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譲渡担保の被担保債権の範囲

1 動産譲渡担保及び債権譲渡担保を設定する場合、その譲渡担保契約において、「被担保債権」が必ず設定される。実務上、被担保債権を抽象的な文言のみで記載する事例もあるが、その場合に、被担保債権の範囲、すなわち、どの債権まで被担保債権としての対象に含まれるのかが争いになることがある。

2 この点については、明確に法律に定めがあるわけではなく、また、議論としても十分に尽くされていない状況である。ただ、「債権譲渡担保権設定契約書(参考例)解説書」の2頁によれば、「『担保権者(乙)が設定者(甲)に対して現在及び将来有する一切の債権』といった包括的な被担保債権の定めによる契約は有効性に議論があることに留意する必要がある。」とされており、また、「純粋の包括的な被担保債権(つまり全債権)を認めるべきかは、議論があろう。柔軟に考えたいが、根抵当の制度があるから、これに準じることが適正であろう。」(竹内康二「倒産実体法の契約処理」253頁)といった記載がある程度である。

3 とはいえ、不動産における根抵当の制度がある以上、譲渡担保においてもその法理が一定程度は参考になるものと考える。この点について、最高裁平成5年1月19日判決は、被担保債権の範囲を「信用金庫取引による債権」として設定された根抵当権の被担保債権には、信用金庫の根抵当債務者に対する保証債務も含まれると判示した。
  同判決の中で、「信用金庫取引とは、一般に、法定された信用金庫の業務に関する取引を意味するもので、根抵当権設定契約において合意された『信用金庫取引』の意味をこれと異なる趣旨に解すべき理由はなく、信用金庫と根抵当債務者との間の取引により生じた債権は、当該取引が信用金庫の業務に関連してされたものと認められる限り、全て当該根抵当権によって担保されるというべきところ、信用金庫が債権者として根抵当債務者と保証契約を締結することは、信用金庫法53条3項に規定する『当該業務に付随する・・・その他の業務』に当たるものと解され、他に、信用金庫の保証債権を根抵当権の被担保債権から除外しなければならない格別の理由も認められない」と判示した。
  同判例における調査官解説(26-27頁)によれば、「右根抵当立法は・・・一切の取引上の債権を担保するという取引包括根抵当も否定し、いわばその中間をとって、債務者との取引の種類によって被担保債権の範囲を限定することを要するとしたものである。したがって、この『一定ノ種類ノ取引』による限定は、被担保債権の具体的範囲を決する客観的基準として第三者に対しても明確なものでなければならない。」としつつ、「商社取引」という指定を不可とした理由として、「商社の場合には、銀行などの場合と異なり、その業務範囲が法定されているわけではなく、現実にもその内容は複雑多岐にわたっているのが実情である。このような事情を考えると、商社取引という取引の種類の指定によって、債権の範囲を画することは困難である。」などと説明している。

4 したがって、銀行などのように法律に業務範囲が法定されているものについては、「銀行取引」といった記載をした場合であっても客観的基準として第三者に対しても明確であると評価しやすいが、商社や一般の事業会社などにおいては、その業務範囲が法定されているわけではないから、抽象的な文言で被担保債権を記載した場合であっても、その有効性や対象となる被担保債権について疑義が生じる可能性があることに留意が必要である。

執筆者:弁護士 山口 明

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