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医療法人の持分の払戻請求権について

1 医療法の改正により、平成19年4月1日から持分ある医療法人は設立できなくなったが、それ以前は、そのほとんどが持分の定めのある医療法人であった。現在も、経過措置によって既存の出資持分のある医療法人はその存続を認められている。そして、当該医療法人の定款においては、退社時及び解散時に「出資額に応じて」返還を請求することができる旨の規定が存在することが多い。そのため、当該医療法人を創業した持分を保有する理事が死亡し、その配偶者等が持分を相続した上で、医療法人を退社する際に、払戻しを受けることができる金額がいくらになるのか問題となる。

2⑴ そもそも、医療法人は、設立後に一定年数を経た場合には、多額の資産(内部留保等)を形成しているときがある。払戻しの際に、当該時点の資産を基準にして払戻しをしなければならないとすれば、医療法人にとって大きな負担となり、場合によっては存続すら危ぶまれる事態になることもあることから、実務的には大きな問題となっていた。
⑵ そのような中で、最高裁平成22年4月8日判決(民集64巻3号609号)では、「本件定款は、8条において『退社した社員はその出資額に応じて返還を請求することができる。』と規定するとともに、33条においてYの解散時における出資者に対する残余財産の分配額の算定について『払込出資額に応じて分配する』と規定する。本件定款33条が、Yの解散時においては、Yの残余財産の評価額に、解散時における総出資額中の各出資者の出資額が占める割合を乗じて算定される額を各出資者に分配することを定めていることは明らかであり、本件定款33条の『払込出資額に応じて』の用語と対照するなどすれば、本件定款8条は、出資社員は、退社時に、同時点におけるYの財産の評価額に、同時点における総出資額中の当該出資社員の出資額が占める割合を乗じて算定される額の返還を請求することができることを規定したものと解するのが相当である。」と判示した。
⑶ しかし、「B分の出資金返還請求権の額、Yが過去に和義開始の申立てをしてその後再建されたなどのYの財産の変動経緯とその過程においてBらの果たした役割、Yの公益性・公共性の観点に照らすと、Xの請求は権利の濫用に当たり許されないことがあり得るというべきである。」と判示している。そのため、当該払戻しが、医療法人の存続が危ぶまれる事態になるような場合には、その果たした役割や、公益性・公共性を踏まえると、それが権利濫用になる場合がある。

3 また、最高裁平成10年11月24日判決によれば、「原審の適法に確定した事実関係の下においては、被上告人の設立後約11年を経て被上告人に多額の資産が形成された後に上告人が被上告人に入会したことを考慮した上で出資持分の払戻しとして上告人が被上告人から支払を受けるべき額を算定した原審の判断は、原判決の説示に照らし、正当として是認することができる。」と判示している。そのため、法人の設立後の一定期間経過後に出資が行われた場合には、その持分は、ある程度制限される可能性もある。

4 したがって、医療法人の存続にとって好ましくない出資持分の払戻請求があった場合には、①医療法人の財産の変動経緯と過程において当該出資者の果たした役割、②当該医療法人の公益性・公共性、③いつの時点で出資を行ったのかといった事情を説明していく必要がある。

【執筆者:弁護士山口明】

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