおり、集っていた人々が戸を開いて見ると、昨日出掛けた姿のままの助五郎でした。皆が驚いて訳を尋ねると、助五郎がいうには、「このように泣いているのは、年老いた母に苦労をかけ、村中の人々にも世話になったことを申し訳なく思うからです」とのことで、人々が「そんなことは泣くに及ばない。心を静めて何があったのか語って下され」というと、助五郎は「これには不測の物語があり、皆落ち着いて聞いて下さい」と答え、語り始めました。

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