ピンク色のスカート

下北沢駅の前にある坂を上った服屋さんでフリルのたくさんついたピンク色のスカートを買ってから3日がたった

東京ってすごいなーと思いながら早くも3日がたってしまって、福岡行きの飛行機に乗る日がやってきた。元々は夜行特急のサンライズに乗って帰る予定だったのだが翌朝の一限に出るため夕方の飛行機に切り替えたのだ。10時にチェックアウトを済ます。ずっと気になっていた焼き物屋さんに行ったりサブウェイで朝食を食べたりしているとあっという間にあと2時間程しか東京で過ごせなくなっている。やばい。とはいえ4日目ともなるとお互いに疲労困憊で、でもせっかくの東京がもったいないから下北沢にいくことにする。

初めて降り立つ下北沢は渋谷や恵比寿より少し空が近くて、それでも人がたくさんいて。たった1時間強のためにコインロッカーを借りるのも面倒くさかったのでスーツケースを引きながら古着を見て回る。元々私は古着を着るタイプではないのだが、下北沢というのなら話は別だ。だって下北沢なんだもん。

アラームをセットし言われるがままに店をめぐる。フリフリの服が欲しいのだ。なかなか思うような店に出会えないままただひたすらに歩く。下下北沢から上下北沢まで。店に入る直前の段差をスーツケースを抱えて入り、あまりの通路の狭さに店の外に出るを繰り返す。いったん駅に戻って駅前のアクセサリー露店を物色する。都会の女全員ピアス開いてるらしい。怖すぎる。

やっぱり渋谷にしとけばよかったと少し頭をかすめる。初日に入った109で見た少し緑色に光るレザースカート。あれはたしか5千円しないくらいだったかなぁ。没にした舞台衣装のストックを回想しながらコーディネートを組んでいく。おあいにくもあいにく、おしゃれをして会いたい人も行くような場所もない日常だ。濃いのから薄いのまで緑色6割になったクローゼットを眺めながらたまに誇らしいような愛おしいような気持ちになる。着替えるたび1ミリずつ変わっていくキャラクター。しかし女の子って本当に楽しい。

下北沢駅の前の坂を少し上った先にはおいしそうな食べ物屋さんが連なっていて甘い匂いが漂っている。心なしか道が広い。1つ1つ入っていきたい気持ちをぐっと抑えた。あと30分しかいられない。素敵さと帰れなかったらどうしようという不安で狂いそうになる。でももったいないから歩く、歩く。ガラガラと音のなるスーツケース。何か買わないと帰れない。

目的地だった店の一つ前の角、明らかに好きそうなベストを店の前に出している店に双方合意で入っていく。店の中はやっぱり狭かったけど、お姫様みたいなお洋服がそこら中にかかっていた。(幻だったかも)そこにあった黒のスカートに目が留まる。あまりにもデザインが良いアシメのチュール。持った感じの重みも申し分なく、時差が生まれそうなレースの裾も好みのど真ん中だ。ぶんぶんと開く脳内グリーンクローゼット。しかしなにかがしっくりこない。でも頭から離れないままその店は一度スルー。でもやっぱりさっきの店が忘れられない。

失恋間際の恋の中だぜ、ベイベー。毎回大好きな自分、好きな自分、そうでもない自分をつくっては否定されて壊して壊されて生きている。その度に違う服を着て違う自分になったふりをしてなんとかかんとかやっていっているのだ。緑色6割のクローゼットにはもう着れない私も混じっている。人生三度目のR-1はピカチュウと戦いに行った気がした。もうやめたくて諦めたかった時期に擦りに擦って私を生かしてくれたネタだ。山口を出発するために最寄り駅に向かう道すがら、スーツケースの中のフリップを無視してこのネタにすると決めたとき、なんかすっかり楽しめそうな気分がしていた。精一杯戦って戦闘不能になってなんか楽しかったなって。じっとりとした晴れやかな気分でお酒を飲んでいたのだ。

さて、これからどうしよう。スーツケースを引きながらさっきのお店に戻る。真っ黒なスカートのその横、段のついたピンク色のスカートは悩みなんてなんにもないような幸せそうな顔でこちらを見ていた。残りは13分。値段は4800円。ブンブンと開く脳内クローゼットには、似合いそうな服はいない。不安3割期待3割、4割強のフィーリングでスカートを抱えてレジに向かう。

飛行機で福岡に飛んで新幹線で山口に戻る。クタクタの体でスカートを穿いた。ケツもっと絞りたいなとか、色白がかわいいかもなとか。ネックレスもかわいいトップスも欲しいから単発バイトのサイトとZOZOTOWNを開く。なりたい自分がポンポンと出てきてまた私が顔を出す。だからまだなんとか諦めない。たぶんずっと諦めない。夢が叶うまで諦めないし叶ってもきっと諦めない。そんなことを思った一ヶ月前のこと。頑張れ今の私。



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