シェイクスピアのセリフ②

たまに英語の古典や名言を和訳したり、翻訳したりして遊んでいます。シェイクスピアの劇のセリフに”slave”という単語があり、その訳語に”下郎”を思いついたので、そのテンションのまま訳してみました。意訳もいいところですが書きます。(後で調べたら”福田恆存”という方がすでにこの”slave”を”下郎”と訳していました。…浅学を自ら晒して恥ずかしい…)

原文のすぐ後に訳を記載しています。

KING RICHARD III :
A horse! a horse! my kingdom for a horse!

リチャード3世 :
馬だ!馬をよこせ!俺の国と引き換えだ!馬をよこせ!

CATESBY :
Withdraw, my lord; I'll help you to a horse.

ケーツビー: お下がりください、陛下、
馬は私めが。

KING RICHARD III :
Slave, I have set my life upon a cast,
And I will stand the hazard of the die:
I think there be six Richmonds in the field;
Five have I slain to-day, instead of him.
A horse! a horse! my kingdom for a horse!

下郎が、俺はもう命を賭けている、死にかけているんだぞ!
戦場には6人もリッチモンドがいたが5人は叩き落としてやった!
馬だ!馬をよこせ!俺の国と引き換えだ!

私は当初、なぜ馬を調達しますよ(I’ll help you to a horse.)と言ってくれている部下(廷臣)に”slave”、なんて酷い言葉を投げつけているのか最初はわかりませんでした。(ケーツビーは決して奴隷とか使用人のような下賤のものではありません。)

しかしネットで他の人の考えを読んでいて気づかされました。

リチャード3世は”(戦いを継続するために)馬をよこせ!”と騒いでいるのですが、ケーツビーはこの馬を逃げるために使うと勘違いしているんですね。だから”お下がりください”(”Withdraw,”)なんて単語を使っている。

でもリチャード3世はあくまで戦う気です。もう俺の人生、命は賽の目しだいだ(I set my life upon a cast)と覚悟は決まってしまっている。(あと”stand the hazard of die”の部分もおもしろいんですが割愛します。後できちんと書きたいとは思います。)

そんな人が”戦うために”馬を要求しているのに、”逃げるために”馬を要求していると勘違いされたら、そりゃあ怒るでしょう。この期に及んで逃げようとする人間だと思われるのも悔しいですし、王として、男としてのプライドもあると思われます。

いやぁ〜でもこの部分だけでも十分楽しいですねシェイクスピア。
ちなみに私はこの劇を観たことも本で読んだこともありません😅
でもおもしろいです。さすがシェイクスピア。

以下は少し英語の文法的、単語ごとの解説

I think there be six Richmonds in the field;

なんでthereの後ろが原形のbeが来てるかというとshouldが省略されているからです。

省略しないとこのようになります。
I think there ( should ) be six Richmonds in the field;
意訳: 戦場には6人のリッチモンドがいたと思ったが;

これは受験英語にもある”that節の中のshouldの省略”というものです。

次に

Five have I slain to-day,

これは日本語でいうと倒置法みたいな感じで目的語が文頭に来ている、加えて述語動詞あるい助動詞は文の2番目に置きたい、という英語とかドイツ語の習性のせいでこうなっています。正常な順番だとこうです。*(Richmond)をfiveの後ろに補っておきます。

I have slain five (Richmond) today,
訳: 私は今日(リッチモンド)5人を倒しました。

んー…普通!

これだと迫力もないし、戦場の切迫感というか臨場感がない…(訳のせいかもしれませんが。)だからシェイクスピアはわざと語順を崩したのでしょう。

to-dayは現代の英語のtodayです。

slayはslainの過去分詞形で、slainはドイツ語のschlagenと同じ語源で”打つ”→”打ち倒す”→”倒す”→”殺す”と意味が変遷していったようなので、ここは上品に(リチャード3世だって腐っても王侯貴族ですから)”叩き落とす”と訳しました。戦場で王侯貴族が馬から叩き落とされるのは死とほぼ同義でしょう。実際に叩き落とされてるのはリチャード3世のほうで既に死に体ですが。

ここまででだいたい2000字で、長くても記事はこのくらいまでにしようと思うので今回はこれで終わります。

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