見出し画像

空を飛ぶ人のゆめ①

 好きになった人とうまくいったことはそれまでなかったような気がする。手紙を書いたり電話で伝えたこともあったけれど、気持ちを伝えることができないまま終わった恋がほとんどだった。

 19歳で好きになった人は26歳社会人。スーツなんて着てるから大学生とバイト先のラフな社員さんしか見てないおれにとってはすごく大人に思えたし、北海道から来たその人の顔立ちと喋り方が他の誰とも違っていて、とても好きになった。初めて会った時その人は友達の好きな人だったのだけど、そのなんか難しい設定がさらにおれを燃えさせてしまって苦しいながらも夢中な恋となった。

 けれど夢中になっていたのはやっぱりおれだけで、のらりくらりとかわされている間に社会人なので転勤することになり、ちゃんと付き合っているのか? という関係性のまま遠距離になってしまった。仙台、名古屋への転勤を経て北海道に戻って転職することになったその人とはどのくらい続いたのだろう。恋の始まりは入院している母に相談したこともあったっけ。小さい頃から誰にチョコをあげるのかも言わなかったおれにしたら、母にとっての初めての恋バナであります。それが友達の好きな人を取る形で始まってしかも7つも年上の社会人でもうすぐ転勤するとかなんとか、さすが若さ、ドラマチック!

 その人が北海道で新しい仕事を始めた頃にはもう母はいなくなっていた。月2、3回気まぐれにかかってくる電話とおれからの一方的なメールだけで繋がっていたけれど、泣き酔い暮らしていたおれを不憫に思ったのか北海道に遊びにおいでよと誘ってくれた。

 中学生の時ほとんど話したこともないくせに好きになった人から年賀状のお返しが来た時に郵便配達の仕事が何よりもよい仕事に思えたように、その時のおれにとって北海道に運んでくれた飛行機がとにかく素敵なものに思えた。初めての乗り物、ただの移動手段と思って乗ったのになにこのアトラクション! 空港の広さも行き交う人の感じも、そして何より飛行機すごい、めちゃくちゃかっこいい!!! 今までこれを見ずに乗らずに過ごしていたのもったいない、見てるだけでも素敵なのに乗ったらどこにでも行けるってもうすごい!! とすっかり飛行機に魅せられる。北海道の土産に飛行機の模型を買ったくらい。働くなら空港の近くがいい、客室乗務員がいい、CAになりたい! 

 英文学科に進んだおれは、日々辞書片手に英文を訳しながらも、文章を書いて生きていくことの厳しさをすぐに知る。軽い気持ちで詩人になりたいって言った中学生のおれ、ばか。なにも読み取っていなかったじゃん。ただ思いを文字にしてそれ誰が読むんじゃ。知れば知るほどおれになんてできない、仕事にできることじゃない、日記帳に書いてろ、と思うように。今じゃ絶対にない、できない。何か働きながらいつかそうなれたらいい、働くとしたらCAが絶対にいい! とまた新しいゆめを見る。

    空を飛ぶ人のゆめ②につづく

#spinel3さんありがとう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?