出産(無痛分娩)に関する備忘録

陣痛


4月から産休に入り、やりたいことは全部やるぞと意気込んでいたけれど(実際、遠方の姉と姪が来て遊んだり、大学時代の先輩と会ったりなどして楽しく過ごした)、猛烈な勢いでお腹が大きくなって夜も寝づらくなり、正直なところもう早く出てきてくれ、な気持ちだった。(赤ちゃんが小さめだったので長くお腹にいてほしいという思いももちろんあったけれど。)

予定日の20日前、パートナーが夜勤で不在の夜、Netflixでアンナチュラルを一気見して(井浦新いいな…)とか思いながらベッドに入った。(後から思えばこの日でアンナチュラル完走できてほんとうによかったと思う。)

深夜2時ごろ、生理痛のような痛みで目が覚めた。どうも痛みに波があって、アプリで計ってみると10分間隔ぐらいなのだが、陣痛はこんなものじゃないだろうという頭があったので前駆陣痛だろうと決めつけてそのまま寝た。夜間ということもあって少々不安になりつつも、痛みで目が覚める→収まって眠るを繰り返しながら朝を迎え、トイレに行ったところ、出血してるではないか。これがおしるしってやつか。けどおしるしがあったからといって即出産とはならないことを私は知っているぞ、と余裕をかましつつ、受付時間の9時を待って念のため産院に電話をかけた。

状況を説明すると、今から来てください、と。

なるほど、一応ね。病院に行っても子宮口が開いてなくて家に帰されるみたいな展開をたまひよアプリで幾度となく見てきた私は、二度手間になったら嫌だなという気持ちでしぶしぶ荷物を準備し、パートナーが帰ってくるのを待って産院へ向かったのだった。






入院 


10時、産院で内診してびっくり、子宮口がもう4センチ開いてますと。無痛分娩の麻酔の処置をしてもいい頃だけどどうする?と聞かれるも、そんなん知らんがないいようにしてくれ、と思ったりする。麻酔を入れると陣痛の勢いが弱まって長引く可能性があるとのことで、まだ耐えられそうなのでとりあえず処置はせず。モニターを付けて様子を見ながら陣痛が強くなるのを待つことに。

12時、陣痛は10分間隔のまま、強さを増す感じもなく時が過ぎてゆく。助産師さんと「痛みどうですか?」「いや、ぜんぜんまだ耐えられるレベルですね…」みたいな会話を繰り返し、私は一旦帰される展開となる気配に怯えていた。助産師さんも迷っているようだったが、「陣痛の波が強くなればすぐにお産が進むだろうから、帰るのは危険」と判断。(そして本当にこの判断がGJなのだった。)
*この助産師さんが最後まで出産の面倒を見てくださったのだが、私たちの妊娠の経緯を知った上で「絶対にいい家族になるよ」「いいお産にしよう」と終始励ましてくださり、本当に神様のような助産師さんでした。この方に我が子を取り上げてもらえたことの巡り合わせは奇跡としか言いようがないと感じています。

そうと決まれば病室で昼ごはんを食べ(お産は体力勝負と言うからしっかり食べておこうなどと思ったのが間違いだったと後に後悔する)、しっかり排便をし(ここでわりと大量に出血。あ、本当にもうすぐ生まれるんだ、と急に実感が湧く)、14時頃、いざLDR室へ。
LDR室では先ほどと同様にモニターで陣痛レベルと胎児の心拍を見ながら、時折子宮口の様子を内診されることを繰り返した。そこそこ陣痛の間隔が短くなってきて、痛みもそれなりに増してきた14時半頃、子宮口6センチとなったところで麻酔の処置へ。このときモニターに表示されている陣痛のレベルは28〜40ぐらいだった気がする。
麻酔科の先生が登場し、背中にプスっと穿刺。想像してたより全然痛くない。普通の注射レベル。


出産



麻酔が効いてきて、それに合わせて促進剤や子宮口を柔らかくする薬を投入される。モニターの数値はいつのまにか98とかになってるけど、体感的には麻酔前の30ぐらいな感じ。これが麻酔の力かと感動。
感覚があるようなないようなの中、いきみたい感じある?と何度も聞かれるがそんなものはないので困惑。麻酔の効きがよいのかお尻の方の感覚がない。が、陣痛が強くなっていくのは感じる。それなりに痛い。お腹というか、腰が痛い。
16時、助産師さんの「私の勤務時間内に産めると思うんだけどね〜」という発言に、(あっそんな感じなんだ)とゴールの目安を感じる。いつまで続くのか先の見えない戦いは辛いものだが、終わりが見えてくれば心持ちが全然違う。日勤のこの助産師さんの終業時刻が17時なのか18時なのかは考えないことにした。とにかく今日がこの子の誕生日になるってことだ。

17時、子宮口全開。急に看護師さんたちが大勢入ってきてバタバタし出す。産科の先生が呼ばれ、いよいよクライマックス感。腰が砕けるように痛い。陣痛のモニターはよくわからないけど120ぐらいだった気がする。麻酔で取れる痛みは7割、という事前の説明を思い出す。これで通常の3割だとしたら、普通分娩ってどんだけだ。
助産師さんの指示に合わせて全力で、いきむこと2回、「はい生まれましたよ!」

(あ、生まれたんだ…)

暫し間が空く。向こうの台で看護師さんに何らかの処置をされて初めて聞こえた産声は、ほにゃあ、とまるで子猫のようなか弱い声だった。
傍に連れてこられた我が子。白くふやけて、むくんで、胎脂と血液でべとべとした、いたいけな生き物。いろんなものが込み上げてきて、「がんばったね」としか言えなかった。その後赤ちゃんは一瞬にして再び別の台へと連れて行かれ、何らかの処置を受けていた。私は会陰を縫われながら先生の頭越しに赤ちゃんの様子ばかりを見ていた。


君だったのか、お腹にいたのは


何が起きているのかよくわからないけれどたぶん産後の色々なことが片付いて、気がつけば先生も大勢いた看護師さんもあの助産師さんもいなくなっていて、LDR室には私の最後の世話をする看護師さんが一人いるばかりになった。赤ん坊は透明なケースに入れられて私の横に置かれている。すやすやと穏やかに眠っている顔を改めて眺める。「こんなに小さな体で、よくがんばったね。えらかったね。」なんだか他にかけてあげるべき言葉があったようにも思うけど、やっぱりそういう言葉しか出てこなかった。自分のお腹でうねうね動いていたあれがほんとうに人間だったということが、まだ信じられなかった。
ふやけた小さな顔を穴が開くほど眺めながら、ぼんやりと思う。感動的で神秘的な今この瞬間に思うことではないのだけど、なんだかすごく、井浦新に似てるな。
生まれたばかりの赤ちゃんの顔は、ガッツ石松か鶴瓶のどちらかのタイプだと聞いたことがあるけど、我が子はかなりしっかり井浦新だった。昨日観たアンナチュラルの記憶が強すぎる。あれから24時間も経っていないことに気が付く。ほんとうに、あっという間だった。

しばらくして赤ちゃんは連れて行かれ、私ひとりになった。疲労と安堵のなかで体を休ませていたとき、突然猛烈な吐き気に襲われ、吐いた。病室でしっかり食べた昼食がぜんぶ出て行った。しばらく緑のキウイは食べたくないなと思った。


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