まったくセンスのない男

「ヒカルの碁」に加賀鉄男という人物が出てくる。

将棋部部長なのに碁も強く、とにかくカッコイイ。

「将棋を指す」というただ一つの共通点を除いて、僕はまるで正反対(外見は筒井さん似で、性格のひねくれ具合は三谷級)だったが、学生時代は自分もあんな風に強くたくましく生きたいものだと憧れた。

しかし、僕の中学校は夏場でも制服の首元のホックを外すことすらままならないくらい校則が厳しく、漫画の表紙の加賀みたいな自由なファッションはとても真似できない。はぁ~……。

ん。よーく見るとベルトの隙間に扇子を差し込んでいるではないか!

幸いわが家には大会の賞品で貰った棋士の扇子が山のようにある。学校へ扇子の持込みが許されるかは微妙なところであるが、その上に学ランを重ねて着れば見えないので問題なかろう。

というわけで、学校や将棋道場など外出時には必ずベルトに扇子を装着して出かけるようになった。はじめこそ気分が良かったものの、次第に新たな課題が浮き彫りになってきた。立っているときは気にならないのだが、座ったとき扇子の先端がぶすっと胸に突き刺さるのだ。

仕方がないので座位のときは扇子を取り出してべつに暑くもないのに仰いだり、手のひらでくるくる回して弄んだりするが、長時間になるとさすがに邪魔になってテーブルの上に放り投げる。で、そのまま移動教室や大会会場に置き忘れて帰る……。

こうして30本近くあった扇子の数はみるみる減ってゆき、3年ほど前ついに在庫がゼロになった。おかげで猛暑の今日、外に出たとき仰ぐものがなくて困っている。まったくもって「センス」のない男である。

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