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2023年日本語非対応ゲームのすゝめ


まえがき

日夜世界中で大なり小なり新たなゲームが膨大に作られる今日このごろ。インディーパブリッシャーもずいぶん身近な存在となり、インディーゲームの多言語一斉展開も珍しくないご時世。とはいえ、日本語非対応のゲームにまだまだ注目作があるのも事実。2023年リリースの中で、自分がプレイしたゲームから10本をご紹介いたします。

本編

1. Pizza Tower

かつて2Dプラットフォーマーはインディーの花形ジャンルと言える存在でした。しかし2018年、Celesteは2Dプラットフォーマーとしてあまりに完成形でした。以来、2Dアクションの天下はメトロイドヴァニアに取って代わられました。5年後、Pizza Towerが出るまでは。

Pizza Towerはワリオランドシリーズの影響下にあり、主人公は通常死ぬことはなく、落下してもゲームオーバーになることもなく続けられます。また、そのストーリーはピザ職人がある日近所に建てられたピザの斜塔、ピザタワーからレーザー砲で店を狙われたため塔へ乗り込むといったもので、出会うキャラクターの数々も荒唐無稽の極みです。そしてカートゥーン風のコミカルでデフォルメの効いたビジュアルはよく動き、見た目に飽きません。死にゲーの系譜にあり、優れたストーリーテリング、美麗なピクセルアートを誇るCelesteとは対照的と言えます。

しかし、そのレベルデザインと操作性は抜群です。走り、滑り、敵を殴っては掴み、壁を登り、大ジャンプまで備え縦横無尽に動き回る主人公が暴れるに相応しいだけの歯ごたえあるステージと敵たち。それなりに難しいのですが、そこは安心。主人公は不死身です。それに、徐々に上達を感じられる難易度曲線や、時として自分が凄腕に感じられるほど巧みに設計されたマップの数々が待っています。ステージのゴールに着いたら始まる脱出パートでは来たマップを引き返すことになるのですが、時間制限の中で駆け抜ける焦燥感と爽快感は来た道とはまるで別物です。

最後に、年間ベスト級に優れたサウンドトラックについても触れておくべきでしょう。その激しいゲーム内容に負けないどころか、それ以上に存在感のある楽曲の数々は一度プレイすれば耳に残って離れないでしょう。

2. Slay The Princess

テキスト、ビジュアル、サウンド、これら三つを繋ぐスクリプトで構成された小宇宙、ビジュアルノベル。小規模開発に向いたゲームスタイルであり、今や世界中で毎日のように新作が生まれているジャンルで、その題材も多岐にわたり、複雑な物語構造を持つものも少なくありません。

勇者、姫、夜の山小屋、Slay The Princessはたったこれだけの世界に、信じられないほど広大な宇宙を詰め込むことに成功しました。勇者はナレーターの声に従って夜の山小屋へ行き、姫を殺す使命を果たす。この古典的RPGを思わせるミニマルで、しかし奇妙なシチュエーションには、膨大な選択肢が用意されています。小屋に行くも行かないも、姫を殺すも殺さないも、その過程での会話や行動における細かな選択肢も思いのままと言えるほど多く、まさにロールプレイング。そして、選択の多さに応えるだけの分岐があり、そのひとつひとつがイマジネーションに満ちています。モノクロの鉛筆画という独特のビジュアルは変幻自在に形を変え、見たこともない光景を好きなだけ見せてくれます。

そして、終わりなき夜へきっと導いてくれるはずです。

3. Void Stranger

倉庫番というパズルゲームの一大ジャンル。マス目上で箱を動かし正しい位置へ動かすというシンプルながら奥深いこのパズルは無数のバリエーションを生み出し、インディーゲームにおいてはBaba Is Youという傑作が花開きました。

Void Strangerは、1マス分だけ床を入れ替えることができる倉庫番です。8bitのビジュアルにチップチューンは古き良きゲームボーイを思い起こさせ、今どきのちょっと気の利いた小規模パズルを彷彿とさせます。一見して。

深淵の奥深くに行くにつれ、徐々に露わになる物語の面白さ、そして時としてクリア不可能なほど難しく、時としてあまりに安直なステージの数々を見送るうちに、このゲームがただごとではないことに気がつくでしょう。気が遠くなるほど果てしない虚空、その底まで落下したいと思わせるほどの謎を前に、時にはなんらかの気付きを得られるかもしれません。そして、その気付きに声を投げかければ、この虚空はきっと声を返してくれるのです。

そのときにはもう、この永遠とも思える空洞の虜です。

4. I Did Not Buy This Ticket

意識の流れをどう表現できるかというのは、近年のビジュアルノベルのひとつのテーマになりつつあるように見えます。2020年のMilk inside a bag of milk inside a bag of milkと、2021年の続編Milk outside a bag of milk outside a bag of milkはシュルレアリスムという手法を採用してこの分野を大きく広げました。古くはADVから続く精神を題材にしたビジュアルノベルは、今日では枚挙に暇がありません。

I Did Not Buy This Ticketもまた、シュルレアリスムを通じ意識の流れを描き出したビジュアルノベルです。葬儀の場で泣くプロである主人公は、精神に支障をきたし夜な夜な不思議なバスに乗り合わせます。そこで出会う奇妙な出来事の数々はコラージュを多用したビジュアルで描き出され、微かな笑いと深い悲しみを湛えています。

なぜ意識の流れというテーマが選ばれるか。それは、目の前に起こる事象と、脳内で走る火花の出会いを直接的に描き出せるからです。人は死の悲しみにどう向きあえるか。その答えを求め、葬儀から葬儀へ、夜から夜へバスは走るのです。

5. Night Loops

2004年のリリースから20年が経とうとする今なお多大な影響力を持つホラーADV、ゆめにっき。イベントからNPCの動きまでスケジュールされた3日間を繰り返し世界の滅亡を救うシリーズ中でも異色のメカニズムを持つアクションADV、ゼルダの伝説ムジュラの仮面。Night Loopsは海辺のホテルで繰り返される1時間の冒険に、両者の魅力を封じ込めました。

奇妙なホテルから迷い込む不思議な空間はモノクロのアイソメトリックビューで描き出されます。神秘的な風景もあれば、狂気的な風景もある夢のような世界。各々に苦悩や願望を持つNPCたちと出会い、また夜へと戻っていくことになります。

その過程で手に入るのは、少しの知識と、そして異能を持つ仮面。仮面の力でさらに夜闇の奥に踏み入り、そして見つけるのです。仮面の中に、自分自身を。

6. Coralina

2023年、Unityのライセンスフィーを巡る騒動は、いまのインディーゲームの隆盛は優れたミドルウェアに支えられていることを改めて教えてくれました。そのひとつであり、Steamでタグになっている唯一のゲームエンジン、RPGツクール。その名に違い数多くの名作ADVがこのエンジンからは生み出されてきました。

Coralinaはメカニズムとしては古典的なツクール製ADVそのままです。主人公はある日突然友人を失い、喋るカラスとともに煉獄に足を踏み入れ不思議な人々と出会う旅に出ます。煉獄の景色はマップごとに全く異なる様相を見せ、多数のアーティストの手によるスチルは場面場面で画風さえ異なり、多面的に冒険を描き出すことに成功しています。まだ物語全体の第一章相当で謎は全く回収されませんが、そんなことがどうでもよくなるほどこのイメージの氾濫は心地よく、いつまでも身を任せたくなります。

第二章はすでにデモが公開済み。旅の終わりを見届けるのを待つのが楽しくてたまりません。そこになにが待っていたとしても。

7. HOW WE KNOW WE'RE ALIVE

グローバルプラットフォーム上でのデジタルダウンロード販売が一般化するにつれ、世界中のゲームが容易に手に入る時代になりました。そしてゲームの世界においても、極めてローカルな物語が逆説的に広く人の心を打つ可能性を秘めていると示したのがVenbaです。

HOW WE KNOW WE'RE ALIVEの舞台はスウェーデンのヨンショーピン市周辺、聖書地帯と呼ばれるキリスト教信仰が根強い地域です。かつて喧嘩別れした友人の死を知った主人公が、死を悼むために故郷へ帰るポイント&クリックADV。町を飛び出した過去と親友の死の真相、両者の陰影が光と雨によって美しく描き出されていきます。捻りの効いたプロットは、故郷に思う所のある方なら胸に突き刺さって抜けない棘となることでしょう。

少なくとも、自分はそうでした。

8. Picayune Dreams

Only UPライク、スイカゲームライク、2023年はバズったゲームのバリエーションが一瞬で、かつ大量に生み出される年でもありました。その流れは2022年以降無数のフォロワーを生み出したVampire Survivorsによって予言されていたのかもしれません。

Picayune Dreamsもまた、Vampire Survivorsライクゲームのひとつ。ハードコアテクノをBGMに宇宙空間で謎の生物と戦い続ける少女を主人公としたVampire Survivorsライク、そこに弾幕シューティング、特に東方シリーズを思わせるボス戦と、ツクール製サイコホラーADVを組み合わせた異形のゲームです。

しかしながら、何度も繰り返しプレイして強化するというVampire Survivorsライクのゲームデザインに、ボス戦という操作面でのプレイヤースキル要求と、ADVというストーリー面での報酬は、驚くほどよく合っています。キャラクターというプレイヤーの想像力を刺激するが故に比較的自由に扱える要素を、接着剤に用いているのも秀逸です。広大な宇宙空間で戦う少女と敵たちの魅力こそが味わいになるでしょう。

9. (the) Gnorp Apologue

クリッカーゲームの源流をどこまで遡るかは諸説あるでしょうが、2013年のCookie Clickerによってそのクッキーの増加量を思わせる爆発的流行を迎えたことは万人が認めるところでしょう。それから10年、Cookie Clickerはアップデートを続け、この宇宙のどこかでは天文学的な量のクッキーが焼き続けられています。

(the) Gnorp Apologueは、小さな生物Gnorpが大きな岩を削ってその破片をもとに文明を発展させていくクリッカーゲーム。一般的なクリッカーゲームには明確な終わりがなく、プレイヤーの日常に寄り添うそのゲーム性に倣って莫大なプレイ時間に応えるだけの実績量を誇ります。一方、(the) Gnorp Apologueには明確なエンディングがあり、クリッカーゲームらしい放置要素を持ちながら、Speedrunモードがあるようにプレイングによっては素早く終わらせることもできます。

いかに迅速に、効率よく数字を大きくするかがクリッカーゲームの鍵ですが、(the) Gnorp Apologueではそこに複数の戦略があります。そして永続強化要素は何度でもポイントを振り直せるため、試行のたびに異なる戦略に挑戦し、自分なりの攻略方法を模索する喜びがあります。ゲーム以外の日常を過ごす間、小さな生き物が働く姿を想像するもよし、無限とも思える採掘へともに挑むもよしの、二度おいしいクリッカーゲームなのです。

10. Lotte

Lotteについては、この文章を読むよりもプレイしたほうが早いでしょう。なぜならば、この2Dプラットフォーマーは5分もあればクリアできるからです。死ぬとハエに生まれ変わる主人公のささやかな冒険。個人開発の一般化に伴い、いまやインディーゲームは文芸や音楽や映像と同等に自己表現の手段となっています。そんな極めて私的なゲームのひとつ、それがLotteです。

あとがき

2023年はいいゲームがたくさんありましたね。2024年も良き年だと証明すべく、たくさんゲームをやっていきましょう。

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