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匿名組合出資(匿名組合契約)における営業者の義務

1 商法535条は、「匿名組合契約は、当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益を分配することを約することによって、その効力を生ずる」と規定している。そして、当該契約に基づいて行われる匿名組合員の出資を匿名組合出資という。また、出資を受けて営業を行う者を営業者という。そして、営業者は、出資者である匿名組合員に対してどのような義務を負うのかが問題となる。

2 まず、営業者は、匿名組合契約に基づき、出資を使用して営業を行い、その営業から生じた利益を分配する義務を負うと解されており、①営業者が契約に違反して営業を行わない場合、②約定以外の目的のために出資を使用した場合には、契約の本旨に反するため、債務不履行に基づく損害賠償責任を負うと解される。
  また、営業者は、匿名組合員に対しては、民法上の組合の規定の類推適用によって、善管注意義務(民法671条、民法644条)を負うと解するのが通説であるとされている。
  なお、営業者の善管注意義務を具体的に判断した裁判例として、①「本事業は訴外会社株式の上場に伴う株価の上昇を期待して進められていたものと窺われることから、被告会社は、本件契約に基づく善管注意義務により、合理的な投資判断として、上場時までに適宜の時期及び価格により訴外会社株式を取得し、これを保持ないし増加すべきこととともに、仮に損失の危険性を生じた場合には適宜の方法によりその最小化に努めるべきことが求められていた」と判示した事案(東京地裁平成24年5月24日判決)、②営業者は、「組合財産を自己の固有財産及び他の組合の組合財産と分別して管理する義務、並びに、適切な運用委託先を選定した上、委託した出資金を適切に管理する義務に違反し、本LLPの組合員として負う善管注意義務に違反したといえる」とした事案(東京地裁令和3年7月29日判決)、③営業者に、善管注意義務違反、忠実義務違反及び報告義務違反があったことを認めた事案(東京地裁平成24年4月27日判決)などが挙げられる。

3 さらに、営業者が匿名組合と同種の営業を行わない義務(競業避止義務)を負うか否かが問題となるが、特約がない限り、営業者は競業避止義務を負うと解するのが通説であるとされる(近藤光男・商法総則・商行為法[第4版]・187頁/基本法コンメンタール商法総則・商行為法[第四版]・127頁/田中誠二・新版商行為法(再全訂版)・164頁)。そして、これに違反した場合には、営業者に対して損害賠償責任を追及できる。
 
4 加えて、最高裁平成28年9月26日第三小法廷判決は、①匿名組合契約の営業者が行った一連の行為(出資、引受け及び売買等)は営業者の代表者等と匿名組合員との間に実質的な利益相反関係が生ずるものであったこと、②一連の行為は匿名組合員の利益を害する危険性の高いものであったことを指摘して、このような事実関係の下で、営業者が上記一連の行為を行うことは、匿名組合員の承諾を得ない限り、営業者の善管注意義務に違反すると解している。この最高裁に関しては、匿名組合契約の営業者が負う善管注意義務の内容に利益相反行為の避止義務が含まれるという解釈の是非は判決文からは明らかではないとされるものの、競業避止義務と利益相反行為の避止義務をパラレルに考えるならば、営業者は、善管注意義務の内容として、一般的に利益相反行為の避止義務を負うという解釈に繋がりやすいとされる(最高裁判所調査官(当時)中野琢郎・ジュリスト1506号105頁)。 

5 そのほかにも、ほしいままに営業を廃止し、またはこれを他人に譲渡することはできず、営業者が匿名組合員の承諾を得ないで、任意に営業の変更・休止または廃止をし、もしくはその譲渡をした場合には、単に不履行による損害賠償若しくは契約の終了又は解除の問題を生じるとする見解もある(西島ほか・商法(総則 商行為)講義・161頁)。
  また、会社法362条4項各号に定めるような行為を行う場合、株式会社において株主総会決議を要するような事項について、匿名組合員の承諾を要するか否かについては、議論が十分にされておらず、その結論が明らかではない。

6 以上のとおり、匿名組合契約における営業者は、善管注意義務、競業避止義務、利益相反の避止義務等を負うものと解されているものの、善管注意義務等の内容は一義的に明確とは言い難いため、疑義を生じさせないためにも、匿名組合契約に、どのような行為が義務違反になるのかを明記しておくべきであると考える。

【執筆者:弁護士山口明】

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