預貯金債権への情報取得手続(改正民事執行法)
1 改正民事執行法(令和2年施行)により、金融機関等に対する預貯金債権への情報取得手続が可能となった。この預貯金債権への情報取得手続は、全国の本支店の全部の預金口座の残高情報を照会する方式(以下「全店照会方式」という。)による情報取得ができるため、債務者の財産を発見する手続として極めて実効的である。
2 そもそも、従来の実務では、債権者は、勝訴判決などの債務名義を得た後、金融機関等の各支店を特定して預貯金債権への差押えをしなければならなかった。そのため、債務者の自宅近くの金融機関の支店に対して当て推量で差押えを実施してみるものの、十分に奏功しないという事例が多く存在した。また、最近は、弁護士会照会(弁護士法23条の2)を利用した場合には、メガバンクなどが全店照会方式にて各支店の残高情報の開示に応じてくれる運用になっていたが、全ての金融機関等がこの運用をしているわけではなく、法整備の必要性が指摘されていた。
3 しかし、預貯金債権への情報取得手続は、前述のとおり全店照会方式による情報取得手続が可能となったため、例えば、A銀行に対して情報取得手続を行った場合には、全国にあるA銀行の各支店の預貯金残高が一度の手続で取得できる。
さらに、複数の金融機関等を同時に選択して情報取得手続を申し立てることができるため、例えば、A銀行、B地方銀行、C信用金庫、D信用組合の各支店の預金残高を一度の手続で取得することも可能である。
したがって、債権者としては、預貯金債権への情報取得手続を利用することによって、一度に網羅性の高い債務者の預貯金債権の情報を取得することができるようになった。
4 さらに、預貯金債権は資金移動が容易であるため、密行性の確保が重要であるところ、この点についても、裁判所の預貯金等に係る情報提供命令正本は、債務者に送達されることはなく、また、第三者から情報提供がなされた旨の通知は、債務者に対しては、一定期間が経過した後に行われる運用となっている。
5 なお、振替社債等に対する情報取得手続についても、複数の証券会社等を同時に選択することが可能であり、債務者が保有する有価証券等を発見するために利用することが期待できるところである。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?