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『本朝神仙記伝』の研究(62) -信濃女仙- ●

#00444 2016.11.10

 信濃の女仙は、その姓名を詳らかにせず、同国飯田領の人なり。この女仙の仙境に入りたることは、江戸市ヶ谷・自證院に住める西応房(さいおうぼう)と云へる道心坊に依りて世に知られたり。
 然(しか)るは、この道心坊は尾張国中島郡一宮の生まれにて、少年の頃より狩りを好み、飛騨国に行きて狩人と成り、信州は勿論、美濃、加賀、越前、越中等までも、山続きに渡り歩き行きて狩り暮らしたれども、恐ろしと思ひしことも無かりしに、ある時あまり獲物無き故に里へも帰られず、御嶽山(おんたけさん)の麓の方へ深く分け入り、そこに夜を明かして、朝の帰り猪にても狙はんと暁を待ち居(おり)て、夜も明け方になり東も少し白み掛かる頃、小高き峰に上り、獣や来ると四方を見廻らす折しも、遥か向ふの御嶽山の方より篠竹(しのだけ)を分けて来る者あり。不審に思ひてよくよく見れば女にて、段々此方(こちら)を目掛けて来(きた)れり。

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