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料理の効用、彼女の場合。

去年、忙しすぎて料理が全然できなくなってしまったというその人は、今年から転職してかなり余裕ができたからあらためて料理を身につけたいのだと言って、わたしの元へやってきた。

シンプルで健やかな食事を求めている人だと感じたので、初回はごはんの炊き方とお味噌汁を丁寧に教えた。彼女が好きだと言ったおばあちゃんが作ってくれたというおかずのような素朴で食べ飽きない料理と一緒に。
材料を変え、組み合わせを変えながら、
作り続けて、彼女の血肉になるといいなと願うものの、からだはすごく素直なのに頭がそれをブロックしていて、すうっと染み込まない印象がすこし。

教室のすぐあとに、コロナになったらしい。軽症だったそうで、時間があるので毎日米を炊いてみたけれど、最初はうまくいかなかった。
「教えてもらったのに、なぜ」と思った。けれど
「素材によって違うから、素材をよく見て」と言われたことを思い出し、何度もやるうちにうまく炊けるようになった。
そのうち、それが生活の柱になって自分にとってとても大事な時間になった。

ある日、近所の公園を歩いていたら、走っている人たちの顔がきらきらと輝いていることに気づいて、
試しに少し走ってみたら、2km走れた。走ることなんか大嫌いだったのに、それからなんとなく走りはじめて、気づいたら生活がととのってきた。
気持ちよく走るためにはどう食べたらいいか、工夫するようになり、ランニングから帰ってシャワーを浴びる自分のためにタオルを出しておこうとしたら、部屋の乱れが気になったから。そうやってだんだん部屋もきれいになっていった。

余計なことを考えなくなって、自己否定をしなくなった。体調が整って、無理をしなくなった。

「自分にごはんを作ってあげて自分を少し守れるようになったから、これを大事にしたいな、と思うようになったんだと思うんです」

これは、「あなたのための料理教室」の生徒さんが
2回目の教室で一緒にごはんを食べながら話してくれたこと。

「強い味方を手に入れた感じがします」
そう言ったお顔が美しくて、私はしばらくぼーっとしてしまって、その日は嬉しくて、すぐに眠れなかった。

https://nichijyoryori.com/class/

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