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りんごに不慣れ。 #鉄の馬車

それは、好きなバンドの最高のライブを見た
帰り道のこと


駅に向かうと鉄の馬車が停まっていました
本来ならそこに停まるはずのない車両です


ホーム上では駅員さんが慌ただしく走り回っており、
会話の内容から、その鉄の馬車が
何かを踏んだのだと知りました



やがて、大きなブルーシートが運び込まれ、
あたりにはサイレンが響き渡り、
ホーム上には制服を着た大人たちが
どんどん増えていきました



そこで気付いたのです
踏んだのは物じゃなくて、人の子だ



運行再開を待っていたホーム上の客たちは、
ブルーシートを取り囲む制服の大人たちを
ぱしゃぱしゃと撮っていました



……、



アイツらこそ、踏み潰されればよかったのに



私は、ブルーシートを取り囲む大人たちを
遠くから見ていて1つ気が付きました



あれは、何もかもに絶望してしまった世界線の
私だったかも知れない



私にとって虹の橋とは、すぐ近くにあるものです
振り返って1分も歩けば辿り着く場所にあって、
決して、行ったことも見たこともない
遠くにあるものじゃない


今の私は、好きな音楽によって
かろうじて成り立っている


だからもしも
今日ライブを見たバンドの音楽に出会ってなくて
この世界の全てに絶望していたら、
今あそこでブルーシートをかけられていたのは
私だったかも知れない



そういう未来もあったかもしれない、と



私はそのことを一瞬「良かった」と思って
「これは素直に喜んでもいいことなのか」と思いました



運行が再開されたのは約40分後
無事家には帰れましたが
帰ってすぐ泣きました


たくさんの感情が複雑に絡み合い
糸の強度が感情の負荷に耐えられなかったのです



鉄の馬車に踏まれたのが人の子と知った時
身体の中を駆け上がった不安は、
きっとしばらく忘れないでしょう

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