【読書記録:1】「樹海考」 村田らむ著 晶文社

本屋で深い緑色の美しい表紙が目を引いた。
タイトルは「樹海考」という少し物々しい感じ。

他に何冊か樹海について書いた本があったけれど、帯の“人はなぜ「樹海」に惹かれるのか”という文句に誘われて選んでしまった。帯ってやっぱすごい。
帯の文句に負けず、とても興味深く自分の知りえない世界を知れたので、読んで正解だった。

“樹海”のイメージは、御多分に洩れず“自殺の名所”であり、どこか仄暗く神秘的なイメージだった。…が、この本を読んで考えはかなり変わった。私が思っていたような湿っぽいものではなく、もっとドライで更に混沌とした場所であると感じた。

そもそも、樹海のある青木ヶ原周辺はは観光名所であり、ゴルフ場や宿泊施設なども多いらしい。全く知らなかったけど、確かに富士山は有名な観光名所だし、自然なことのように思える。でも、なかなか静岡方面で観光に行くことになっても、青木ヶ原樹海の周辺へ行こうという話にはこれまでの人生ではなかった。

著者は樹海の中で何度か死体を見つけているのだけれど、それについて書かれている箇所がどこか淡々としていて、少しユーモラスな感じで、重くなりそうな話もかなり読みやすい。人の死について書いているので、ユーモラスもへったくれもないのだが、亡くなった人を貶めるような書き方はされてなく、嫌な感じはしない。
キノコの写真を撮りに来た女性イラストレーターと一緒に樹海に入り、その時に限って死体を発見してしまうくだりなんて、最終的にはほのぼのとしたエピソードっぽくなっていた…いや、そのこと自体は大変なことなのだけど、文章が上手いのでさらっと読んでしまった。

自殺した方が残していったものの中に、食料や携帯ゲーム機や音楽プレイヤーなどがあるという。もう死のうとしている人も、最後にゲームや音楽を聴くんだと思うと少し胸が痛くなった。その残されたカセットテープを持ち帰って聞くとかすごいなぁ…でも、その気持ちも少しわかるような気がする。自分だったら、ガンダム00のOPとかTWO-MIXを聴きたいかなと思ったが、逆に生きる気力が湧いてきそう。オタクで良かった…。

この本の中で衝撃的な登場人物の一人は、「死体マニアのKさん」という方。死体を見つけるために樹海散策を趣味にしている人物なのだけれど、世の中には変わった趣味の人がいることのトップクラスかもしれない。確かに普通のサラリーマンだったら、死体に遭遇することはほとんどない。合法的に見つけるには、樹海は唯一の場所なんだろうな。富士の樹海は自殺のメッカと言われているけど、死体マニアの方がいることを知ったら、そこで最期を迎える人が案外減るのでは?…って、思い詰めてる方にそんな余裕はないか。とにかくこの人に関する描写は衝撃の連続。あんまりここでは書けないけど、興味のある方は読んでみてください。私はちょっとウッ…となりました(^^;;)
よく言われることだけど、生きている人間の方がよっぽど怖い!この本読んで改めて感じた!!

その他にも、富士の樹海にある新興宗教に取材に行った時の話とか、樹海で遭難しかけた話とか、自分が体験するのは怖いけど、面白いエピソードが盛り沢山。


小説も良いけど、ノンフィクション系のルポってやっぱり面白いなぁ…と感じた一冊だった。