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「はやぶさ2最強ミッションの真実」

(これは2023年3月11日に「ないない島通信」にアップした記事です)

「本日、人類の手が、新しい小さな星に届きました」

これは「はやぶさ2最強ミッションの真実」津田雄一著(NHK出版新書)の「プロローグ」にある文章です。

はやぶさ2が小惑星リュウグウに到達し、リュウグウの岩石のかけらを地球に持ち帰る、という壮大なミッションを成功させた、JAXAのプロジェクトマネージャー津田雄一氏が書いた本です。

専門的な言葉が多く、最初は全部読めるかなあと思いながら読み始めたのですが、

これが面白くてね。

惑星探査機開発チームのプロジェクトマネージャーでありながら、津田氏はまるで物語作者のような手腕で
はやぶさ2のプロジェクトを物語っていきます。

もちろん専門用語や難しい箇所はたくさんあるのですが、できるかぎり易しく解説しているし、何より時折はさまれるエピソードの数々がまさに「宇宙兄弟」と重なってきて、読み物として非常に面白くできています。

地球や火星などの惑星は球体なのに、リュウグウはなぜそろばん玉の形をしているのか、とか。

リュウグウはC型小惑星、一方、イトカワはS型小惑星と呼ばれている。違いは何か(望遠鏡で見えるスペクトルの違い)とか。

地球スイングバイとは何か(地球の重力を利用して速度や軌道を変えること)とか。

イオンエンジンとは何か、とか。

どうやって、はるか彼方の小惑星にクレーターを作り、地下物質を採取したのか、とか。

素人でもわかる小ネタ満載です。

しかも、登場人物たちがとてもユニークで、これまた「宇宙兄弟」を見ているかのよう。

たとえば、

「宇宙兄弟」に登場するNASAの日本人宇宙飛行士ムラサキさん、みたいなモヒカン刈りのシステムマネージャーがいたり、若い技術者たちがゲーム感覚で小惑星周回軌道の計算をしたり、マスコットチーム(マスコットはドイツの着陸探査機)のマネージャーである物静かで芯の強いドイツ人女性がいたり、はやぶさ2の打ち上げの際に「宇宙戦艦ヤマト」調の台詞で決めた種子島の職員がいたり・・

また、「リュウグウ」という名前はどのようにして決まったか、とか、リュウグウ上の各地点に命名された日本語の地名にはどんなものがあるか、とか・・

面白いエピソードが満載なのです。

後半は、はやぶさ2がリュウグウに到達してからのミッションになるのですが、もうワクワクしっぱなしでした。

映画「アポロ13」とか「アルマゲドン」とかを彷彿とさせます。

最初のタッチダウンでは、誤差1メートルというピンポイントでリュウグウに着陸したのです!

3億キロメートル彼方の人類未踏の天体に、たった1メートルの誤差でタッチダウンしたというのだから、ものすごい技術です。

1回目のタッチダウン成功の後、人工クレーターを穿つミッションを成功させ、このクレーターで舞い上がった地下物質を採取すべく、2回目のタッチダウンを試みるのですが、もうね、手に汗握る展開で面白かったなあ。

そして、技術力もさることながら、何よりモノを作るのは人間なのだ、ということを明確に表現していて実に爽快です。

チームあってのモノづくりなのだと。日本のモノづくりの原点がここにあるのだと。

ちょっと前に流行ったNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」みたいな雰囲気もあり、男たちの(女性もいますが)心意気というものを存分に感じさせてくれます。

男っていくつになっても少年(子ども)なんだねー。

そして、それを人生の中で存分に味わうことのできるJAXAの人たちは幸せな人たちだ。もちろん困難は山ほどあるだろうけど。

そう思ったのでした。そう思わせてくれる本です。

専門用語など難しいところも一杯あるけど、何とかこなしながら読み進めることをお勧めします。最後は、はやぶさ2プロジェクトに参加したJAXAの一員のような気持になること請け合いです。

津田雄一氏って、科学と文学の両刀使いなのですね。すごいなあ。

 

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