令和6年7月豪雨について棚卸し

始めに、被害にあわれた方にはお見舞いを申し上げます。亡くなられた方のご遺族にはお悔やみ申し上げます。安否のわからない方のご家族には一刻も早い発見をお祈り申し上げます。

今般の豪雨について未だ現在進行形ですが、今思うところの棚卸しを兼ねて書き出しておきます。

一枚の写真で十分

どこぞの大統領候補ではないが、一枚の写真やひとつの言葉が時に計り知れないインパクトを生むことがある。7/27朝にひとつのツイートを引用した。山形県に住む人間として、今回の豪雨がどのようなものだったのかを理解するにこれ1枚で十分だと思った。
前提条件として現地は写真のような状況(レベル5)だが、例えば同じ最上川中流の大石田町は氾濫警戒水位・レベル3にすら到達していない(支流は別)。しかしそこから下流の丹生川・最上小国川・鮭川はいずれもレベル4ないし5になっている。この間わずか1日である。いかに庄内最上で(ここ50年近く)前例のない大雨に見舞われたのかが窺える。

事前の予測と当日

・事前の予測はどうだったか。7/24夕方~夜は本荘由利地域特に子吉川水系を中心に豪雨となった。前日MSMで南下してくると予想していた雨雲のラインが南下せず同じ場所にとどまるか若干北上した。R4.8豪雨の際も南下すると思われた雨雲のラインが南下せず、同じ場所で大雨が続いて特別警報級となった。なぜ南下しないのかバックビルディングが関係しているとは思うが、個人的にはまだしっかり説明できるほど整理できていない。

・夏場(亜熱帯)の気象予測の嫌らしい点は、一度見込みがずれるとそのずれがしばらく連鎖し続ける点で、7/25は更なる豪雨に見舞われた。7/24梅雨前線が南下してこなかったように、今度は予測に反して前線が北上しいかなかったかもしくは、もっと広い意味の前線帯で大雨となった。
個人的には早朝の雨雲の状況は把握できていないが、午前9時台に酒田市街地に黒色の浸水キキクルが出現した時点で大雨特別警報の発表を確信した。皮肉なもので大雨自体は予測できなかったが、この雨雲のようにある程度の時間的空間的に拡がり(スケール)のある現象が起これば、ちょっとやそっとでは解消されない、しばらく持続する(=状況はもっと酷くなる)と考えることができる。
実際お昼前には庄内で雨がやや収まったように見えたが、危険度がすぐに下がる訳も無く、13時前から新たな雨雲のラインが鳥海山周辺にかかり始めたところで特別警報の発表となった。

週末と週明け

・7/26日中~7/28の山形県は、気象情報(解説)で示された予想に反して大雨になっていない。先行降雨による警報の継続はあったが、新たな警報の発表はなかった。7/24~7/26未明とは異なり夏の太平洋高気圧に覆われ、500hPaで高気圧性曲率の場であることを踏まえると当然かもしれない。それにしても高気圧の縁辺流という状況は変わらず実際蒸し暑いドン曇りの天気が続く中で、(怒られるかもしれないが)せめてもう少し降っても良いのでは?というのが率直な感想である。上空の気圧配置が原因なのか、先日の水蒸気量が異常に多かったのか気になるところである。東北北部の層状性降水は的中している。

・週明けの予測について。7/29~7/30にかけて北海道を低気圧が東南東進する。これに伴い北海道~新潟で大雨が予想される。山形県でも低気圧から伸びる前線が南下するタイミングで、暖湿気の流入(水蒸気フラックス)や収束が強まり大雨になると思われる。と7/26(金)夕方の時点から考えていたが、気象情報(解説)も煽る割に雨が降らず、ついに7/28夕方の情報では「警報基準を大きく上回るような大雨」との表現が無くなっている。それでも先日の豪雨被災地にとって危険な予想雨量であることは変わりない。厳重な警戒をお願いしたい。

・週中頃からは。8月に入ると東北地方は日本の東と西から高気圧に覆われる。これまでは西日本付近を覆う高気圧の縁辺を大回りして日本海側に暖湿気が流入していたが、今度は南風の入りやすい場へと変化する。日本海側では夏の季節風により厳しい暑さとなって、熱中症などのリスクが高くなる。復旧作業に当たっては暑さにも留意していただきたい。
また、日本の南海上は広く低気圧性循環の場となる予想で、東北地方も週末から来週にかけて何らかの影響を受ける可能性もある。今後の予想に注目していきたい。

山形県内の被害

・新庄市の新田川で警官2人が流され、7/28現在1人の死亡を確認、1人の身元不明の遺体を収容している。細かい話だが報道ではもっぱら大字名を引用した本合海と言われているが、個人的には大坪の方がしっくりくる。救助を要請した車3台計3名の方が何をしていたのかは情報が出てこないが、7/25深夜の状況からして立ち退き避難を試みていたと考えるのが自然だろう。新田川は山間部を流れる中小河川で、H30.8など最近の豪雨でも氾濫を起こしている。もっとも当時の状況からして命に係わる危険な状況だったのは、この現場に限ったものではなくどこで誰が被災してもおかしくなかったと思う。

・酒田市大沢では80代の女性の行方が分かっていないと7/27午後から報道されている。7/25午前中に夫と共に立ち退き避難を試みて、荒瀬川にかかる橋を渡っている最中に流されたとのこと。特別警報が出されるよりも早く個々の中小河川では危険な状況(キキクルでいえば赤色~黒色)になっていたこと、家屋の状況は不明だが結果的に立ち退きをあきらめて籠城していれば助かったかもわからない。

・7/28夕方にJR東日本より新庄駅を発着する3路線の鉄道をしばらく運休すると発表があった(陸羽西線は以前から代行バスを走らせていたが、こちらも同じく再開の見通しが立っていない)。
庄内最上の被害の全容はまだわかっていない。

キキクルの活用

・最後に、ここまで読まれた方向けにキキクルの活用方法を紹介して終わりたい。キキクル(危険度分布)はご存知、土砂災害や低い土地の浸水、川の氾濫の危険度を視覚的に表したもので、色が濃くなるほど命に係わる状況であることは言うまでもない。そしてあまり知られていないが、キキクルは予測情報である。土砂災害は2時間後、浸水害は1時間後、洪水害は3時間後の危険度の予測を反映している。キキクルの色の濃さに反して今は現地の状況が悪くなくとも、このあと急激に状況が悪くなる「嵐の前の静けさ」であることを知って早めの安全確保につなげてほしい。