象ちゃんからの電話から数日後
一本のビデオテープが届いた。
僕は早速、ビデオを再生した。
「皆さん、こんばんは。ようこそグリークシアターへ」
ソニーの大画面テレビに司会者が映し出された。
「昨夜も、その前夜もチケットは完売。一つ言っておこう。これはただのコンサートではない。一つの事件だ。さあ、日本から来たアメリカ初のサウンドを温かい拍手でロサンゼルスに迎えよう。イエロー・マジック・オーケストラ!」
幕が開いた。細野晴臣、坂本龍一、高橋幸宏の三人は、例によってそろいの赤い服を着ている。松武秀樹が巨大なシンセサイザーの前に陣取り、渡辺香津美がギター、矢野顕子はキーボードで参加している。
オープニングは「ビハインド・ザ・マスク」だ。人民帽をかぶった幸弘が正確なビートをたたき出す。彼のドラムは機械のように律儀だが、機械にはない人間的なグルーブも兼ね備えていて、バンド全体に素晴らしい躍動感を与えている。
教授がボコーダーを通した機械的なボーカルを入れ、顔の上半分を覆う黒いマスクをつけた細野がシンセサイザーで淡々とベース音を鳴らす。松武が操作する巨大なシンセサイザーにはクリスマスツリーのような電飾が張り巡らされ、東京のネオン街のようにピカピカと光っている。まさに東洋の神秘を思わせるステージだ。
派手にギターを弾きまくる香津美と紅一点のアッコちゃんの存在は、黙々と仕事をこなす四人と好対照をなし、絶妙なアクセントになっている。
さらに「中国女」「ライディーン」・・・・。何度も客席を映しているのは象ちゃんの指示なのだろう。観客の反応は最高だ。
本来はザ・チューブスというバンドの前座なのだが、象ちゃんの作戦で「スペシャル・ゲスト・フロム・ジャパン」と紹介させている。音響や照明など、現地の担当者にも袖の下を渡し、前座とは違う特別扱いをさせたようだ。国際文化交流プロデューサーとして一時代を築いた川添さんの薫陶と、象ちゃん自身の経験が見事に生かされていた。
(モンパルナス1934/村井邦彦✖️吉田俊宏)
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