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宅建業免許なき者が名義を借りてその利益を分配する合意の効力(最高裁令和3年6月29日判決)

1 宅建業免許を有しない者が同免許を有する者の名義を借りて不動産取引を行い、当該不動産取引に係る利益を、両者で内部的に分配する旨の合意をした場合に、当該分配合意の効力が私法上有効であるかについて、最高裁判所で判断が下された。

2 最高裁令和3年6月29日判決(民集75巻7号3340頁)は、「無免許業者が宅地建物取引業を営むために宅建業者からその名義を借り、当該名義を借りてされた取引による利益を両者で分配する旨の合意は、同法12条1項及び13条1項の趣旨に反するものとして、公序良俗に反し、無効であるというべきである。」と判示した。
  その上で、「前記事実関係等によれば、本件合意は、無免許者である被上告人が宅建業者である上告人からその名義を借りて本件不動産に係る取引を行い、これによる利益を被上告人と上告人で分配する旨を含むものである。そして、被上告人は本件合意の前後を通じて宅地建物取引業を営むことを計画していたことがうかがわれる。これらの事情によれば、本件合意は上記計画の一環としてされたものとして宅地建物取引業法12条1項及び13条1項の趣旨に反する疑いがある。」とした。
  なお、上記判例は、原判決を破棄して、高等裁判所に差し戻しているが、これは、名義貸しが宅建業法13条1項違反というためには、名義借り人が、「営利の目的で反復継続して行う意思のもとに宅建業法2条2号所定の行為をすること」が必要となるため、そのような事情の有無を審理させるためではないかと推測されるところである。

3(1) そもそも、宅建業法は、宅地建物取引業を営む者について免許制度を採用しており、無免許者の営業及び宅建業者による名義貸しを禁止し(宅建業法12条1項及び13条1項)、これらの違反について刑事罰を定める(同法79条2号、3号)ものの、私法上の効力については何ら規定されていない(いわゆる行政法規)。
 (2) このような行政法規に違反する行為については、かつては、原則として私法上の効力に影響を与えないとの見解が有力であったが、近時は、行政法規に違反する行為は、一定の条件のもとで私法上の効力を否定すべきとする見解が有力に主張されている。
    確かに、行政法規に違反する行為については、行政法規の目的やその違反の態様によっては、反社会性が強いと言わざるを得ないものがあり、その場合には、民法90条(公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。)に反すると評価される場合があり得るというべきであろう。

4 なお、上記判例で注意すべきは、公序良俗違反により無効となるのは、名義貸し人と名義借り人との間の内部的な合意であり、名義を借りてされた外部者との売買契約自体が無効となるものではない点である。したがって、不動産の買主又は売主が、違法な名義貸しをしていたことを理由に、その売買契約が公序良俗に反するとして無効を主張することができるわけではない。

5 上記の判例によって、今後、その他の事例において、行政法規に違反する行為における私法上の効力がどのように判断されていくのか注目されるところである。例えば、①サブリース新法の勧誘規制に反して行われたサブリース契約の効力、②無免許の貸付業者が行った違法な貸付契約における利息合意等の効力、③無免許宅建業者が行った違法な仲介契約の仲介手数料の効力などが挙げられるが、そのような行為についても最高裁の判断が待たれるところである。
【執筆者:山口明】

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