同素体の話

皆さまはじめまして。私は大学院で化学系の研究をしている者です。名前は二ヒコテとでも呼んでいただけると嬉しいです。国語は苦手なので文章作成にはあまり自信がないですが優しい目で気楽に読んでいただければ幸いです。

今回紹介するのは同素体です。同素体というのは同じ元素なのに結合している原子の数や配列が異なるが故に性質が異なってしまう元素の事です。中学高校では「同素体はスコップ(SCOP)で掘る」で教わりましたかね?・・・硫黄S、炭素C、酸素O、リンPの元素記号を合わせるとSCOPになるんですねー。

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しかし高校では同素体の名前を覚えて終わり。これではもったいない!ということで今回は同素体についての話をしようかと思います。取り上げるのはSCOPの先端部分のSとCです。

硫黄の同素体で習うものは斜方硫黄単斜硫黄ゴム状硫黄の3つです。この3つしかやらないだけで硫黄の同素体は本当は30個近くあるとされています。そもそも斜方・単斜って何?という疑問の声があるかと思います(高校生は気にならないようですが・・・)。これは大学の内容です。大学内容がしれっと出てくるって・・・恐ろしいよ!

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斜方(晶系)と言うのは結晶系(結晶を結晶軸の数・長さ・角度などの観点から分類)の一種で、単位格子が互いに直交する3本の長さの異なる結晶軸を持った結晶の事です(超ざっくり)。霰の結晶や鉱石の橄欖(かんらん)石、更にはフェーリング液の中のロシェル塩がこの結晶系に該当します。

単斜(晶系)も結晶系の一種で、3本の結晶軸のうち、単位格子の上下の軸と前後の軸が斜交し、左右の軸はこの2本の軸両方に直交するという違いがあります。セッコウや雲母、更には耐熱性セラミックスの原料となるジルコニアもこの結晶系に該当します。

ゴム状は言葉の通りです。ゴム弾性があるためそう名付けられています。ここから分かるのは、斜方硫黄と単斜硫黄の構造自体は結構似ているという事です。事実そこまで大差はありません。硫黄8原子が王冠のような形の環を構成しているのは一緒です(そのため化学式ではS₈と表されます)。ファンデルワールス力によって結合している結晶となります。

では斜方硫黄と単斜硫黄の違いは何なのか。まず似ているとは言え結晶系が違う以上見た目は相異なります(単斜硫黄は針状結晶という表現もされているようです)。単斜硫黄は斜方硫黄を高温の空間に放置してできるため、単斜硫黄の方が体積は大きく、密度は小さくなります。なので単斜硫黄は常温では不安定のため斜方硫黄に戻ろうとします。ただ化学的性質(両者二硫化炭素に溶解するなど)は基本一緒です。

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ゴム状硫黄は二硫化炭素には溶けません。当然です。だってゴム状硫黄は高分子化合物ですから(そのため化学式ではSxと表されます)。勘違いしている方も意外と多いのですが、高分子化合物=有機化合物ではありません。無機化合物にだって高分子化合物は存在します。ゴム状硫黄は無機高分子化合物の一種となります。ゴム弾性を持つので無機ゴムとも言われます。

次に炭素の同素体の話。同素体の中で一番面白いのに名前だけ覚えさせて黒鉛とダイヤモンドの話を少しして終了。これはいけない。炭素の同素体として有名なものは、黒鉛(グラファイト)ダイヤモンドフラーレンカーボンナノチューブグラフェン辺りでしょうか。

一応少しだけ黒鉛とダイヤモンドの話をします(特筆したいのは本当はこっちではないのですが)。黒鉛とダイヤモンドの違いは中学高校で習うかと思います。炭素よりダイヤモンドの方が硬いとか黒鉛は電流を通すがダイヤモンドは電流を通さないなどなど。なぜそうなるのかは分かりますか?この辺もあまり詳しくは触れないようです。

結論結晶構造が異なるからです。ダイヤモンドはσ結合という共有結合結晶を形成する結合のみを持っており、電子を全部結合に使った極めて硬い3次元構造となります(下図参照)。一方黒鉛にはσ構造に追加してπ結合という弱い結合も存在します。黒鉛は炭素原子がもつ最外殻電子4個のうち3つを結合に、残りの1個を自由電子として結晶内を自由に動かせるようになっています。そのため黒鉛は電流が流れるが、結合はダイヤモンドよりかは軟らかい2次元構造となるのです。ちなみにアルケンの二重構造のうち、1個がσ結合でもう一個がπ結合です。そのためアルケンは片側にのみ自由に動かせるのです。これが幾何異性体を生じさせる原因となります。

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それではフラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェンの話に突入します。どうしても文章が長くなってしまうのは今後何とかします。ゴメンね。

フラーレンはC₆₀などと表せることやサッカーボール状のような形であることは知っている方もいるとは思います。フラーレンが発見されたのは1985年。発見者のクロート、スモーリー、カールは共にノーベル化学賞を受賞しています。驚くべき事にフラーレンが発見されたのはたった11日間の出来事なのです!実は日本でもフラーレンの存在は豊橋技大の教授が予言していました。更に1994年に6500万年前のK-T境界層からC₆₀フラーレンが見つかっています。長年かけて研究されたわけではなく、偶然の産物なのです。

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フラーレンの特有の性質について話します。様々な分野でフラーレンが注目されています。まずフラーレンは電子親和力がものすごく強い(2.7eVもあります)ため、陰イオンになりやすいのです。更にフラーレンにアルカリ金属を合成させた化合物(K₃C₆₀など)は超伝導という性質を持ちます。超伝導というのはある温度(臨界温度)を境に電気抵抗が0になることです。電気抵抗が0ということは、発電の際に熱エネルギーなどのロスが生じないという事です。臨界温度さえ保てる環境が出来ればこの超伝導を生かしてエネルギーロスを大幅カットすることが可能となります。他にもサッカーボール状の硬い構造からコーティング剤に混ぜることでダイヤモンド相当の硬さを実現できるのではないか?と言われています。光に反応して触媒活性を示すことから光触媒、太陽電池としての利用も現在研究されています。ナノテクノロジーの分野以外の例だと抗酸化作用が非常に強いため、美容面でも注目されているのです。

カーボンナノチューブは1991年に飯島澄男先生が発見しました。名前の由来通り、微少(ナノ)な炭素(カーボン)の筒(チューブ)です。カーボンナノチューブの凄い点は、シートの巻き方によって、金属にも半導体にも寄せられるという事です。またゴムのように伸びる性質も持っているので既に炭素繊維としてテニスラケットや自転車のフレーム、スノーボードやシャフトなどにも利用されています。更に物理化学が好きな方なら聞いたことがあるかと思われる宇宙エレベーターの実現に現在最も近いとも言われている素材です。

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グラフェンは最近になって注目されるようになった新素材です(下図のようにシート状になっているためグラフェンシートと呼ばれます)。C原子6個がベンゼン環と同じ構造を作るため、ベンゼンと同じ芳香族炭化水素に分類されます(grapheneの名前の由来がgraphite+芳香族炭化水素の語尾eneです)。理論上最も丈夫な素材と言われています。そしてグラフェンは地球上で最も薄い物質であるとも言われています。更に熱伝導率はダイヤモンド超え、電流密度耐性世界一位、破壊強度世界一位、電荷移動度世界一位、完全な物質不透過性をもつなどなど。太陽電池や熱マネジメント材料、濾過材料としての利用がされています。まだまだグラフェンの研究は途上段階ですが、グラフェンの豊富な性質から更なる用途が見込まれています。

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このように、同素体は本来は知れば知るほど沼に沈む内容なのです(特に炭素は)。炭素の同素体は世界中で注目されています。炭素の同素体が私たちの生活を変える日はもうそんな遠くないかと思います。・・・なんて言って研究者に圧をかけてみる(笑)

前回の記事で次回からは短くすると言ったのに結局長くなってしまいました。でも炭素の同素体はどうしても書き切りたかったので許してください。次回からは本当に短くします。絶対。絶対。絶対。絶対。絶対。・・・・・多分

皆さまとの出会いに感謝、略してC₁₀H₂₂です!

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