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サブリース契約締結時に注意すべき事項

1 投資用ワンルームマンションなどはサブリース契約を締結している事例が多く存在するが、サブリース契約は、「家賃保証等の契約条件の誤認を原因とするトラブルが多発し、社会問題化」(国土交通省の「賃貸住宅管理業務等の適正化に関する法律(概要版)」より)したことから、賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(以下「サブリース新法」という。)が成立し、施行されることになった。そこで、サブリース契約における契約条件のトラブルをできる限り避けるため、契約を締結する際に注意すべき事項を、サブリース新法の内容も踏まえながら説明する。

2 まず、サブリース業者は、サブリース契約を締結しようとするときは、契約を締結するまでに、一定の重要な事項について、書面を交付して説明しなければならない(サブリース新法30条)。この説明は、「契約内容とリスク事項を十分に理解した上で契約を締結できるよう、説明から契約締結までに1週間程度の期間をおくことが望ましい」(国土交通省の「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方」26頁より)とされている。あくまで「望ましい」とされていることから、説明から契約締結までに必ず1週間程度の期間をおく義務があるわけではない。しかし、契約締結までにリスク等を熟慮する時間が一定の期間あったほうが良いことは間違いない。したがって、重要事項の説明を受けた日にすぐに契約締結することはなるべく避けたほうがよいし、サブリース業者が説明後すぐにその場で契約締結を求めてくるような場合には、慎重な対応を検討したほうがよいこともある。

3 また、サブリース契約に係る広告においては、一定の事項について、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をすることが禁じられている(サブリース新法28条)。例えば、①「国土交通省としましては、『○○保証』などの表記は打消し表示をしていたとしても、無用な疑義や誤解を招きトラブルに繋がる可能性があることから、表記の修正を推奨しております。」(国土交通省の「賃貸住宅管理業法 FAQ集(令和3年4月23日時点版)」15頁)との記載があり、②また、体験談を用いることは、体験談とは異なる賃貸住宅経営の実績となっている事例が一定数存在する場合には、28条違反となる可能性がある(上記FAQ集15頁参照)などとされている。したがって、「○○保証」という表示や「体験談」などの記載を鵜呑みにするのではなく、しっかりと契約内容を理解した上で、リスク等を検証していくべきである。

4 さらに、サブリース業者がサブリース契約の締結の勧誘をするにあたっては、不当な勧誘等が禁止されている(サブリース新法29条)。例えば、相手方等に迷惑を覚えさせるような時間の電話や訪問勧誘(サブリース新法規則44条1号)や、契約を締結又は更新しない意思を表示した相手方等への執拗な勧誘(同条4号)も禁止されている。そのため、これに違反するようなサブリース業者との取引については、慎重な対応を検討すべきである。

5 上述したとおり、サブリース業者から重要事項の説明を受けること、広告を鵜呑みにしないこと、不当な勧誘等を行う業者とは取引しないことは重要なことであるが、それ以上に大切なのは、サブリース契約書の各条項をしっかりと理解して、そのリスクを把握することである。以下において、サブリース契約で確認しておくべき重要なポイントを説明する。
 (1) 契約期間
    まず確認したいのは、賃貸の契約期間である。契約期間は、各業者によって様々で、2、3年を契約期間とするもの、10年、20年あるいは30年を契約期間とするものもある。賃貸の契約期間を定めた場合には、後述する中途解約条項がない限り、契約期間の途中で解約することはできない。
   例えば、契約期間が20年である場合、その間に事情が変わって自ら物件を使いたい場合などでも、サブリース会社が任意に応じてくれなければ契約を解約することができない。他方で、契約期間が短い場合には、サブリース会社から契約期間満了時に更新を拒絶されれば契約が終了するため、短期で更新を拒絶されるリスクが高まる。したがって、自身が購入する物件の用途や性質などに応じて、契約期間を慎重に検討する必要がある。
 (2) 中途解約条項
    次に確認したいのは、中途解約条項があるか否かである。中途解約条項とは、賃貸借契約の当事者が、契約条項に定める要件・手続に従った解約申入れを行うことによって、契約期間の途中での解約を認める条項である。賃貸の契約期間が長期に亘る場合であっても、中途解約条項が定められていれば、解約の申入れを行うことができる。
    ただし、中途解約条項がある場合であっても、その内容にかかわらず、賃貸人(オーナー)から解約申入れを行う場合には、「正当事由」がなければ解約が認められない点に留意が必要である(借地借家法28条)。
    しかし、中途解約条項がない場合には、「正当事由」の有無を検討するまでもなく、契約期間の途中で解約申入れをすること自体ができない。したがって、中途解約条項があるか否か、どのような要件手続で解約できるのかについては、十分に確認しておく必要がある。賃貸人から解約を申し入れた場合に、賃貸人から相当額の違約金を支払わねばならない旨の条項がある場合などもあるため、十分に留意が必要である。
 (3) 賃料増減額請求に関する条項
  ア さらに確認したいのは、賃料増減額請求に関する条項である。賃貸借契約書には、賃料増減額請求を行使できる場面、要件などが規定されていることが多いため、その内容について十分に確認しておく必要がある。例えば、10年間は、賃料の増額も減額も請求できないという条項があった場合はどうか。一定の期間賃料増額請求ができない旨の特約は有効である(借地借家法32条1項但書)ものの、賃料減額請求ができない旨の特約があっても、賃料減額請求権の行使は妨げられないと解されている(最判平成16年6月29日判決など)。
    したがって、上記のような条項がある場合、賃料増額は一定期間できないものの、賃料減額は行うことができるという一方的な内容になることを理解しておく必要がある。なお、契約書にどのような記載があるにせよ、借地借家法32条に基づく賃料減額請求は行うことができると解されており、賃料が減額されるリスクがあることを認識しておく必要がある。
  イ 加えて、賃貸借契約書に、賃借人から賃料減額の請求があった場合には、当事者間の協議が調わない場合であっても、調わない間は、賃借人が減額を請求した金額を暫定的に支払えば足りるという条項などが設けられている場合がある。しかし、このような条項は、賃貸人にとって不利なものであるため留意が必要である。すなわち、借地借家法32条3項は、「建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。」と規定しており、賃料減額の請求がされた場合であっても、裁判が確定するまでは、賃貸人が相当と認める額(これは従前の賃料であると解されている。)の支払いを請求できる。すなわち、借地借家法上は、例えば、月10万円の賃料について、8万円に減額するという請求を受けても、賃料減額調停などが確定するまでの間は、月10万円を賃借人は暫定的に支払う必要がある。しかし、上記のような条項が契約書に設けられている場合は、賃借人は暫定的に8万円を支払えばよいことになるため、賃貸人にとっては不利な内容となる。

6 以上のとおり、サブリース契約を締結する場合には、まず、サブリース業者がサブリース新法を遵守しているかどうかに注意することが重要である。そして、それだけでなく、実際のサブリース契約書の内容の重要な部分を確認しておくべきである。そうすることで、できる限りのトラブルを防ぐことができる。

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