「時代遅れ」「思考停止の無策」　　　米専門家が辺野古移設計画に疑義

ショーン・ハーディング氏　米ジョンズ・ホプキンス大高等国際関係大学院博士課程

 私わたしは米海兵隊べいかいへいたいで在日米軍再編ざいにちべいぐんさいへんに関かかわったが、米軍普天間飛行場べいぐんふてんまひこうじょう（沖縄県おきなわけん宜野湾市ぎのわんし）の移設いせつをめぐり、（2006年に日米両政府にちべいりょうせいふが合意ごういした）辺野古へのこの代替施設だいたいしせつの現行計画げんこうけいかくは、★現在げんざいの米軍べいぐんの戦略構想せんりゃくこうそうに合あわず、時代遅じだいおくれと言わざるを得ない。
　冷戦期れいせんきや冷戦後ごも日本にほんの基地きちは米軍べいぐんの航空優勢こうくうゆうせいが保たもたれて安全あんぜんだったが、（中国ちゅうごくの）ミサイルの脅威きょういのために脆弱ぜいじゃくになった。米軍は、常駐じょうちゅうする航空戦力こうくうせんりょくを幅広はばひろい拠点きょてんに分散ぶんさんさせる戦略せんりゃくに切きり替かえている。各地かくちの米軍べいぐん基地きちのほか、自衛隊基地じえいたいきち、十分じゅうぶんな滑走路かっそうろを持もつ民間空港みんかんくうこうや港湾こうわんの使用しようもおそらく視野しやに入いれている。
　だが、辺野古へのこの代替施設だいたいしせつは条件じょうけんを満みたさないだろう。滑走路かっそうろが短みじかすぎて、使用しようできる航空機こうくうきが限かぎられる。岸壁がんぺきの大おおきさも十分ではなく、艦船かんせんの使用しようも限かぎられる。さらに自衛隊じえいたいと共同使用きょうどうしようする計画けいかくにもなっていない。
　軟弱地盤なんじゃくじばんなど不明点ふめいてんが多おおく、工期こうきもはっきりしない。本当ほんとうに完成かんせいするかさえ誰だれも自信じしんが持もてないのではないか。工事こうじが長引ながびくほど、普天間ふてんまは維持いじされ続つづけ、不満ふまんが募つのるばかりだ。
　辺野古へのこの代替施設の工事こうじは、問題解決もんだいかいけつにつながらず、より大きな問題もんだいを生うみつつある。皮肉ひにくなことに、普天間ふてんまを使つかい続けることが目的もくてきのようだ。長期的ちょうきてきに、米国べいこくや沖縄県おきなわけんなどだれも勝者しょうしゃにならないだろう。
　工事こうじに巨額きょがくのコストをかけるが、悪わるい投資とうしだと思う。現在げんざいの米軍の分散戦略ぶんさんせんりゃくに合あった他ほかの航空基地こうくうきちや民間空港みんかんくうこうの改良かいりょうに使う方ほうがはるかに良よい。沖縄おきなわの負担軽減ふたんけいげんにもつながるだろう。日米両政府にちべいりょうせいふ、沖縄県の三者さんしゃで信頼関係しんらいかんけいを構築こうちくし、合意ごういの道筋みちすじを探さぐることが最優先さいゆうせんだ。　　
                  　（2023年12月18日朝日新聞　聞き手・渡辺丘、園田耕司）

写真：辺野古沿岸部へのこえんがんぶ。南側みなみがわは埋うめ立たてが進すすんだが、北側きたがわ（写真手前しゃしんてまえ）の大浦おおうら
　　　湾側わんがわは軟弱地盤なんじゃくじばんが広ひろがり、埋め立ては進んでいない=2023年12月8日
　　　午前、沖縄県名護市、朝日新聞社機から、吉田耕一郎撮影
 

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〈ことば〉再編…編成へんせいまたは編集へんしゅうしなおすこと。
　　　　　編成…個々のものを組みたてて１つのまとまったものにするこ
　　　　　　　　と。
　　　　　移設…今そこに設けてある建物や設備を他の場所に移すこと。
　　　　　優勢…勢いがまさっていること。より勢いきいがあること。
　　　　　脅威…威力いりょくや勢いにおびやかされて感かんじる恐おそろしさ。
　　　　　脆弱…もろくて弱いこと。
　　　　　拠点…活動のよりどころとなるところ。
　　　　　戦略…戦争や闘争などに勝つための大局的、長期的な計画。
　　　　　視野に入れる…考えたり判断したりするためのの要素とするこ
　　　　　　　　　　　　と。
　　　　　軟弱地盤…建物や工作物の土台となる地面がやわらかいこと。
　　　　　不満が募る…物足りなくて満足しない気持ちが大きくなる。
　　　　　構築…組み立てて築くこと。

 

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1 ★「現在の米軍の戦略構想」はどのようなものですか。
2 辺野古の代替施設にはどんな問題があるとハーディング氏は言っています
　か。　4つにまとめてこたえなさい。
3「～と言いわざるを得えない」は「どう考えても～だ」「～と強く思う、言
　う」という意味です。次つぎの動詞どうしを使って、「～ざるを得ない」の文を作っ
　てみよう。
　　① 捨すてる
　　② 買かう
　　③ あきらめる
　　④ たのむ
 

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＊もう一度読んでみよう。

 私は米海兵隊で在日米軍再編に関わったが、米軍普天間飛行場（沖縄県宜野湾市）の移設をめぐり、（2006年に日米両政府が合意した）辺野古の代替施設の現行計画は、★現在の米軍の戦略構想に合わず、時代遅れと言わざるを得ない。
　冷戦期や冷戦後も日本の基地は米軍の航空優勢が保たれて安全だったが、（中国の）ミサイルの脅威のために脆弱（ぜいじゃく）になった。米軍は、常駐する航空戦力を幅広い拠点に分散させる戦略に切り替えている。各地の米軍基地のほか、自衛隊基地、十分な滑走路を持つ民間空港や港湾の使用もおそらく視野に入れている。
　だが、辺野古の代替施設は条件を満たさないだろう。滑走路が短すぎて、使用できる航空機が限られる。岸壁の大きさも十分ではなく、艦船の使用も限られる。さらに自衛隊と共同使用する計画にもなっていない。
　軟弱地盤など不明点が多く、工期もはっきりしない。本当に完成するかさえ誰も自信が持てないのではないか。工事が長引くほど、普天間は維持され続け、不満が募るばかりだ。
　辺野古の代替施設の工事は、問題解決につながらず、より大きな問題を生みつつある。皮肉なことに、普天間を使い続けることが目的のようだ。長期的に、米国や沖縄県などだれも勝者にならないだろう。
　工事に巨額のコストをかけるが、悪い投資だと思う。現在の米軍の分散戦略に合った他の航空基地や民間空港の改良に使う方がはるかに良い。沖縄の負担軽減にもつながるだろう。日米両政府、沖縄県の三者で信頼関係を構築し、合意の道筋を探ることが最優先だ。
　　

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〈こたえ〉
1 常駐する航空戦力を幅広い拠点に分散させる戦略に切り替えている。各地
　の米軍基地のほか、自衛隊基地、十分な滑走路を持つ民間空港や港湾の使
　用もおそらく視野に入れている。
2 ① 滑走路が短すぎて、使用できる航空機が限られる。
　② 岸壁の大きさが十分ではなく、艦船の使用も限られる。
　③ 自衛隊と共同使用する計画になっていない。
　④ 軟弱地盤など不明点が多く、工期もはっきりしない。
3 例 ① 買ったばかりの野菜やさいだが、半分以上腐はんぶんいじょうくさっているので捨すてざるを得な
　　　　い。
　　 ② それが必要ひつようだと思わないが、先生せんせいの指示しじなので買わざるを得ない。
　　 ③ 今いまの成績せいせきでは、希望きぼうする大学はあきらめざるを得ない。
　　 ④ チケットが欲ほしいと思おもったら、高くても彼に頼たのまざるを得ない。

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