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カウボーイたちの最後──「イエローストーン」シーズン1

 西部劇は強い。
 それはアメリカの伝統的なジャンルでありながら、時代を越えて、今語るべき物語を様々な作家が見出だし常に進化を続けてきた、時代の写し鏡のようなジャンルでもある。また、神話的な要素を持つこのジャンルは他ジャンルにも強い影響を与えている。なので、例え西部開拓時代のアメリカを舞台にした作品でなくても、そこから西部劇を感じとることも出来る。

  2018年からスタートし、今年ようやく日本上陸を果たした「イエローストーン」は、現代西部劇作家の雄テイラー・シェリダンが制作・監督・脚本を務めた、現代西部劇大河ドラマである。

あらすじ

左から長男リー、三男ケイシー、ジョン、長女ベス、次男ジェイミー

 モンタナ州、イエローストーン国立公園に隣接する"ダットン牧場"。広大な土地を有するこの牧場の主、ジョン・ダットン(ケヴィン・コスナー)は政治の場に置いても強い影響力を持つ、モンタナでも随一の権力者である。彼は牧場で働く長男リー(デイヴ・アナブル)、牧場の顧問弁護士の次男ジェイミー(ウェス・ベントリー)、投資銀行で働く長女ベス(ケリー・ライリー)の手を借りながら牧場を経営していたが、元軍人で現在は先住民居留地で妻モニカ(ケルシー・アズビル)と息子テイト(ブレッケン・メリル)と共に暮らす三男ケイシー(ルーク・グライムス)とは折り合いが悪かった。

 そんな中、開発業者ダン(ダニー・ヒューストン)率いる「パラダイス・バレー開発」がジョンの土地の近くに分譲住宅地を作る計画を立案。ジョンはその計画に強い反発を示す。更には新しい先住民居留地の首長として先祖が奪われた土地を奪い返すという野望を抱えるトーマス(ギル・バーミンガム)が選ばれる。

 遂に、居留地とジョンの土地の間で起きたいさかいをきっかけに、土地を巡る壮大な争いが始まってしまう。そして、ジョンと子供達の関係性も大きく変容してゆく……。

部族化するカウボーイ

 テイラー・シェリダンの世界では、法律はほとんど無意味な存在である。それを守ったところで得はしないし、命も失いかねない。自分の身は自分で守らなければ、シェリダン作品では生きていけない。

 本作、「イエローストーン」の世界にも社会通念や法律は存在しない。ジェイミーは法律面からジョンをバックアップし、ベスはダンに近づき彼の家庭を破滅へと導いていく。また、少年時代にジョンに助けられて以来、彼に絶対的忠誠を誓うカウボーイのリップ(コール・ハウザー)など、前科のある牧場の従業員は牧場のマークの焼印が胸に押され、一生を牧場で過ごす"家族"として扱われる。そして、ジョンの命令次第では脅迫や殺人も厭わない私設軍隊として、彼を影から支える。

 ダットン家の人々は、ジョンと土地のためならば文字通りどんなことでもやる。そんな彼らの一蓮托生っぷりは、皮肉にもかつて西部劇で白人が対立してきた野蛮な部族のようである(相対する先住民首長のトーマスは対照的に老獪な策士)。そして野蛮なカウボーイたちを描くシェリダンの距離感には、動物ドキュメンタリーやモンド映画の味わいが感じられる。その荒々しく力強い世界観とそれを俯瞰する現代的な視点は「イエローストーン」最大の魅力の1つだ。

牧場の何でも屋リップ。実はベスといい仲。


家父長制の終焉

"MY LAND,MY RULES"が全てを物語る

そんな一家の連帯も限界を迎えようとしていた。広大な土地を支配するジョンは、子供達の人生をも支配しようとする。ジョンは子供達を土地を守るための道具と考えている節があり、子供達は"家族のため"というお題目の下、父親のために半強制的に働かされる。次男ジェイミーはそんな父親に対し反発の念を抱き始め、シーズン終盤でジョンの反対を押し切り選挙に打って出る。三男ケイシーもまた、過去に父親と対立した結果、ジョン自らに焼き印を押されている。

 そして、長女ベスは事故死した母親(つまりジョンの妻)に対しトラウマと罪悪感を抱えており、過度な飲酒や暴言を繰り返す、ソシオパス的な人物になってしまっている。そんな彼女の不安定な部分さえも、ジョンは分譲住宅地計画の妨害に利用する。

 威厳とカリスマ性を兼ね備えた父親が子供たちを"正しい"道へと導き、母親がそれを支え、子孫代々の土地と財産を未来永劫受け継いでいく……そんな"古き良き家庭"像はもうとっくの昔に幻想と化している。ジョンもその事には薄々気付いているだろう。だが、彼にはその幻想にしがみついていくことしか出来ない。身体は病に侵され、家族が1人また1人と牧場を去っていく。時代に取り残された男の悲哀には、"古き良きアメリカ"の滅びゆく末路が透けて見えた。

……と書いたものの、「イエローストーン」はアメリカ本国で高評を博した結果、2022年1月段階でシーズン4まで放映され、シーズン5の制作も決定している。スピンオフとなる前日譚ドラマ「1883」も配信されこちらも高く評価されている。
 まだまだ金持ちクソジジイは元気いっぱいってことですな!




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